OZmallが贈るクリスマスストーリー第3話「危険かもしれない。けど、やめられない。」
女性サイト「OZmall」が贈る、ホテルで繰り広げられるクリスマスストーリー。遠距離恋愛、幼なじみ、運命の出会い、逆プロポーズなど、クリスマスを前に、さまざまな男女に起こるホテルでの“4つのショートストーリー”をお届け。
更新日:2016/12/07
【第3話・後編】危険だとわかっているのに、やめられない。そして約束した再会の日に・・・
そして、約束の金曜日がやってきた。
12月になった途端、街にはクリスマスの破片が飛び散り、溢れ返るカップルとの組み合わせでどうしたってひとりが惨めに感じてしまう。
いつもならこんな夜はさっさと家に帰って、ぬくぬくと誰の介入も受けない時間を美味しく噛み締めているだろう。だけど・・・
― また、ここで会えるかな?・・・
彼の言葉をこっそりと思い出し、ひとりなのにこぼれてしまいそうになる笑みを必死に自分の中へと手繰り寄せる。
エレベーターを降りいつも景色を眺める大きな窓の方に目をやると、同じように外を見ている彼の後姿が見えた。
広い肩幅が逆三角形をつくる上半身に、小さなお尻から伸びる長い脚・・・すでに盲目になりかけているわたしは、その立ち姿にさえドキっとしてしまう。
タイプの人に話し掛けられる、なんて非現実的な「状況」に酔わされているのはわかっている。
こんな想いはもしかしたら全部錯覚かもしれない。
だけどこれといって変わり映えのない時間の経過をただどうにか見送っていたわたしにとって、この出会いは都合のよすぎる偶然だった。
自分からその刺激を獲得しに行くほどの勇気は持ち合わせていなかったけれど、いつも心のどこかで待っていた気がする。
だからどうにか “運命”と思い込んで、この夢物語の続きが知りたかったのだ。
初めて話し掛けられた時は平気で口答えしていたのに、今となっては緊張して自分から挨拶することすら躊躇ってしまう。声を出す前にのどの渇きで咳払いをすると、彼が先だってわたしの存在に気付く。
『来てくれたんだ』
「あ、いや・・・飲みたいカクテルがあったから」
わざとらしく言い訳の連用をしてみたが、彼はまるで気にしていないといった様子で『こっちこっちー』と窓際席へわたしをエスコートした。
『クリスマスのやつでいい?』
「うん。それがいい」
前回飲みたいと言っていたのを覚えていてくれたことが嬉しかった。
わたしに関わる彼の一挙一動に感情が突き動かされてしまうから、もうどうしようもない。
『こないだは急にごめんね。実は何度か君のこと、見掛けてたんだ。カウンターで飲んでる時は近くに座ったりもしてたんだよ・・・全然気付いてくれなかったけど(笑)』
どこまでも予想の上を行く夢展開のせいで、この話の渦中にいるのが自分だということを頻繁に忘れてしまう。
『それで、時間なくなってきたからついに話し掛けちゃった』
時間がない、とはどういうことだろう。意味深な言葉に首をかしげると、すぐに彼が続けた。
『俺、年末から仕事で半年間イギリス行くんだ』
まだそんなに悲しむ権利もないわたしは平静を装って「そうなんだ!イギリスに出張だなんてかっこいい」と笑って見せたが、内心は無念でならなかった。自分のこととして悲しむというより、楽しみだった連載漫画が打ち切りになってしまうみたいな気持ちだった。
もうこの続きは、なし・・・?
すると、喪失感に打ちひしがれて心の中でうなだれるわたしに彼が言った。
『それでいきなりだけど、イヴにデートしない?』
瞬間、「心が躍る」とはまさにこのことだ!とでも言わんばかりに自分の脳内が豊かに彩られていく感じがした。まるでいつものマジックアワーのように。
だけど、少女的な部分が残っているとはいえもうそれなりに歳を重ねている。頭で考えるより先に感情に支配されるような感覚が暫し襲ってきた後、わたしはすぐに意識的な脳みそを取り戻す。
こんなに上手くいくのは、おかしい。
今までの苦い失恋が走馬灯のように頭を駆け巡る。尽くしすぎて引かれたり、信じすぎて浮気されたり・・・
失敗例を元に秒速で検証してみると、この夢物語の結末はハッピーエンドにはなりそうになかった。
わかってる・・・けど・・・
わたしはもう、やめることができない。
これが失敗例を増やすことになろうとそんな傷は未来の自分に任せればいい、なんて無責任な考え方が、今は全然気にならない。
いつのどんな感情もすべて、いずれそう遠くない未来に記憶の片隅へと整理されることも知っている。
身ひとつでぶつかるのが特技のわたしには駆け引きができるはずもなく、二つ返事でデートの誘いを受けるのだった。
そしてクリスマスイヴに、彼もわたしも好きな監督の最新映画を観に行って夜ご飯を食べる、いわゆる「デート」をして、わたしは彼に告白された。
わたしはもちろんOKし、彼がイギリスから帰ってくるのをこれまた律儀に待ち続けた。
けれど、わたしたちの関係が終わるのにそれほど時間はかからなかった。
彼がイギリスに行ったばかりの頃は絶えずメールやスカイプをしていたのにだんだんと頻度も減り、2ヶ月ほど経ったある日から突然音信不通になったのだ。
何度もこちらから連絡をしてやっと取り合ってもらえたと思ったら、あっさり振られてしまった。
『忙しくて余裕がない』
彼はそう言っていたけれど、きっと違う。
後日先輩とこっそり彼のSNSを覗くと、特定の女性と楽しそうに映っている写真が何枚もあった。
そこでわたしは悟った。
彼は恋愛ごっこがしたかっただけなのだ。わたしありきの恋愛じゃなくて、恋愛ありきのわたしだったのだ、と。
――
『もうすぐクリスマスですね~。早いなぁ』
「・・・ほんと。今年も恋人はナシかぁ」
我に返り、とっさに答えた。
『まだわからないですよ!あと1週間あるし』
バーテンダーとの会話をきっかけに、わたしはふたたび今に舞い戻ってくる。
毎年この時期になるとつかの間の夢物語を最初から最後までなぞってしまうのは、もう癖になっていた。乗り越えられていないからとか、まだ諦められないからとか、そういうことじゃない。
「あなたが負ったすべての傷には、未来のわたしがちゃんと手当てをしてるから」
わたしは過去の色んな自分に、そう言い聞かせてあげたいのかもしれない。
記憶から呼び寄せたほのかな寂しさが、アルコールと混じって少しだけ胸を締め付ける。
「今年はひとりで泊まりに来て、シャンパンでも空けようかな」
そう口に出すと、なんだか少し強くなった気がした。
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このままじゃ時間の無駄かも。結婚する気がなさそうな同棲中の彼に仕掛けるのは、聖夜の逆プロポーズ大作戦!
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WRITING/RIO HOMMA(OZmall)