史上初の東京産カカオによる純国産チョコレートを完成!10年にもわたる東京カカオプロジェクトに迫る

史上初の東京産カカオによる純国産チョコレートを完成!10年にもわたる東京カカオプロジェクトに迫る

更新日:2021/01/19

チョコレートの原料であるカカオ豆が生産されるのは、中南米や東南アジア、西アフリカの赤道付近。しかし、そんなカカオ豆が東京で作られている。舞台は小笠原諸島の母島で、そのカカオを使ったチョコレートも2019年から販売がスタート。2020年は新商品も登場し、より注目が集まっている。土壌作りから始まった東京カカオプロジェクトについて、立ち上げ当初から携わる平塚製菓株式会社の入江さんに伺った。

営業企画部に所属しながら東京カカオプロジェクトにも携わる入江さん
営業企画部に所属しながら東京カカオプロジェクトにも携わる入江さん

国産カカオ栽培への想いは、戦後より始めたチョコレート製造が起源

明治34年、京都で和菓子店として創業した平塚製菓株式会社。昭和6年に東京市下谷区(現在の台東区西部)に移り、戦後間もなくチョコレートの製造を開始。その後、数十年にわたり自社ブランドやバレンタインデー商品の販売を行い、現在は大手メーカーやブランドのチョコレート菓子の製造をしている。

そんな企業がカカオ栽培に取り組んだのは、三代目社長・平塚正幸さんの“カカオという魅力的な果物を、自分たちの手で育ててみたい”という想いから。

「初めは“とりあえず栽培をしてみよう”という考えだったのですが、実際計画を進めていく中で、せっかくなら“自分たちが作ったカカオのチョコレートを食べてほしい”という思いが芽生えたんです」と、営業部の入江さん。平塚社長を中心とした少人数のチームで2006年、「東京カカオプロジェクト」は始動した。

小笠原諸島の母島は、東京から船で片道26時間の場所にある自然豊かな地
小笠原諸島の母島は、東京から船で片道26時間の場所にある自然豊かな地

夢のMade in TOKYOを現実に!栽培地に選んだ小笠原諸島・母島

プロジェクトチームを発足し、まず行ったのは栽培地探し。カカオは、カカオベルトと呼ばれる赤道を挟んだ南北緯20度以内の地域で栽培されるため、国内でも気温が高い地域が候補。九州や沖縄などの候補地から、成功すれば“Made in TOKYO”として発信できる小笠原諸島を選んだ。

そこには、現在チョコレート業界でも注目されている”サステナブル”というキーワードが関係する。実際、世界のチョコレートメーカーは、生産者の労働環境の整備や効率的な栽培技術の普及などに努め、持続可能性を模索しているが、カカオから作った純国産のチョコレートができれば、持続可能化を実現する新たな方法が提示できる。

「栽培地を決めてからが大変でした。社長自ら小笠原諸島の役場へ協力を仰ぎ、カカオ栽培に協力してくれる農家さん探し。種を取り出すため、前例のない生のカカオの輸入に駆け回り、やっと1000粒以上の種を植え、167本が発芽しました。しかし、そのすべてが枯れてしまったんです」と入江さん。気候条件には問題がなく、その原因は未だに不明。日本でのカカオ栽培の難しさを痛感したそう。

気候・風土を熟知した農家との出会いで再始動!見事、カカオの収穫に成功
左/直射日光からカカオ守るため、可動式の屋根を備えたハウスを特注 右上/土壌を作りのため、本土から重機を運び入れ作業をした 右下/現在は約500本の木が育っている

気候・風土を熟知した農家との出会いで再始動!見事、カカオの収穫に成功

失意の中、新たに出会ったのが小笠原諸島・母島で初めてマンゴーの栽培に成功した折田農園の折田一夫さん。さまざまなフルーツを栽培する折田さんも、カカオ栽培は初めて。しかし、チャレンジ精神旺盛な折田さんとプロジェクトメンバーは、改めてインドネシアのカカオ農園を視察し、栽培計画を議論。

