つながる旅のキーワード vol.020 世界を旅している気分で。伝統のクリスマス菓子
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人気のスポットやグルメ、体験など、気になる旅のキーワードをピックアップ。そのキーワードを紐解いていくと、その土地のなにかと、誰かと縁をつなぐきっかけになるかも。
更新日:2016/11/21
旅している気分で。世界の気になるクリスマス×伝統菓子
いよいよ待ちに待ったクリスマスシーズンの到来。人気のパティスリーでは華やかなクリスマスケーキが並ぶけれど、今年は“世界の伝統的なお菓子”に注目してみてはいかが? 西欧をはじめ、キリスト教が根付いた国々ではその地域ならではのクリスマスのお菓子が! そこで「郷土菓子研究社」を主宰する林周作さんに、日本人にもなじみのあるものから知名度が低いけれども興味深いものまで、各国のクリスマス伝統菓子を教えてもらいました。世界を旅している気分で読んでみて。
【ドイツ】キリストのおくるみを模した「シュトーレン」
クリスマスの伝統的なお菓子と聞いて、「シュトーレン」を思い浮かべる人も多いのでは。ドイツ発祥のお菓子。こんな言われがあるって知っていますか?
「シュトーレンの由来は、キリストのおくるみやゆりかごの形、発祥の地・ドレスデンの鉱山内の坑道の形など諸説あります。ドライフルーツやナッツを練りこんだもの、マジパンやケシの実入り、本場ドイツにはさまざまなバリエーションがありますよ」と林さん。
さまざまなパティスリーで販売されているので、手軽に購入することが可能。おくるみやゆりかごと言われると、ちょっと愛らしいスイーツに思えてきますよね。
【イタリア】ふんわり食感と独特の風味がクセに「パネットーネ」
続いてはイタリアの「パネットーネ」をご紹介。ふっくらと大きな菓子パンで、このシーズンになれば、日本でもイタリア系のベーカリーで購入することができるかも。
「深いドーム状の菓子パンで、パネットーネ種(仔牛の小腸から採取されるイースト)を酵母に焼き上げるため、独特の風味があります。卵とバターをたっぷりと入った贅沢な生地にレーズンやオレンジピールなどのドライフルーツが練りこまれています」(同)
実は、クリスマスにパネットーネを食べると、恋が成就するという伝説もあるとか。
【スペイン】幸福が訪れると言われるクッキー「ポルヴォロン」
みなさんは、スペインの「ポルヴォロン」をご存知ですか?
「元々はスペイン南部アンダルシア地方の修道院で作られていた、クリスマスのお祝いに欠かせないクッキーでしたが、今ではスペインの各地で作られています。口に含むとすぐに崩れる不思議なクッキーで、崩れる前に“ポルヴォロン”と3回唱えることができれば、幸福が訪れるとか」(同)
日本ではなかなかお目にかかれないお菓子だから、ぜひ味わってみたい一品!
【フランス】お酒のように日に日に熟成していく「ベラヴェッカ」
フランスの「ベラヴェッカ」もまだまだ日本人にはなじみがないお菓子。一体どんなもの?
「フランス・アルザス地方の郷土菓子で、クリスマスの前、11月辺りからお菓子やパン屋に並び始めます。棒状のベラヴェッカを少しずつカットして食べるのがアルザスのクリスマスの風景。“洋ナシのパン”を意味するベラヴェッカは、スパイスと洋酒に漬け込んだ洋ナシやイチジク、プラム、アプリコット、レーズンなどさまざまなフルーツと、少量のパン生地を練り合わせて焼き上げて作ります。焼き立てから少しずつスパイスがなじんでゆき、日に日に熟成するようにおいしくなります」(同)
ちなみに林さんのおすすめの食べ方は、ちょっと大人な“ベラヴェッカとフォアグラパテのマリアージュ”。
「フランス滞在時代、職場のシェフに教えてもらったものです。洋酒・スパイス漬けのフルーツと濃厚なフォアグラでお酒が止まりません。フォアグラはムースではなくずっしり詰まったパテで!」
クリスマス菓子に、こんな楽しみ方があるなんて意外かも。これはぜひ試してみたくなる!
【イタリア】フルーツぎっしりのクリスマスケーキ「ブッチェッラート」
イタリアの中でも、地方によってクリスマスのお菓子もさまざま。パネットーネに続いて紹介する「ブッチェッラート」は、イタリア南部シチリア島のクリスマスケーキ。
「イタリアのクリスマスといえばパネットーネかパンドーロというイメージだと思いますが、イタリアは州が変われば外国と言ってもいいくらい食文化が変わります。ブッチェッラートはリング状の焼き菓子で、パスタフロッラ(クッキー生地)の中に、イタリアの中でもフルーツで有名なシチリア特産のドライフルーツやナッツがぎっしりと詰まったお菓子です。南イタリアのお菓子は特に甘いですが、シチリア人はペロリと平らげてしまうそうですよ」(同)
【スウェーデン】ある動物を意味するかわいらしい「ルッカセット」
ラストは北欧のお菓子をご紹介! スウェーデンの「ルッセカット」は、見た目にもかわいい一品。
「12月13日、スウェーデンではルシア祭と呼ばれるサンタルチア(聖ルッセ)を称えるお祝いをします。ルッセカットはルシア祭には欠かせないバターとサフランをたっぷり練りこんだ甘い菓子パン。サフランが贅沢に使われるので明るい黄色をしていて、レーズンを飾るのが特徴です。クリスマスシーズンになるとお店に並ぶのはもちろん、各家庭でも作られています」
ところでルッカセットってどういう意味?
「ルッセカットは スウェーデン語で"ルッセのネコ"を意味しているようです。もしかしたら、S字にねじれた形がネコのしっぽに見えるからかもしれませんね。私は、グルジア滞在時に在グルジアのスウェーデン大使の家でルッセカットを作らせてもらったこともありますよ」
クリスマスの伝統的なお菓子は、国によっていろいろ。もし街中で見かけたらぜひ手に取ってみてはいかが? 世界のクリスマス気分が味わえちゃうかも。
教えてくれたのは、林周作さん
エコール辻大阪フランス・イタリア料理課程を卒業。世界の郷土菓子の魅力に取りつかれ、各国の郷土菓子を実際に食べ、味を伝える菓子職人に。現在、300種以上の郷土菓子を調査し、訪れた国は現在32カ国を数える。世界を旅しながら毎月発行していた郷土菓子専門誌『THE PASTRY TIMES』を、一部店舗や郷土菓子研究社ウェブサイトでも配布。また、2014年5月30日にヨーロッパから中東までの郷土菓子を収録した本『THE PASTRY COLLECTION』を出版。現在、渋谷で「Binowa Café」をオープンし、世界の郷土菓子を再現している。
WRITING/EMI YAMASHITA