OZmallが贈るクリスマスストーリー第2話「思えばいつも、隣には彼がいた。」
女性サイト「OZmall」が贈る、ホテルで繰り広げられるクリスマスストーリー。遠距離恋愛、幼なじみ、運命の出会い、逆プロポーズなど、クリスマスを前に、さまざまな男女に起こるホテルでの“4つのショートストーリー”をお届け。
更新日:2016/11/22
【第2話・前編】好きな先輩には彼女が。不毛な恋をするアラサー女子が結婚式で再会したのは・・・
雨予報だったのに、木漏れ日の差し込む小春日和になった。あの子は昔から晴れ女だ。
― 健やかなる時も、病める時も・・・
お決まりの文句が聞こえ始めると、その神聖で縁遠い空気に、少しだけ眠気を誘われた。天井の格子から差し込む柔らかい光に照らされて、新郎と新婦が誓いのキスを交わす。
ついこの間まで新婦の彼女は、結婚しないことのメリットとデメリットを順番に挙げながら、まるで女子高生みたいにわたしと笑い転げていたのに。
今日は地元の友人の結婚式。リゾート感のあふれる舞浜で式を挙げることは彼女が昔から望んでいたことだった。パートナーがそれをかなえてくれるような素敵な男性で、よかったと思う。
てっきり彼女は、何年も付き合っていたわたしも知る地元の男性と結婚すると思っていた。笑ったり泣いたり、なにしろドラマティックな大恋愛だったから。
けれどある日、彼女から「別れた」とメールが来た。
理由を聞くと「なんだか結婚して、子供が欲しくなった。わたしが彼を好きすぎるから、結婚はきっとうまくいかない」と言っていて、わたしには訳がわからなかったのをよく憶えている。
結婚って、それ自体が先に来るものじゃなくて、大好きな人ができて、その人とずっと一緒にいたいからするものじゃないのかなぁ・・・
わたしはといえば29歳になったばかりで華の20代も終わりに差し掛かっているというのに、結婚なんてほど遠いどころか、なんとも不毛な恋をしている。
会社の先輩と、肩書きがなく定義し難い関係に陥っているのだ。先輩には彼女がいる。それなのにまるで恋人同士のように毎日連絡を取り合い、月に1度日帰りのデートをする。
ダメなことだとわかってはいても、まだプラトニックな関係であることが罪悪感を薄めて、わたしたちは絆を深めるのに躍起になっていた。
夕方からの顔の疲れが尋常じゃなかったり、徹夜ができなくなったり、赤い傷が茶色くなって肌色に戻るまでの時間を長いと感じるようになったりすることで、確実に年を取っていると実感するここ数年だ。そろそろ自分の首を絞めるようなことはやめなきゃなと思う。
だけど着々と老いている体に反して心はまだどこか少女みを帯びていて、突然自分の目前に現れてくれるはずの白馬に乗った王子様を待っていたりする。
ああ、わたしはこの先どうなるんだろう。今から老後が心配で、たまに泣きそうになるんだよな・・・
永遠の愛をわざわざ約束させる儀式が一通り終わり、チャペルを出て今日の主役を待つ。
新婦が出てきて、みんなに祝福されながら、今日は彼女のためだけに敷かれたレッドカーペットをゆっくりと歩く。
胸元にビジューの縫い付けられたドレスが陽光で眩しいくらいに輝き、白い光線が四方に伸びていた。
その様はなんだか彼女が「人生の勝者ビーム」を振りまいているようで、服から少しばかり露出されたわたしの肌が、灼けて痛いような気さえした。
『おい』
物思いに耽っていたら突然、思い切り肩をつかまれた。びっくりして振り向くと、見慣れた・・・けれど記憶を探ってたどり着くその顔より、凛々しく成熟した表情を携えるスーツ姿の男性が立っていた。
「あ・・・」
不本意ながら少しだけ見惚れて言葉を失い、口を半分開けて彼を凝視していると、切れ長の目で見下ろされる。
『何見てんだよ』
肩を小突かれ、わたしは思わず目線を逸らした。