そこで、島の気候や風土に詳しい折田さんと取り組んだのが、土壌作りの大切さだった。まずは、カカオにとって最適な土壌になるよう、土を天地返しするところからスタート。カカオベルトと異なり台風や海風が強いこと、シェードツリーがないことなどから屋外での栽培を断念し、雨風に強い堅牢なハウスを導入した。水やりや温度調節はもちろん、小笠原の農業ならでは肥料・魚滓や手作りの液肥の使用など試行錯誤を経て、現在の栽培方法にたどり着いた。

折田農園・折田一夫さんを中心に東京カカオをプロジェクトに携わるメンバー
折田農園・折田一夫さんを中心に東京カカオをプロジェクトに携わるメンバー

2年の歳月をかけ追い求めた発酵。それにより完成したチョコレート

2011年、折田さんの協力のもと再スタートしたカカオ栽培は、2013年に初めての収穫を迎えた。その後、栽培用のハウスを増設しながら少しずつカカオの収穫量も増えていき、いよいよチョコレート作りが始動。しかし、カカオは現地で発酵と乾燥を経てから輸入されるため、その方法も手探りだったという。

「どうやって、どんな菌で、どのくらい発酵させるのかなど、資料がほとんどなく、まったく分かりませんでした。菌や発酵時間などを変え少しずつ試しながら研究していき、納得がいく発酵ができるようになったのは、約2年後のことです」(同)。チョコレートにとって風味を決める大切な工程である発酵。紆余曲折を経てやっと収穫できたカカオを使うからこそ、時間をかけ、こだわり抜いたのだ。

カカオの豊かな風味を丸ごといただくタブレットとカカオニブ
左/「TOKYO CACAO 2020」1箱(46g)2700円。シックなスリーブに入っており、大切な人への贈り物にぴったり 右/砂糖のコーティングがカカオニブを食べやすくしている「Sucre Nibs」1袋(50g)1080円。砂糖との割合は「TOKYO CACAO」と同じだが、テイストが異なるので食べ比べてみて

カカオの豊かな風味を丸ごといただくタブレットとカカオニブ

ついに土作りからスタートし、土地の気候を生かし栽培したカカオによるサステナブルなチョコレート“Soil to bar chocolate”が完成。2019年、タブレットタイプの「TOKYO CACAO 2019」を初めて発売した。「TOKYO CACAOは東京産カカオの味わいを生かしており、フルーツのような酸味が特徴的。口溶けが良く、風味がダイレクトに伝わるカカオ70%にしています」と入江さん。口に含むと味わいとともにふわりと広がる、フルーティーな香りも魅力で、カカオがフルーツである事を改めて感じさてくれせる。

そして2020年、新商品としてリリースされたのが「Sucre Nibs」。焙煎したカカオであるカカオニブをきび糖でキャラメリゼしたもので、カカオ本来の風味とサクサクとした食感がおいしい。「東京カカオをもっと楽しみたい、という声を受け考案しました。そのまま食べていただくのも良いですが、アイスクリームのトッピングにするのがおすすめ。小笠原で作っているラム酒も少しかけると、大人の味わいになりますよ」(同)。

今後は、商品の展開だけでなく「カカオ豆自体のおもしろさを知ってもらい、食育にも携わりたい」という展望があるそう。三代目社長の「カカオを育ててみたい」というシンプルな想いから始まった東京カカオプロジェクト。チョコレートの味わいやストーリーで私たちを楽しませてくれるだけでなく、世界共通の課題であるサステナブルについて考えるきっかけも与えてくれるはず。

東京カカオプロジェクト

「魅力あふれるカカオの木を育ててみたい」というシンプルな思いから2006年にスタートしたプロジェクト。小笠原諸島・母島で500本のカカオをハウス栽培し、純国産チョコレートの製造、販売を行う。2019年に商品化し、史上初の東京産カカオのチョコレートということで話題に。

販売商品(東京カカオ2020版)
「TOKYO CACAO 2020」1箱(46g)2700円
「Sucre Nibs」1袋(50g)1080円
※オンライン販売のみ
ホームページ
公式HP

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WRITING/MARIA KAWASHIMA、PHOTO/TOKYO CACAO(提供画像)

※記事は2021年1月19日(火)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります