OZmallが贈るクリスマスストーリー第4話「玉砕覚悟で逆プロポーズ!? 」
女性サイト「OZmall」が贈る、ホテルで繰り広げられるクリスマスストーリー。遠距離恋愛、幼なじみ、運命の出会い、逆プロポーズなど、クリスマスを前に、さまざまな男女に起こるホテルでの“4つのショートストーリー”をお届け。
更新日:2016/12/22
【第4話・後編】ついにやってきたイブ当日。思い出の場所で口火を切る・・・「伝えたいことがあるの」
クリスマスイヴの日、切腹前に正装する侍のような気持ちで、いつもなら絶対に着ない白のシフォンワンピースに身を包んだ。
どうせひとりでめかし込むことになるのだろうと思って彼を見ると、シャツにジャケットというピシっとした格好で立っているから驚いてしまった。
釣り合いを意識したのだろうか。いつになく男前だな、なんてついつい見惚れてしまう。
「随分ちゃんとした格好してるじゃん」
『そっちだって』
「たまには、いいね」
『うん、恒例にするか』
いい返事をくれたらね・・・。
今にも口から出そうになる言葉をそっと喉の奥に仕舞い込んで、涙も堪えて、行こうと彼をうながした。
日比谷線に乗って恵比寿駅で降り、ガーデンプレイスを目指す。
「きれー・・・」
時計広場にはパリのマルシェのような空間がつくられ、周辺の木々にはイルミネーションが施されている。
ゴールドの細かな光に混ざるオーナメントの赤と緑が、王道のクリスマスを演出していた。
出店でわたしはマシュマロの入ったショコラショー、彼はホットワインを買い、広場のベンチに腰掛ける。
『あったかいね』
「・・・うん」
『寒くない?平気?』
「平気・・・」
『ここ、なつかしいね。人ごみが嫌いなくせに、ウェスティンのクリスマスツリーが見たい、っておれのこと無理矢理連れて来たよね』
あまりにも言葉少ななわたしに異変を感じたのか、どちらかと言えばいつもは口数の少ない彼が、今日はやたらと話し掛けてくる。
緊張と不安の海に溺れそうになりながらそんな気遣いに触れると、先に自分の涙の海で窒息してしまいそうだ。
「伝えたいことがあるの」
始めてしまった。この人を、失いたくないのに。
心臓の鼓動がうるさくて、気分が悪くなってくる。
もういい、どうにでもなれ。
わたしは玉砕の覚悟で口を開いた。
「わたしたち、付き合ってもう7年経つでしょ・・・そろそろ未来のことをね、考えてもいいかなーって・・・
きっと答えは出ないだろうけど、わたしはもう待てないから・・・
・・・だから言うね」
「結婚」という具体的過ぎるワードを出すのが怖い。
今この言葉をふたりの空間に持って来てしまうだけで、現実感が一気に襲ってきそうだ。そしてそのシビアな現実感に、今のわたしたちが押し潰されずにいられるかもわからない。
でも“クリスマス”という浮き足立ったこのイベントが、少しだけわたしの背中を押してくれた。
目をぎゅっと瞑って、カードを切るようにあの言葉を喉元まで運ぶ。
「それでね、けっ・・・」
『ちょ、ちょっと待ってちょっと待って!!』
!?
彼が小さく叫んでわたしの開きかけた口を大きな手で思いっきり塞いだ。
わたしは唖然としながらも、息が苦しくなって彼の腕を掴む。
「・・・ちょっと!何!?」
『ごめん!』
終わった。
ごめん、って・・・。
「もういいよ、わかってたし」
わたしは半べそをかきながら、その無様で不細工な表情を見られないよう彼とは反対の方へ顔を向けた。
『じゃなくて』
彼がわたしの肩をそっと掴んで、自分の方へ向き直させる。
『おれ、意気地なしでごめん・・・
・・・ワガママかもしれないけど、最後はおれに言わせて』
わたしの手から空になったコップを奪い取り、自分のものと一緒に捨てた。
『ってことで、ちょっと来て。映画はまた今度』
「来てって、どこに?」
『君の好きな場所で、これからおれたちの思い出になる場所』
彼がわたしの手を引っ張りずんずん歩くと、あっという間にホテルの前まで来てしまった。
目の前にあるのは、憧れの「ウェスティンホテル」。
エントランスからすでにクリスマスのワクワク感に彩られて、定番カラーの緑と赤に加えて使われたシルバーと紫が、ヨーロピアンクラシックに拍車をかける。
黒光りした馬車を横目に中へ入ると大きくそびえ立つクリスマスツリーが視界いっぱいに広がり、胸が高鳴った。
ツリーの根元につくられた小さな街には屋根に薄く雪の積もる家があり、汽車が走っている。
街の外側にはだんだんと現実に戻ろうとするように、ジオラマとこの世界の中間くらいの大きさをしたベンチが置かれ、座っているふわふわのテディベアたちが街のミニチュア感を引き立たせていた。
外国人のゲストが他のホテルに比べて圧倒的に多いことも相まって、ここが日本だということをまるで忘れてしまう。
ウェスティンとクリスマス、なんて相性がいいのだろう。
淡い紺色の大理石でつくられたエレベーターの扉が開くと、容易く非日常に飲み込まれた。
逐一感動しているうちに案内されたのは、スイートルーム。
ウェスティン特有のホワイトティの香りは、ロビーから部屋の中までぬかりない。雰囲気に酔って昇天してしまいそうになる自分を必死に下界に連れ戻しながら彼の方を見ると、満足げに笑っている。
「これ、どういうこと・・・?」
彼が「キザ」とは正反対のところにいるのをずっと見てきたわたしにとって、今目の前にいる人はまるで別人のようだった。
『プロポーズ』
「意味わかんない。いつから準備してたの。聞いてない」
あまのじゃくなわたしは、嬉しいくせにわざわざ可愛くない反応をしてしまう。
『ちょっと前から』
「結婚のことなんて、いちども言わなかったくせに。それに普段こんなことしないじゃない」
『いいじゃん、今日くらいカッコつけさせてよ。って、すでにカッコ悪いよね。
鈍感でごめん。たくさん悩ませてごめん。』
彼はわざとらしく咳払いをしてからわたしの手を取り、いつの間に用意したのか小さなジュエリーボックスを上着のポケットから出した。
『おれと・・・あ、こういう時は“ぼく”か』
そして蓋を開け、きらきらと輝く約束の証をわたしに見せびらかす。
『ずっと一緒にいたいから、ぼくと結婚してください』
すでに涙で霞んでいたわたしの目にはその輝きがホログラムのように拡張して映り、夢の中にプカプカと浮いているような気分だった。彼の格好良いジャケット姿も、目に焼き付けておきたいのにぼやけてしまってよく見えない。
「うう・・・嬉しい・・・」
『してくれるの?してくれないの?』
「する、します。お願いします」
『ああーよかったー!まじで緊張したー・・・』
彼はヘタリと床にしゃがみ込んで表情を隠すように顔を手で覆った。少ししてから再びわたしへと向き直り、顔を真っ赤にしながら取り出した指輪をわたしの薬指に通す。
『じゃあ、よろしくお願いします』
「ありがとう。こちらこそ、これからもよろしくね」
今夜からは彼と一緒の未来を前提に生きていいんだ・・・。
そう思うと、この上ない幸せに包まれた。
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WRITING/RIO HOMMA(OZmall)