OZmallが贈る「クリスマスストーリー」第1話配信スタート!
女性サイト「OZmall」が贈る、ホテルで繰り広げられるクリスマスストーリー。遠距離恋愛、幼なじみ、運命の出会い、逆プロポーズなど、クリスマスを前に、さまざまな男女に起こるホテルでの“4つのショートストーリー”をお届け。
更新日:2016/11/16
【第1話・後編】まさかの“クリぼっち”!?一緒に過ごしてくれると思っていた友達が突然帰ってしまい・・・
わたしはひとりで2杯目を注ぐ。泡のプチプチと弾ける音が、男と女の中間のような性別を持った静かな部屋に響き、自分以外そこには誰もいないことを思い知る。すると自然と彼のことが頭に浮かび、酔いとも悲しみとも判断のつかない熱さが、じわりと身体の中心から広がってくる。
ほどなく、彼女が部屋に戻ってきた。少し焦ったような、それでもなぜか、少し浮かれた表情をしながら。
『ねぇ、ほんとにごめん。わたし行かなきゃ』
突然彼女はそう言って、身支度をし始めた。
「え、ちょっと・・・」
一応、引きとめようとする素振りを見せてはみたが、そんなことはするつもりもなかった。
長い付き合いだからこそわかる、それは彼女の絶対的な意志だった。彼女はイヴの夜に、きっと今想いを寄せている男性から誘われでもしたのだろう。
「またすぐ会おうね?」
ほとんど恋人に向けて発するような台詞で微笑み、彼女を送りだす。
再びひとりになると、シャンパンをグラスに注ぐペースも自然と速くなった。まるで自虐的な行為だが、彼と出会った頃の、ただ楽しくて幸せな瞬間ひとつひとつを丁寧に振り返り、なぞっていく。
彼とは同じ会社で出会った。わたしを好きな素振りなんてひとつも見せなかったくせに、突然告白された。
もの静かで朴訥とした人だったけれど、そんな風に意外と内に情熱を秘めているところに惹かれ、わたしたちは恋人同士になった。しばらくして彼だけが転勤になり、わたしたちの間には物理的な距離が生まれた。
『付いてきてくれるならそれも嬉しいけど、君の希望を尊重したい』 彼はわたしに選択肢を与えたので、見栄っ張りでプライドの高いわたしは残ることを選んだのだった。
「あーあ。こんなことなら誘われてたクリスマスパーティにでも行けばよかった」
余裕ぶりたいがために本当は思ってもいないことを無理矢理ひとりごちていたら、突然部屋のチャイムが鳴った。
せっかちなサンタさんでも来たのかな、クリスマスまではあと1時間以上あるのに、と夢うつつな気持ちでドアを開ける。
カチャ・・・
「?!」
ああ、わたしはついに、幻覚を見ているのだろうか。そうならば愛のつくりだす錯覚はあまりにも残酷だ。
目の前に立って申し訳なさそうに笑うのは、わたしが会いたくてたまらなかった愛しいあの人。
『遅れてごめん』
そういって、酔いと驚きでよろけるわたしを支えると、話はあとで、とわたしのことをそっと抱きすくめる。
『待ちくたびれちゃった?』
「え、なんで・・・」
訳もわからないまま、再び頬が濡れていくのを感じた。この人はわたしのことを今夜、何度泣かせれば気が済むのだろう。いつの間にわたしはこの人のことを、こんなに好きになっていたのだろう。最初に好きになったのはこの人の方なのに、なんだかわたしが惚れてるみたいじゃないか。
『ねぇこれ、ひとりで空けたの? 君が寂しいときそんなだと、心配するだろ』
彼は困ったように眉尻を下げながら空になったシャンパンボトルを指差し、そして少し笑って、わたしの散らかしたスナックの袋や涙を拭いたティッシュをいつものように片付け始めた。
『泣かないで、もう大丈夫。ここにいるから』
わたしの頬に手を当てて親指で水分をぬぐいながら、重いとも取れるわたしの愛を魔法のような言葉に換えて、恥ずかしげもなく与えてくれる。自分よりあたたかい彼の体温が、寂しさをみるみる癒してゆく。
「いつも、ずるい・・・」
ぐすりぐすりとしゃくりあげて鼻声で言うわたしの頭をなでて『ん、なに? 聞こえないよ』と、また笑う。
後日親友の家でされたタネ明かしによると、彼は仕事を早く終わらせて元々来る予定だったが、何かトラブルが起きて約束したのに行けなかったらわたしをもっと悲しませる、本当に行けることになったら連絡するから、途中で交代してくれ、と半ば失礼なお願いを彼女にしていたのだった。
わたしはいつも勝手に期待をしすぎて、その期待を裏切られると怒りだす。そんなワガママなわたしの特性をよく理解した、彼らしい計らいだった。わたしも彼も、自分たちの愛によく飼い慣らされている。
―― 好きなのにどうして離れていなければならないのか、わたしたちを取り巻く環境が今も憎くて仕方ない。
誰も何も責めることができず、怒りや悲しみのぶつけどころがお互い以外にないのも、遠距離恋愛のトラップのひとつだ。
会いたい時に会えないぶん、会えた時は普通のカップルの何倍も嬉しいとか、会えない時間が絆を深めるとか、そんなきれいごとを良く聞くけど、そんなの違う、会いたい時に会えるのがいちばんだし、会えない時間なんて不安を増長させるだけだ。会って触れ合って幸せを感じると、それを失うまでのカウントダウンが始まって、その時感じた幸せでちびちびと食いつないでいられるほどわたしは強くないし、幸せの賞味期限だってそんなには長くない。
だけどわたしはただ、この人じゃなきゃダメなのだ ――
『どう? おれ、サンタさんみたいでしょ?』
いつの間にか自惚れたそんな態度も、今夜は可愛いと思ってあげる。
「うん。最高のクリスマスプレゼントかも」
『メリークリスマス』
そう言ってサンタさんは、わたしの額に柔らかな口づけを落とした。
Next Story「思えばいつも、隣には彼がいた。」
昔からなにかとちょっかいをかけてくる幼なじみと、久々の再会。意識なんてしていなかったはずなのに・・・。
この記事で紹介したホテルはこちら
WRITING/RIO HOMMA(OZmall)