おもしろいこと、この地から。週 刊 東 北! Vol.022/福島の、会える農家さん【後編】
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【毎週水曜 16:00更新】
今、農家のあり方が少しずつ変わってきている。「食」と「農」の距離を縮めるために、畑にとどまらず、自分たちらしいやり方で私たちに届けるところまでを考える農家さんたち。福島の土地で志高くモノづくりに取り組む生産者と、彼らを応援する人々が集まる「チームふくしまプライド。」もそんな動きのひとつ。「遊びに行ける、開かれた農家さん」の思いを2週にわたってお届けします。今回は後編。
更新日:2016/12/23
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人懐っこい古山さんの愛犬/自宅裏庭の畑を中心に、桃とりんごを育てている/「黄貴妃」の収穫時期は9月中旬〜下旬。通常の桃より遅い晩生品種/出荷作業もひとつずつ丁寧に家族で行う
福島市「古山果樹園」古山浩司さん
ひとつひとつすべての果実に触れ、大切に育てています
明治時代から続く果樹園の5代目を継ぐ古山浩司さんの畑は、裏庭を中心に5カ所。栽培から出荷まで一貫して家族で行う、いわゆる小規模家族経営。春~夏は桃、秋~冬はりんごを栽培している。
「畑には60本のりんごの木と220本の桃の木が植わっています。より良い果実をつくるために必要不可欠なのが摘果というプロセス。実を間引いて、1つずつの果実により多くの栄養がいき届くようにします。うちではつぼみから花の段階で約9割を摘み、出荷するのは1割程度。そこに至るまで、自分自身の目と手をかけてしっかりと向き合うのが、食物を作る者としての責任だと思っています」と話す。
古山果樹園は果実の糖度にこだわり、ステビア農法をメインに改良を重ねている。「天然の甘味料として知られるステビアの葉を堆肥にすることで、栄養豊富な土になる。そしてなにより、風味と甘みが増して果実がおいしくなるんです」。
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古山果樹園のあたり一帯は水分を多く含む粘土質の土/農業と天気は切っても切り離せない関係。日に何度も時間予報をチェックするそう/りんごの品種によって色が変わるきれいなグラデーション
福島の食を世界に発信するために
「どこにもないものを作ります!」
ステビア農法をはじめ、“甘い桃”を作ることに関して並々ならぬこだわりを持つ古山さん。「私がつくっているのは糖度20%以上のギネス級の桃。市場では17000円で扱ってもらっています。ここにしかない桃をつくり、古山農園の名前を知ってもらうことで、福島県産の果実や農業すべてに注目してもらえるきっかけにしたい」。
作業中のスペースには、およそ果樹園らしくない大トロ、中トロといったシールが。「うちの桃の屋号は『とろもも』といいます。甘さを表す指標に洒落を込めて、このシールを張って箱詰めしています」(笑)。そして、現在はとろももを加工した「飲む桃」を試作中だという。
実は古山さんが就農したのは2012年と農業歴は長くない。以前はITのエンジニアだったそうで「サラリーマン時代の経験が生かされていることも多いかな。人生にむだなことはないですね(笑)」と話す。視野の広さや豊かな発想力で、どんな風に届けたら伝わるだろう? と考える柔軟な姿勢こそが、福島と私たちをつなぐ柔らかなコミュニケーションを生んでいるのだろう。
福島県に農業を見直す動きが多数ある中で、古山さんが参加しているプロジェクトのひとつが「チームふくしまプライド。」。「福島の農業の現在を担う農家が集い、今までの農業に対するイメージや意識を変えていきたいとがんばっています。農業の魅力はたくさんある。地に足の着いたライフスタイルやおいしいものを作っているという誇り、豊かな収入を得ることも方法によっては可能だと思う。次世代のフォロワーが続くように、背中で示していきたいですね」。
古山さんは福島全体の未来を見ているのだろう。自身が試行錯誤してものにした大切なノウハウやテクニックを惜しみなくシェアする。来年からは、あの新宿タカノのフルーツパーラーのパフェに、古山果樹園のとろももが使われる予定だとか。震災後福島県産の桃が採用されるのは初! という快挙。お目見えした折にはぜひ、とろももパフェを食べながら福島に思いをはせてみて。
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期待感がふくらむ「とろもも」の屋号。アイデアマンの古山さんならでは/試作中の「飲むもも」は、桃そのもの以上の濃さ!
