町に着いたら、本屋をめざそう。Vol.010 オヨヨ書林（石川県金沢市）
知らない町に迷い込むのと、本屋さんで心を遊ばせるのは、どこか似ている気がする。
そして、旅先で出会った本の一節はなぜか、いつも以上に心に残ったりもする――。
全国の町の味わい深い本屋さんが、旅のお供におすすめの１冊を教えてくれる、リレー連載。
神奈川県横浜市の「三田商店／BOOKTRUCK」の三田修平さんがご紹介くださったのは、石川県金沢市のこちらです。
更新日：2016/09/28
今や金沢を語る上では欠かせない存在となった21世紀美術館。迷路のような造りがおもしろい
山崎有邦さんと看板猫の福次郎。山崎さんは買付等で店を留守にすることも多いけれど、福次郎はいつでも出迎えてくれる
知れば知るほど、おもしろい。
めくるめく“古本の世界”へようこそ。
今回紹介する「オヨヨ書林」があるのは、歴史的な街並みが残る石川県金沢市。1999年にオンライン古書店としてスタートしたオヨヨ書林は、東京の根津や青山など、幾度かの引越しを経て、2010年に金沢へ移転。現在は、今回ご紹介する新竪町通り店に加え、せせらぎ通り店と市内に2店舗を構える。
「学生時代にお金がなくて古本屋さんでアルバイトを始めたら、どんどん古本の世界にのめり込んでしまって」という店主の山崎有邦さん曰く、古本は、知れば知るほど面白みが増すものなんだそう。
「価値の高い、低いにかかわらず、かつてこんな本が出版されていたんだという発見が楽しくて。その当時はマイナーであまり売れなかった本が、後々になって人気が出ることもあるし、何十年かに一度！というような掘り出し物と出会うこともあります。これだからやめられないんだよなぁ…という感じです（笑）」
旅情をかきたてる日本の歌と
それぞれの曲に秘められた物語
今回、山崎さんが旅を愛する読者のためにと選んでくれたのは、“うたう旅人”松田美緒さんのCDブック「クレオール・ニッポン」。CDには南米を中心に旅してきた松田さんが、日本をはじめ、ブラジルやハワイをめぐりながら集めた古い歌が収められ、書き下ろしエッセイには、それぞれの歌が生まれた背景や物語が記されている。
松田さんののびやかで美しい歌声と、静かだけれど熱のこもった文章から伝わってくるのは、次の世代にこの歌を届けたいという熱い想い。生まれ育った富山県から東京へ、そして現在暮らしている金沢へ。なんだか、古本と共に旅をしてきた山崎さんとも重なる。
（お気に入りの一節）
手つかずの無人島だったところに、人々が住み始めてから
その港に幾多の想いが刻まれた。
記憶も、欲望も、愛も、悲しみも。
ある恋と別離から生まれた歌が、人といっしょに海を旅していくうちに、
それぞれのふるさとの歌になった。
それを今、私が口ずさむ。
（クレオール・ニッポン うたの記憶を旅する／松田美緒）
冬の犀川の様子。雪に覆われる街の景色も美しい／「四高記念文化交流館」半分は石川近代文学館として室生犀星など石川県ゆかりの文学者にまつわる資料が展示されている
古本屋とは、時代を超えて旅を続ける本の
“遺伝子の運び屋”なんじゃないかという気がします
北陸新幹線が開通し、海外からの観光客も多く訪れる金沢の街。兼六園や武家屋敷をはじめ、伝統的なある古くからの営みの中に、21世紀美術館を中心にポストモダンな文化が同居しているところがお気に入りと山崎さん。
地元の人はもちろん、遠方から訪れるファンも多いオヨヨ書林には、写真集や美術書を中心に映画、音楽…とさまざまなジャンルの本が並んでいる。
「21世紀美術館ができてからは、観光客の方の層もずいぶん変わりました。だから店の品揃えも、九谷焼や輪島塗など伝統工芸の豪華本のとなりに、ホンマタカシやジェームズ・タレルの限定のアートブックなどが並んでいたり。いいと思う本をセレクトしたお店でありたいと思う一方で、自分の意思を越えて、それぞれの本をどこかの誰かへと運ぶために働かされているような気がします」
――長い年月を経て山崎さんの手に渡ってきた本は、ひょっとしたら、“この人なら、自分にとってふさわしい持ち主を探してくれる”と確信してやってくるのかもしれない。
【今週の町と本屋さん】
石川県金沢市／オヨヨ書林 シンタテマチ店
TEL.076-261-8339
石川県金沢市新竪町3−21
営業／11:00～19:00
水曜休
クレオール・ニッポン うたの記憶を旅する／松田美緒
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WRITING／MINORI KASAI
