町に着いたら、本屋をめざそう。Vol.008 ペンギン文庫(宮城県仙台市・移動書店)
知らない町に迷い込むのと、本屋さんで心を遊ばせるのは、どこか似ている気がする。
そして、旅先で出会った本の一節はなぜか、いつも以上に心に残ったりもする――。
全国の町の味わい深い本屋さんが、旅のお供におすすめの1冊を教えてくれる、リレー連載。
静岡県沼津市の「weekend books」の高松美和子さんがご紹介くださったのは、こちらの本屋さんです
更新日:2016/09/09
その場所を目指して訪れる人の
心をくすぐるような本を選んでいます
「ペンギン文庫」は、オーナーの山田絹代さんが暮らす宮城県を拠点に、東北地方などさまざまな場所に出店している移動式書店。
旧式トラックの荷台に造りつけの本棚には、写真集や美術、文芸、詩集など約300冊が並ぶ。現在は音楽フェスやアート関連など自然の中で行われるイベントを中心に出店している。
ほかの本屋さんと違う点は、毎回、ラインナップが少しずつ変わること。
「その場所に合わせて選書できるのが、移動書店のいいところ。出店が決まるたびに、イベントの主催者の方とコンセプトやターゲットとする客層など、細かく打ち合わせをして、どんな本が喜ばれるだろう…とイメージをふくらませます」
本は頼れる相棒とふたりでセレクト。自分の趣味ではなく、あくまでもイベントに足を運ぶ人の心に寄り添った選書を心がけているという。
お店と偶然出会ってくれた人へ、
大好きな詩を名刺代わりに。
ペンギン文庫の店先に置かれた栞型のショップカードには、こんな詩が書かれている。
「お気に入りの一節」
あ 僕はシャボンとコップをタイルに置いた
純粋な日日のやうに
軽いプロペラアの響きにみちて
北園克衛詩集/午後の肖像より
この詩を書いた北園克衛は明治~昭和期にかけて活躍した詩人。
「北園克衛の詩はちょっとノスタルジックで、ハイカラで、でも気持ちが落ち着いて…。この詩のような世界観を形にすることができたら…と思って選びました」
移動書店という形態ゆえ、定期的に足を運ぶことはちょっと難しいから、あまり知られていないけれど、詩に添えられる写真やイラストは季節ごとに変えているのだそう。ペンギン文庫を訪れた人だけのお楽しみだ。
「決して便利なお店ではないけれど、見かけたら「あっ、出会えた!」と思ってもらえたら嬉しいです」
「そんなつもりなかったのに、うっかり本を買っちゃった」
実はそれがいちばんの喜びです。
山田さんが本屋さんを目ざしたのは、かつて仙台にやってきた移動書店がきっかけだった。
「どんな場所でも本がある空間は作れるんだ、トラック一台でこんなにも空気感を変えられるんだ、と感動したんです」
現在、ペンギン文庫で扱っているのは新刊本。書店やインターネットなどでも買える本だからこそ、あえて「ココで買っていこう」と思ってもらうために、選書はもちろん、陳列の仕方やお店の雰囲気づくりも大切にしているという。
「トラックが気になってふらっと立ち寄る方もいらっしゃいます。そんな風に、買うつもりがなかった人にも、本との偶然の出会いを届けられるのが移動書店のいいところだと思うんです」
本を読まない人や活字が苦手な人が、本を好きになる“入口”になれたらと願う山田さんは、今日も新しい出会いを届けるべく、たくさんの本と一緒にトラックに乗り込む。
【今週の町と本屋さん】ペンギン文庫(宮城県仙台市・移動書店)
※出店情報はFacebookやTwitterをチェック
お問い合わせ penguin.bunco@gmail.com
カフェドギャルソン
TEL.022-224-5783
宮城県仙台市青葉区国分町3-2-2おいかわビル2F
月~金11:00~23:00(22:30LO)
土12:00~23:00(22:30LO)
日・祝12:00~19:00(18:30LO)
北園克衛詩集/北園克衛
BACK NUMBER
WRITING/MINORI KASAI