the TIME travel 時間旅行 Vol.005/札幌の、新しい魅力とは?(北海道・札幌市)【前編】
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【毎週火曜6:00更新】
札幌に今、もうひとつの魅力が新たに加わろうとしている。2017年夏、この町が舞台のアートイベント「札幌国際芸術祭」の開催が決定し、アートを通して人や街と出会うきっかけに。ゲストディレクターは、音楽家の大友良英さん。彼が思い描く来年のお祭りの姿と、そこから見えてくる新しい札幌はどんなもの?
更新日:2016/09/13
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(上)札幌道庁/(下)札幌の人たちが「短い夏」と呼ぶ8月。大通公園にビアガーデンが並び、グラス片手に夕涼みする風景も
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「さっぽろ八月祭」の会場に登場した、市民手作りの旗が街を彩る
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中心部を循環する市電は、この街のアイコンのひとつ。来年の札幌国際芸術祭では、この市電を使ったプロジェクトも行われる
札幌の新しい魅力を生み出すべく
芸術祭の準備がスタート
2回目となる札幌国際芸術祭。この町の短く心地よい夏の時期に、市民中心に作り上げられるイベントだ。
テーマは「芸術祭ってなんだ?」
それを象徴するような動きが、今この町に起きつつある。
たとえば、札幌国際芸術祭のメインビジュアルは、アートディレクターの佐藤直樹さんがデザイン。でも、ポスターは、決まったかたちを持たない。
緑やオレンジの背景に「札幌国際芸術祭2017」や開催日時や概要の和英文がまるで踊るように散りばめられ、その配置は一定のルールのもとに組み方を変えてデザインされている。ポスターは8種類、チラシは32種類もパターンがあるそうで、しかもまだまだ発展途上なのだという。
佐藤さん「来年の札幌国際芸術祭の本番まで、いろんなイベントが行われるでしょう? そのたびにいろんな人が参加できるワークショップを開いて、共同作業でデザインをしていきたいんですよ。
会期中、展示やイベントはたくさんあって、それらがデザインによって一目で同じ芸術祭の催しであることがわかるのは大切。でも、ある枠の中に収めすぎると、大友さんが目指しているはずの楽しさや、匂い立たせたいものが消えてしまう気がして」
東日本大震災後に「あまちゃん」の音楽を担当したり、音楽と盆踊りを通したコミュニティープロジェクト「プロジェクトFUKUSHIMA!」を続けてきた大友さん。
そんな彼が、目指す「楽しさ」とはなんだろう。
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佐藤直樹さんが担当するメインビジュアルは、パーツが自由に入れ替わる。町中でどんなデザインに出会えるのかも、楽しみになってくる
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芸術祭ディレクターの大友良英さん。芸術祭会場のひとつ、狸小路を歩きながら
みんなの数だけ、答えがある。
この町には、それがある
大友さんの、芸術祭のステートメントにはこうある。
「わたしが取り組んできた活動の中でも、とりわけ大きな比重を占めてきたのが、参加する前と後とで世界の見え方が一変するくらいの場を自分たちの手で作り出す、「祭り」です。今回はここに「芸術」や「国際」、そして「札幌」が加わります。
これらの問いに対して自分一人で考えて、答えを出すのはもったいない。市民参加の芸術祭ですから、市民の数だけ答えがあるはずで(…)それを「豊かさ」として受け入れていく大きな度量の芸術祭でなければ、世界の見え方なんて変えられるはずがありません。」
つまり、大友さんは「芸術祭ってなんだ?」という問いを、トップダウンではなく、みんなで考えよう、と言っている。大文字の「芸術/ART」としては素朴すぎる問いかもしれないけれど、その大きな器は、誰もが芸術祭に関われるチャンスをたくさん含んでいる。
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大友さんが指揮を執るプロジェクト「オーケストラSAPPORO」。「さっぽろ八月祭」のメインイベントとして、市民の手づくりによる大風呂敷のもと、みんなで盆踊り!
「場」も今回は「アーティスト」。
町の中、発見が一変する体験も
今回の芸術祭の器の広さは、発表アーティストのラインナップからも感じられる。
美術館を有する「札幌芸術の森」では、作曲家の刀根康尚さん、ボアダムスの中心メンバーであるEYEさんらによる「ライブのような展覧会」を行うそうで、美術館のルール自体を再考するものになりそう。また、梅田哲也、堀尾寛太、毛利悠子の3人の若いアーティストたちは、「会場探しから自分たちでする」DIYなミッションのもと、すでに水面下で札幌の人たちと交流を始めているという。
また、特にユニークなのが「場」が参加アーティストにラインナップされていること。「レトロスペース坂会館」「大漁居酒屋てっちゃん」は札幌人でも知る人ぞ知る特別なスペースなので、ぜひネット検索してみて「凄さ」にびっくりしてほしい。そう、アートの領域で活動する人だけでなく、音楽、生活、暮らしに根付いた表現へと広がっていくのも、今回ならではだ。(※詳しくは9/11配信の後編にて紹介)。
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札幌市民の憩いの場。イサム・ノグチが設計した「モエレ沼公園」
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札幌大通公園、夏の夜9時。めいめいに、夏の夜を味わう人々
札幌の新しい魅力は
町のみんな、出会う「人」
大友さんは、今回の札幌国際芸術祭に関わるメンバーを「バンドメンバー」と呼んでいる。
そして大友さんは札幌のことを、「街も自然もとても面白いけれど、それ以上に面白いのは「人」」なのだと言う。
「忘れがたい個性を持った魅力的な人たちが紡ぐ「今」の時間を大切にするのが、来年の芸術祭。芸術祭やトリエンナーレって、何百年も前の歴史を掘り下げるものが多いけれど、僕は今生きている人たちの歴史とまずは向き合いたいと思っています」
大友さんがはじめて札幌を訪れたのは、今をさかのぼること30数年前。そして、札幌で前衛音楽を札幌で広めたいと活動していた沼山良明さん(札幌国際芸術祭2017のエグゼクティブアドバイザー)との交流を通じ、初ライブのために訪れたのが20数年前。
そして今、芸術祭のゲストディレクター、バンドマスターという肩書きで札幌の街と人に向き合いはじめている。
その立ち位置は、若い頃とは大きく違うものかもしれないが、生き生きと響く音楽やアートを奏でようとする姿勢は、昔も今も変わらずに続いているのかもしれない。【9/11配信の後編に続きます】
【今週の時間旅行 to 札幌 札幌国際芸術祭2017】
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2017年8月6日~10月1日、市内全域で行われる。2014年に続き、2回目の開催。詳細は下記HPにて随時発表。
HPにアクセスする度、違う仕様が閲覧できるのも楽しい。
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WRITING/TAISUKE SHIMANUKI PHOTO/YUKO CHIBA