町に着いたら、本屋をめざそう。Vol.006 麦小舎(群馬県吾妻郡・北軽井沢)

町に着いたら、本屋をめざそう。

知らない町に迷い込むのと、本屋さんで心を遊ばせるのは、どこか似ている気がする。そして、旅先で出会った本の一節はなぜか、いつも以上に心に残ったりもする――。全国の町の味わい深い本屋さんが、旅のお供におすすめの1冊を教えてくれる、リレー連載。神奈川県鎌倉市の「books moblo」の荘田賢介さんがご紹介くださったのは、群馬県吾妻郡・北軽井沢のこちらです

更新日:2016/09/22

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キジブックスの建物(小屋)は現在、林業に就いているご主人が建てた Photo/Miwa Uehara

浅間山のふもとに佇む、
小さな小さな本屋さんを目指して。

軽井沢の駅からバスに乗り換え、曲がりくねった山道を進むこと30分。生い茂る木々に囲まれた浅間山のふもとに、週末だけ店を開けるブックカフェ「本とコーヒー 麦小舎」がある。この母屋の隣に建つ小屋が今回紹介する古書店「キジブックス」だ。
「もしかしたら、日本でいちばん小さな本屋さんかも」と笑う店主・藤野麻子さんの言葉どおり、大人2人が入ればいっぱいになるほど。店内をぐるりと見渡せば、山や植物など自然にまつわる本や、文芸書に絵本など、藤野さん夫婦がお気に入りの本が並ぶ。
「はじめはブックカフェだけのつもりだったんですが、7、8年前に村に一軒だけあった本屋さんがお店を閉めてしまって…。本屋さんがないのは寂しいね、と主人と話し合って始めたのがキジブックスです」

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「二十億光年の孤独」谷川俊太郎 Photo/Miwa Uehara

標高1100m、広がる緑豊かな牧草地。
この場所から、数多くの文学作品が生み出された

避暑地、別荘地としておなじみの北軽井沢は、古くから多くの文化人に愛されてきた場所でもある。今回紹介する詩人・谷川俊太郎さんもそのひとり。
「昭和の初めに、文学に関わる人が集まって家を建てた“大学村”という別荘地があるんです。谷川さんをはじめ、今も夏を北軽井沢で過ごしたり、創作活動をされる方も」
この「二十億光年の孤独」も北軽井沢で書かれた一冊。
「北軽井沢に移り住んで12年目になります。以前から谷川さんの詩は好きでしたが、ここに暮らすようになって改めて読み返してみると、詩の中に描かれている風景が、より身近に感じられたんです」

(お気に入りの一節)
懐かしい道は遠く牧場から雲へ続き
積乱雲は世界を内蔵している
(変わらないものはなかった
そして
変ってしまったものもなかった)
「二十億光年の孤独」収録「山荘だより3」より

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旧北軽井沢駅舎。かつてはここに草津と軽井沢を結ぶローカル線が走っていた/壮大な浅間山のふもとに広がる牧草地。藤野さんが大好きな景色だ

スマホの電源を切って、自然が奏でる音に
耳を傾けながら読書を楽しみたい場所。

「もともと北軽井沢は両親が好きで山荘も持っていて。夏休みといえば北軽井沢に行くことが定番でした」という藤野さんにとって、この場所は思い出が詰まった大好きな場所。カフェを始めたのも、北軽井沢の魅力を知ってもらうきっかけになればという想いからだったという。
自慢はなんといっても、浅間山の雄大な景色。曰く「長野県側からも見えるけれど、こちら(群馬県側)から見る景色が断然きれいだと思うんです」とのこと。
夏の、青い空にくっきりと浮かび上がる浅間山も美しいけれど、真っ白な雪に覆われる冬の景色も見事だ。観光地のようにあちこち巡るスポットはないかもしれない。でも、一年を通してさまざまな表情を見せる浅間山を眺めながら、書き手はどんなことを考えていたんだろう――と想いを巡らせ、ページを繰るには、ぴったりの空間だ。

【今週の町と本屋さん】群馬県吾妻郡/本とコーヒー 麦小舎/キジブックス

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麦小舎に置いている本は藤野さんの本棚から持ってきたもの。地元で採れた野菜のサラダを添えたトーストなどの軽食やデザートも提供。10/10(月・祝)に本のイベント「ブックニック in 北軽井沢」を開催予定。

TEL 050-3668-7042
群馬県吾妻郡長野原町北軽井沢1990-3407
10:00~16:00
木~土のみ 営業
※営業日は事前にHPで確認を。小さなお店のため、5人以上での来店は避けて。

おすすめの一冊
二十億光年の孤独 谷川俊太郎

WRITING/MINORI KASAI

※記事は2016年9月22日(木)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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