会津若松市の長谷川純一さん
帰れる味、ふるさとの味を守りたいから
12月2日、東京。「チームふくしまプライド。」を手がけるYahoo! JAPANで開催された、ふくしまの収穫パーティーで2人の農家さんに会うことができた。彼らは自分たちの作った野菜を直接私たちに手渡すように届けたい、農業に興味を持ってもらいたい、そして今の福島を知ってほしい。そんな気持ちから東京に売りにくることもしばしばだそう。
一人目は会津若松市をベースに活動する長谷川純一さん。会津若松市で栽培されている伝統野菜の種を含めた食文化を、後の世代につなぐ取り組みをしている。長谷川さんは、すでにその土地にあったけれど廃れつつあったものに光を当て、未来を照らす。
長谷川さんが見据えているのは、これからずっと先のこと。地元の小中学校の給食に会津伝統野菜を取り入れるための働きかけも行っている。
「続いてきた食文化には意味がある。会津小菊かぼちゃも余蒔きゅうりも会津の風土にあっているからおいしく育つんですよね。そんな先人たちがつないできた文化も含めて後生へと伝えていきたい。帰れる味、ふるさとの味があるって幸せなことだと思うから。地元のまだ小さな子供たちと種まきを一緒にする中で命の大切さも伝えられているのだと思います。小さな一歩ですが、伝え続けたい」。長谷川さんがまいているのは、食べることのそのものの未来であり、農業への希望の種なのだろう。
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会場となったのは、Yahoo! JAPANのコワーキングスペース「LODGE」。お洒落でオープンな雰囲気が漂う/福島の農産物や農家さんや応援する人が集う「チームふくしまプライド。」を手がける、Yahoo! 秋山朝美さん、森禎行さん、田中瞳さんで長谷川さんを囲んで/イベントには、飛び入り参加だった長谷川さん。持参した小菊かぼちゃでつくったかぼちゃプリンは大人気
郡山市「鈴木農場」鈴木光一さん
風土に合った種を、毎年1つずつ
2人目は、郡山市に自身の農場と種苗店を持ち、品種コーディネーターとしても活動する鈴木光一さん。「もともと郡山には土地を代表するような野菜がなかったんです。それならば自分達で創ろう! と2003年に生産者が集まり、郡山ブランドの取り組みがスタートしました」。
たとえば、今では郡山野菜のスターとなった「御前人参」。300~400種もあるにんじんの中でも、郡山の清らかな水と澄んだ空気、昼と夜の寒暖差という野菜作りに適した風土と、ミネラルが豊富な粘土質の土ともっとも相性の良い品種を選び出し、栽培方法を研究。特別な野菜ではなく、地元の人が日常的に食べたくなる野菜らしいおいしさと栄養価にこだわり、1年に1種類ずつ品目を増やしていったそう。
その結果、2016年現在、12種のブランド野菜が誕生。市内の農家に栽培方法を指導することで、鈴木さん以外の生産者が栽培しても同じ品質を満たすブランド野菜作りを可能にしたという。
「次の世代が農業をやってみたいと思えるように」。鈴木さんは、すでにある風土を生かしつつ新しい価値を創る、という方法で郡山を明るくしている。
今では、御前人参は地元の人がブランド指定で買い求めてくれるにんじんへと成長。「購入した地元の人が、“郡山自慢のにんじん“と宣伝してくれることで、地元から市外や県外へと少しずつ知られるように。地元の人が誇りに思ってくれるのがなによりの喜び。こんなに嬉しい広がり方はないですよね」。
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葉っぱまでピンッと元気な野菜たちはマルシェでも大人気/すずなりの芽キャベツは注目の的に/鈴木さんを中央に、東京在住のボランティアの方々と。鈴木さんが手にしているのが御前人参。カロテンの含有量が多く甘みが強くジュースにすると最高だそう
【遊びに行ける、福島の農家さん】
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●古山果樹園・古山浩司さん
小規模家族経営で桃とりんごを育てる果樹園。福島全体を発信するという思いをひと玉に込めて、熱くクールに開かれた農業を実践。
古山果樹園
TEL.024-553-1609
福島県福島市鎌田字鶴田26
●長谷川純一さん
会津伝統野菜の継承を中心にした活動を行う。
●鈴木農場/伊東種苗店・鈴木光一さん
種や苗の知識も持つ目利き力で、郡山ブランド野菜協議会を設立。野菜の品種力で直売所と地元を元気にしている。
【食のファンクラブ「チームふくしまプライド。」】
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2016年からスタートした、福島の農産物や農家さん、応援する人が集まる「食のファンクラブ」。古山さんと長谷川さんも参加。野菜や果物の旬の時期にはここから商品の購入も可能。
「農産物や海産物、伝統工芸品まで、僕らは東北の志のある作り手の思いも含めて、受け取り手へとつなぎたい。買い求めることで東北にエールを送るという一方通行ではなく、本当に良いモノづくりを行う東北からのエールを受け取る、そんな双方向のコミュニケーションが行き交う場づくりをめざしています。今回のように直接触れ合える機会は初の試み。もっと機会を増やしたい」と、「チームふくしまプライド。」をフォローする、東北エールマーケット発起人の森さんは力を込める。
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TEXT/AKIKO MORI PHOTO/KOHEI SHIKAMA(roku)