OZmall×Berry's Cafe短編小説コンテスト入選作品『二人だけの甘い聖夜を』

クリスマスホテルストーリー

女性サイト「OZmall」と大人女性に人気の小説サイト「Berry's Cafe(ベリーズカフェ)」がコラボレーションしたクリスマス限定企画。憧れホテルを題材にした「短編小説コンテスト」には、わずか2週間という短い応募期間に、なんと144もの作品が集結。その144作品から選んだ“4つのショートストーリー”を今回一挙ご紹介

更新日:2016/12/22

何の前触れもなくきた、あなたからのお誘い。二人で過ごすイブなんて、いつぶりなんだろう




突然、どうしたのかと思った。


『今年の二十四日は、二人だけで過ごそう』


そんなメッセージがスマホに入ってきたのは、ちょうど一週間前。



仕事から帰ってきた優斗に私がまず聞いたのは、

「瑠夏と駿は? どうするの?」

だった。



結婚して七年。

今年五歳になる長女と、三歳になる長男が生まれてからは、夫婦だけで過ごす時間は無いに等しい。


子どもたちが寝てから録画したドラマを一緒に観たり、その日の話をしながら少し晩酌したり、その程度が二人の時間。

それが当たり前の生活になっているし、疑問も不満もなかった。


結婚して子どもが生まれたら、どの家庭もそうなんだろうし、当たり前。

休みの日だって、子どもたちを差し置いて二人で過ごしたことは今までだって一度もない。


まして、その日はクリスマスイブ。


サンタさんが来ると子どもたちが一年の中でも楽しみにしている大事な日だ。



「家族でやるクリスマスは二十五日にすればいいよ。二十四日は、お袋に子どもたち見ててもらうようにもう話したんだ」


「え?! そうなの?」


「だから心配ないから。お袋、クリスマス孫たちと過ごせるってかなり張り切ってたし、たまには任せてもいいだろ。瑠夏も駿も、おばあちゃん大好きなんだし」




意外だった。

優斗がこんなに計画的で行動的なことなんて、今まであっただろうかと、過去を振り返ってみる。


付き合っている頃から、どこか出掛ける場所だとか、何をして過ごすだとか、そういう計画はだいたい私が提案することが多かった。

優斗がデートプランを立てて過ごすなんてことは過去数えられる程度しかなくて、たいていが私にお任せ。


でも、優斗が私の行きたいところや、やりたいことを優先してくれている優しさはわかっていたし、男のくせにリードしてくれない!なんて不満を抱くことはなかった。


そういうところも優斗の好きなところだった。



「でも……大丈夫かな。一晩預けたことなんてないし、お義母さん大変じゃないかな」


「大丈夫だって、たまにはいいだろ。毎日子どもたちと過ごしてるんだし、ママも息抜きってことで」


「そうかな……」



子どもたちを預けて出掛けることに、心配や後ろめたさみたいな気持ちがないとは言えない。

だけど、優斗が私のために考えて計画してくれたことは素直に嬉しかった。


子どもたちがいないお出掛けなんて、どんな感じだっただろう?


