町に着いたら、本屋をめざそう。Vol.013/町家古本はんのき(京都府京都市)
【隔週水曜 21:00 更新】
知らない町に迷い込むのと、本屋さんで心を遊ばせるのは、どこか似ている気がする。そして、旅先で出会った本の一節はなぜか、いつも以上に心に残ったりもする――。全国の町の味わい深い本屋さんが、旅のお供におすすめの1冊を教えてくれる、リレー連載。三重県伊勢市の「古本屋ぽらん」の奥村さんがご紹介くださったのは、京都府京都市のこちらです。
更新日:2016/11/23
三者三様、それぞれが選んだ本が集まるユニークな古書店
築100年を超える京町家で営む「町家古本はんのき」は、「古書ダンデライオン」、「古書思いの外」、「古書ヨダレ」の3軒の古書店が共同で運営しているお店。書生の家を思わせる店内には、国内外の文学をはじめ、歴史やアート関連、絵本や児童文学に至るまで、あらゆるジャンルの本が並んでいる。
古本屋の面白さは、目的の本を探しに来ることよりも、そこで、自分が知らなかった本や著者を知ることにあると古書ダンデライオンの中村明裕さん。
「店内の棚はざっくりとジャンルごとに分けられていて、3人がそれぞれ仕入れてきた本を並べています。みんな得意分野が違うから、色んな本が並べられるのが共同経営ならではの利点。来てくださる方に、1冊でも読みたいと思える本を見つけてもらえたら嬉しいですね」
季節が移ろうたびに、心に浮かぶ一冊
今回中村さんが、旅をテーマに選んでくれたのは梨木香歩さんの『水辺にて』。なぜだか季節の変わり目になると読みたくなるのだそう。
「梨木さん自身がカヤックや自分の足で歩いて、独りだったり、ときにはナビと共に触れる自然の中で感じたことが綴られているエッセイです。気分が晴れない時、いまいち最近しっくりこおへんなぁ、という時に読むと深呼吸を促してくれるような一冊です」
お気に入りの一節
「森の様々な匂いを集めて、風が川筋に寄っていくように、水もまた、人の想像の及ばない時間をかけて、様々な場所を留まることなく走り抜け、その履歴を背負っていつか海に向かう、川の水を迎える海は、魚は、生物たちは、その物語をどう読み解くのだろう。
その微妙に違う物語を、読み込む力が人に備わっていないにしても、そのことに思いを巡らせ、感官を開こうとすることは、今、この瞬間にも、できることなのだと信じている。そしてその開かれてあろうとする姿勢こそが、また、人の世のファシズム的な偏狭を崩してゆく、静かな戦いそのものになることも。」
水辺にて/梨木香歩より
きっと、この場所でしか出会えない本がある
あなたにとって本はどんな存在ですか?という質問を投げかけたところ、こんな答えが返ってきた。
「自分を拡げて、深めてくれるものであり、時代や現実の距離を超えて未知の世界へ連れて行ってくれるものでもあり、言葉の持つ力を教えてくれるものでもあります」(中村さん)
「経年と共に付き合い方が変わっているような気がします。一冊一冊の本は中身が変わることはないはずなのですが不定形の何か」(古書思いの外 佐光佳典さん)
本との出会いは(例え同じ本を開くときであっても)常に一期一会であり、1冊の本から受け取るメッセージはさまざま。
ちなみに「町家古本はんのき」の店番は交代制。訪れた日に出会った人と、この場所で出会った本のことを語り合ってみたい。
TEL.075-205-3286
京都府京都市上京区鳳瑞町225
営業/12:00~19:00
不定休
おすすめの一冊
梨木香歩/水辺にて
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WRITING/MINORI KASAI