昔からなにかとちょっかいをかけてくる幼なじみと、4年ぶりの再会。まだ東京23区外の実家に住んでいるわたしと違って、彼は大学生になると同時に都心へ引っ越したから、地元で偶然会うこともなくなっていた。
自分から話しかけてきたくせに、態度のでかさと口の悪さは相変わらずだ。けれどいざという時は助けてくれるからわたしも随分心を許していて、彼はわたしの唯一の“男友達”だった。
同じ高校を卒業して、お互い違う大学に進学し、社会人になった今でも、たまに連絡をよこしてくる。
そういえば今日の式の数日前にも「行くの?」って連絡が来てたっけ。返信は適当なスタンプで済ませちゃったけど。
「久しぶり・・・」
『行かないの?写真撮影』
チャペルの外ではちょうど新郎新婦の大撮影会が始まるところだったが、人見知りのわたしはとりあえず、欧風の庭を散策するふりをして、群衆から遠からず近からずの距離を保っていた。
「もうちょっとしてから・・・」としばらくたじろいでいると、わたしが出向くより先に、新婦が手を振ってこちらへ向かってくる。
『来てくれてありがとう。あ!そういえばこの間、二子玉川の本屋にいたでしょ?声掛けようと思ったんだけど、素敵な男性が隣にいたからそっとしといたのよ。相手には困ってないみたいだし、早くこっちの世界においで~』
心臓が大きく飛び跳ねる。
見られた。月にいちどの、先輩との逢瀬を。
苦笑いをして話を逸らし、必死に顔に笑みを戻してお祝いの言葉を述べると、そそくさとその場を立ち去った。
するとなぜか幼なじみのあいつが後を追いかけてきて、わたしの腕をつかんだ。
『誰、それ』
憂いを帯びてくすんだ彼の瞳は、わたしを捕らえて離してくれない。
表情を読み取れないせいでなんだかもやもやして、自分の鼓動が速まっていくのがわかる。
「あ、あぁ・・・あれは、会社の先輩。ちょっと買い出しに付き合わされて。っていうか、あんたに関係ないじゃん」
ふーん、と、全く信じていない様子で彼が遠くに視線を移したので、何故かわたしは焦って「それにあの人、彼女いるから」とむしろ墓穴を掘るような意味のない言い訳を付け加えた。
『俺今日実家帰るんだ。どうせ帰り道一緒だし、その時に根掘り葉掘り聞いてやるよ』
「あ、わたし友達とお台場のホテル泊まる約束してて・・・だから一緒に帰れないよ」
わたしは小さな嘘をついた。
友達となんか泊まらない。今の関係にどうにか白黒つけたくて、いけない恋の相手を誘っていたのだった。
『お前って昔から、男の趣味悪いよな』
“男”なんて言ってないじゃん・・・
式場から近くもないのにわざわざデートスポットのお台場に泊まるっていう時点で、怪しかったかな。
その夜、先輩より一足早く先にホテルの部屋へ戻ったわたしは、これから起こることへの期待と不安が入り混じる気持ちでいっぱいだった。本音を聞けるチャンスで、もしかしたら本命になれる可能性だってあるかもしれない。
ホテルの窓に目をやれば、レインボーブリッジと東京タワーが見える。
お台場夜景はいつだって裏切らず綺麗だから好きだ。
夜の紺色に白くぼんやりと浮かぶ橋の光は、わたしたちの曖昧な関係を体現しているようだった。
アイボリーの布地にブラウンの繊細な線で絵が描かれた、ディテールの細かいカーテンを開けたり閉めたり落ち着かないでいると、スマホが鳴る。
ロック画面に表示されたメッセージは、わたしをどん底に突き落とすものだった。
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突然届いた衝撃のメッセージ。「別に、大丈夫だもん・・・」涙の理由は?
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WRITING/RIO HOMMA(OZmall)