そんなことを考えながら、久しぶりに何を着て行こうかとクローゼットを開いた。




システムエンジニアとして企業に勤めている優斗は、基本は週休二日の日勤制。

でも、土曜日の出勤も交代であったりして、休みが少ない週もたまにある。


約束の今日、二十四日は、そのたまの出勤日で、朝から会社に出掛けていった。



パパが仕事に行ったあとの我が家は、クリスマスイブでも普段と変わらない。


子どもたちが朝の子ども番組を観ながら歌ったり踊ったり楽しそうにしている横で、私は洗濯や掃除の家事をこなしていく。


五歳になる長女の瑠夏は、幼稚園の年中さん。

もう冬休みに入っていて、朝から弟の駿の遊び相手になってくれている。


優斗から今日のことを聞かされた二人は、「ミロチロと遊べるー!」と、ばあばの家に行けることを数日前から物凄く喜んでいた。


お義母さんのところは、猫を二匹飼っていて、二人はその猫と遊ぶのを毎回楽しみにしている。


そんなわけで、今日は朝からばあばの家にお泊まりに行くのを今か今かと待っていた。



二人を送っていくと、お義母さんは快く二人を預かってくれた。


わざわざ子どもたちにクリスマスプレゼントも用意してくれたらしく、

「早く寝たらサンタさんがプレゼント持ってきてくれるからって言って寝かせるから」

なんて言っていた。


「たまには夫婦水入らずゆっくりしてきて」

とも言ってくれて、子どもたちと三人で送り出してくれた。


「いってらっしゃーい」と笑顔で手を振る子どもたちの様子に、心配していたあれこれはフッと軽くなった。




イブの夜の街は、どこを見てもキラキラと眩しい輝きを放っていた。

街のイルミネーションも、店先の装飾も。

すれ違う人々もみんな楽しそうに見える。


待ち合わせ場所の横浜みなとみらいは、デートスポットとしてたくさんのカップルが訪れる観光地。

クリスマスイブの今日は、普段よりも多くの人で賑わいを見せている。


子どもたちが生まれる前は、私たちもよく横浜でデートをしたりした。

中華街で食べ歩きをしたり、赤レンガ倉庫を散歩したり、ランドマークタワーでショッピングしたり。

でも、出産、育児が始まってからは、出かける先はもっぱら子ども優先の行き先へ。

公園だとか、動物園、子どもが楽しめるところへ家族で出かけるのが定番になった。


暗くなってから、こうして一人のんびり街を歩くこともかなり久しぶりのこと。

普段は履かないヒールのパンプスなんか履いちゃって、何だか独身の頃に戻ったような気分になってくる。


約束の時間までまだ少し余裕があり、カフェに立ち寄りカフェラテをテイクアウトする。

コーヒーを片手にイルミネーションを眺めるのが、今の自分にはすごく贅沢な時間に感じられた。


もうすぐ着く、とスマホにメッセージが入ってから、待ち合わせ場所に向かった。


約束の時間、五分前。

まだ優斗の姿は見当たらず、待ち合わせのカップルたちに紛れて到着を待つ。


そろそろかなとスマホを手にした時だった。


「里佳!」


背後からした聞き慣れた声に、思わずビクッと肩を揺らしてしまった。


「ごめん、待たせた」


「ううん、大丈夫」


不思議なことに、名前で呼ばれて一瞬ドキッとしていた。


普段は子どもたちに『パパママ』と呼ばれるように、いつからかお互いを名前では呼び合わないようになっていた私たち。

それが癖みたいになって、二人の会話でも『パパママ』と呼び合っている。


だから、名前で呼ばれるのが何だか新鮮な感じがしてしまう。

そんなこと、なんてことない当たり前で普通なことだったのに。


「行くか」


「あ、うん」


頷いた優斗はスッと私の手を取り指を絡める。

冷え切っていた手が優斗の温かい体温に包まれ、またもやドキリと鼓動が高鳴ってしまった。


手を繋いで歩くのも、一体いつぶりだろう……?




そんなことを考えながら、二人きりで煌びやかな聖夜の街へ繰り出した。


一体いつの間に今日のことを計画してたの?

