沖縄県・宮古島市 宮古上布の工房を訪ねて(前編)
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珊瑚礁に囲まれた美しい海と手つかずの自然が広がる宮古島。
400年以上もの間、手作業だけで守り続けてきた伝統工芸品の宮古上布や郷土料理店など、
歴史や伝統を大切にする丁寧な暮らしが今もしっかりと息づいている。
慌ただしい毎日の中で忘れかけていた大切なことを思い出して
更新日:2016/12/13
伝統を受け継ぐということ

最高級の麻織物と言われる宮古上布の奥深さに魅せられ、織りの世界に入った羽地直子さん。すべて手作業で作られている緻密な宮古上布に感動したと言う。宮古上布で仕立てた着物は、繊細でありながら丈夫なのが特徴。羽織ると驚くほど軽く、艶やかな質感にファンが多い。
そんな宮古上布の魅力を娘たちに伝えようと、10年前、「工房がじまる」を設立。現在は娘の美由希さんと3人で、原料の苧麻(ちょま)の栽培から布になるまでを勉強しながら、製作を行っている。
宮古上布には5つの工程があり、完全分業制の中、こちらの工房では、絣括(かすりしぼ)り、染色、織りの3つをまかなう。
「宮古上布は宮古島の歴史そのもの。人も自然も文化も、宮古上布を通じて語れるほど奥深いです」と羽地さん。特に糸は、珊瑚が隆起した宮古島の土壌でも安定して育つ苧麻を原料にし、ミミ貝と呼ばれるアワビの貝殻を道具に使うなど、島人の知恵が凝縮されている。
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
アワビの貝殻で苧麻をしごいて繊維をとり、さらに爪で細く裂く。この繊維を拠って1反分の糸を績むには、気の遠くなる日数がかかる。毎週水曜の夜は糸績みのワークショップも開催。
昔、糸を績(う)むのは島のほとんどの女性の仕事だったが、需要が減って技術も途絶えつつあり、今では島のおばぁだけが頼りに。“手績み100%の苧麻を織ること”と定められた宮古上布には、この糸がなにより重要だ。手の感覚のみで績む糸は、人によって太さも風合いもさまざまで、1枚の織物にするのは大変な作業。それでも手績みの糸には、績み手のおばぁの雰囲気や性格、体調の変化、さらにはその日の気分まで表れるのが魅力と言う。


いろんなおばぁたちに会って、少しずつ少しずつ糸を集め、着物や帯を織る。いい糸に出会うと胸が高鳴り、「私が織りたい!」と母娘で取り合いになることも。それだけ糸が不足している中、美由希さんが結婚するときに贈ったのは、羽地さんが織りあげた宮古上布の着物だった。
「長年ためていた残糸を集めて織りました。いい糸を使うと娘に怒られちゃうからね」と、おどける母。「もったいなくて結婚式以来着てないんです」と、いとおしそうに着物を眺める娘。残糸だけで織った着物は、おばぁたちの糸を1本も無駄にせず、娘を思う母の愛がしっかり織り込まれた、世界でひとつの宝物だ。


織手からいい糸績み手になる人も多く、いずれ羽地さんもその道へ。
「母ちゃんが績み手になったら、その糸で着物を織るのが夢です」。そう話す美由希さんもまた、織り以外の技術にも目を向け、現在、絣括り職人のもとで日々勉強中。作業の終わった夜に、糸績みのワークショップも行うなど、母娘二人三脚で技術の継承に情熱を注いでいる。
「工房の名前の由来になったガジュマルの木は、枝を広げて大きくなり、地面に付いた枝が次々と根を張って1本の大木になっていきます。そんな風に、宮古上布を子供や孫につないでいきたいです」。そして今日も工房では、おばぁたちが績んだ糸に感謝しながら、心を込めて宮古上布を織り続ける。
工房がじまる
TEL.0980-76-3629
※ 見学・体験の申し込みはTEL.0980-73-7311(プラネット・フォー)
沖縄県宮古島市下地字川満31-1
営業/10:00 ~18:00 日・祝休
アクセス/宮古空港より車で約5分


宮古上布の制作体験を!
今回ご紹介した宮古上布を実際に作ってみては? 「宮古織物工房」や「宮古島市伝統工芸品センター」でも、制作体験を受け付けています。
◆宮古織物工房(体験工芸村内)
◆宮古島市伝統工芸品センター
森をガイドと歩くツアーなど、宮古上布以外の楽しい体験も!

楽しみがいっぱいの宮古島へ行こう!
沖縄本島( 那覇市)の南西方およそ300km、石垣島の東北東およそ130kmの距離にある宮古群島。宮古島、池間島、大神島、伊良部島、下地島、来間島、多良間島、水納島からなり、なかでもいちばん大きいのが宮古島。亜熱帯海洋性気候に属しているため、冬も温暖で過ごしやすく、宮古上布などの伝統工芸や、マリンスポーツなど、楽しみもたくさん。
全長3540mの伊良部大橋で行ける、伊良部島とセットで楽しむのもおすすめ。2015年に伊良部大橋が開通したことにより、車でもアクセスできるように。コバルトブルーの海はもちろん、ご当地名物の「うずまきサンド」などの食の楽しみや、かわいいカフェに、感動の絶景ポイントもたくさん! 宮古島へ行ったら、忘れずに出かけてみて。
PHOTO/JUNICHI HIRAISHI WRITING/CHIAKI TANABE(Choki!)