高座に上がるときに落語家が着ている着物は、いわばトレードマークのようなもの。そして欠かせない小道具が扇子と手ぬぐいです。なぜ落語家は着物を着ているの? 扇子と手ぬぐいはなんのために持っているの? 私たちが当たり前のように目にする落語家のファッションやスタイルについて少しでも意味を理解していたら、もっと落語のおもしろさを実感できそう。
落語家の制服・着物が落語家たる証
「落語家はどうして着物を着ているの?」 落語が生まれた江戸時代はみんな着物を着ていたから? 実はこの質問に対して正しい答えはありません。しいて言えば「落語家らしいから」。古典落語に登場する旦那さんや庄屋さん、おかみさんなどの人物や動物を着物で演じてきたから、着物が一番表現しやすいのだろうと考える落語家も。なにはともあれ、着物が落語家の証なのです。
落語家の着物は、一般的な着物と同じ。今では色も柄も多様になってきているが、かつては黒紋付に袴と決まっていたそう。また、季節によって着るものが変わり、春と秋冬は袷(あわせ)、初夏と初秋は単衣(ひとえ)、夏は麻や絽(ろ)に。紋付羽織は二ツ目になって初めて着ることができる。ちなみに、羽織を脱ぐタイミングは人それぞれ。お辞儀をして頭を上げた瞬間に脱ぐ方もいるし、マクラから本編に入るタイミングで脱ぐという落語家さんもいる。
さまざまな道具に見立てる扇子と手ぬぐい
落語家がさまざまな道具に見立てて用いている扇子と手ぬぐい。高座に上がっておじぎをするときに、扇子は前に置き、客席と高座の境界を意味すると言われている。その扇子は「高座扇子」といい、私たちが普段使う夏扇子よりも大きめで頑丈な作りになっている。手ぬぐいは小道具のひとつだけではなく、落語家にとっては名刺代わり。個性豊かなオリジナルの手ぬぐいを作って、贔屓筋などに配ったりすることも。落語家はそれぞれ凝った手ぬぐいを作り独演会やイベント等で販売したりするので、コレクションするのも楽しいかも。
では、具体的にどんなものに見立てるのかというと・・・。扇子は箸、筆、煙草(キセル)、刀、釣り竿など、長いものなら大小さまざま。ほかに盃やそろばん、徳利などにも変身。新作落語では携帯電話なんかになったりもします。手ぬぐいは財布や手紙、煙草入れなどに見立てることが多いが、落語家が自分の額の汗を拭いたり、口をぬぐったりする実用面でも利用。扇子と手ぬぐいを何かに見立て、より効果的に見せるという技も落語家の芸のひとつだ。
WRITING/MACHIKO MIYATA
【特集】気軽でたのしい!ハマル落語
若者の間で、空前の落語ブーム到来!と騒がれている近年。それならどんなものか聞いてみたいけど、なんとなく敷居が高そう・・・と思っている人も多いのでは? でも大丈夫、予備知識は不要です。頭を空っぽにしてぼーっと噺に耳を傾けていると、いつの間にかクスっと笑えたり、お腹がよじれるほど大笑いしたり、身を乗り出して夢中になっている自分に気付くはず。今まで経験したことのない新たな世界に、即ハマること間違いなし!