そう思えるほど、優斗のデートプランは私を驚かせた。


待ち合わせ場所から横浜の街並みを楽しみながら、付き合っていた頃に一緒に行った赤レンガ倉庫のイルミネーションを見に行き、それからランドマークタワーに向かった。


ディナーは、ランドマークタワーのスカイラウンジで、クリスマス限定のコース料理をいただいた。

横浜の街並みを見下ろす絶景を前に、家では食べられないオシャレな料理の数々。

スパークリングワインで乾杯なんかしちゃって、日常では有り得ない贅沢な時間を過ごした。


普段は子どもたちを食べさせながら、自分の食事は二の次になってしまうことも多いけど、今日は目の前に運ばれてくる料理をじっくりと堪能。

ゆったりと流れる時間の中で、こんな風に優雅な気分を味わったのは、子どもが生まれてからは初めてのことだった。


食事が済んでからチェックインしたのは、同じランドマークタワーにあるホテル。


「ここって……」


部屋に入って、真っ先に天井まで続く大きなガラス窓に直行する。


さっきスカイラウンジからも見ていた、眼下に広がる海とコスモワールドの観覧車。

まだ結婚する前、最高の景色を見下ろすこのホテルに二人で宿泊したことがあった。

じわじわとあの時の感動が蘇ってくる。


「もしかして、ここってあの時と同じ部屋だったりしない?」


「よく覚えてたじゃん」


「やっぱり! すごい、どうして?」


「予約する時に交渉してみた。あの時と同じ階の、同じ部屋が空いてたらって思って。ちょっと無理言った感じになったけど」



もう随分も前のことなのに、ちゃんと覚えていてくれたことが嬉しかった。

それに、こんな粋な計らい。感動しかない。



「飲み直すだろ?」


幻想的な夜景に目を奪われていると、ピカピカに磨かれたガラス越しに優斗がワインボトルを見せているのが映る。


「うん、飲む飲む」


いつもとは違う二人だけの落ち着いた空間で、再びグラスの重なるいい音が鳴り響いた。



「子どもたち、どうしてるかな?」



ボトルのワインが半分くらい空いた頃、ふと、子どもたちがどうしているか気になった。


時計を見ると時刻は二十二時をまわっている。



「もう寝てる時間だろ。朝から騒いでたし」


「そうだよね。お義母さん、二人にクリスマスプレゼントまで用意してくれたみたい。今晩寝たら枕元に置くって言ってたよ」


「じゃあ、尚更早く寝たんじゃない?」


「そうかもね」



外で働くのと違って、育児は毎日毎日二十四時間体制で休みがない。

子どもたちには待ったがなくて、疲れて休みたくても許されないし、自分が体調でも崩せば地獄。

お母さんに代わりはいないから、いつでも気を張って過ごしている。


そんな毎日の中で、たまに一人になりたいと思う時だってある。

息抜きしたいなって、思う日もある。


だけど、離れてみると子どもたちのことばかり気になる自分がいる。

やっぱり私はお母さんなんだな、と思うと、自然と笑みがこぼれた。



「パパ、今日はありがとう」


「何、急に改まって」


「嬉しかったから。色々考えて、こういう時間作ってくれたことがさ。毎日、仕事行って大変なのに」


「それ言うなら、俺の方こそいつもありがとう」


「……?」


「家のことも子どもたちのことも、いつも任せちゃって、大変な思いもさせてると思うから」



優斗……。



「いつも、ありがとう。感謝してる」



改まって感謝の気持ちを伝えてもらうことなんて今までなかった。

私の方だってもちろん同じ。

毎日に追われて、思っていてもなかなか口に出して言うタイミングが見つけられなかった。


当たり前の生活を送れていること。

それは、優斗が家族のために頑張ってくれているからこそ存在する。


優斗も私と同じ気持ちでいてくれたとわかると、それだけで胸がいっぱいになる思いだった。




「じゃあ、改めまして……これからも末長くよろしくお願いします」


「こちらこそ」


「よーし、飲もう飲もう! パパ減ってないじーゃん」



ワインボトルに向かって伸ばした手がいきなり横から掴まれる。


何事かと目を向けると、優斗はほんのり微笑み、隣に座る私の体を引き寄せた。



「さっきから気になってたんだけどさ……」


「な、何……?」



急に接近した距離に鼓動が高鳴り出す。

意味深に微笑を浮かべる優斗から目が離せなくなっていた。



「今日はもう……パパ禁止、な?」



そう言った優斗は、私の返事を待たずに唇を重ねる。

触れただけのキスは次第に深くなっていき、そのままソファに体が沈んでいった。


やっと唇が離れた時には頭がぼんやりとしていて、視界に再び現れた優斗がふわふわとして見えていた。


ビシッと締めたままだったネクタイを緩める仕草に、体の奥がキュンと痺れる。



「里香……愛してるよ」


「優斗……」



出逢って、付き合って、結婚して、今は家族になった。


でも、あの頃の気持ちは今も変わらない。


これから先も、ずっとずっと……。



「私も……愛してる」


---END---

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※記事は2016年12月22日(木)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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