おもしろいこと、この地から。「週 刊 東 北!」 Vol.004/とんがりビル(山形県山形市)【後編】
今春、山形市の中心地・七日町に誕生した<とんがりビル>。1Fには食堂、ギャラリー、山伏が提案するお店があり、上の階には個性豊かな面々が入居する山形の新拠点。ビルの成り立ちを紹介した前回に続き、<とんがりビル>の街中への、山形への広がりについて聞いてみました。
更新日:2016/08/17
ここでしか体感できない、唯一無二のコミュニケーション
とんがりビルはアートの情報発信基地であり、行った人にしかできない“体験”ができるビルでもある。
「ビルのディレクションをする時に、感覚に素直に反応できるような、柔らかな人たちが集まる場所になるといいな、と思いました」と小板橋さん。実際ビルに足を踏み入れれば、そこには面白いコミュニケーションが生まれているよう。
<nitaki>で食を通じて五感を開き、<KUGURU>では山形で生まれた表現に触れて心をほぐす。<十三時>で山形という土地から生まれた知恵を知り、<festa>では心身の声に耳を澄ませ自分と向き合ってみる。感じ方も解釈も個々の自由。そこにあるのは、自分だけの体験。
例えば<festa>で行われているロルフィングとは、プロのアスリートが怪我の予防・回復やパフォーマンス向上のために活用する人も多いボディワーク。言葉で説明すると、セッションを通じて重力と体の関係性を見ていくボディワーク、ということになるけれど、実態は掴みにくい。
「だからこそ面白いと思っていて。頭でっかちになりがちな今の時代、体験しないとわからないということは貴重でしょう。そもそもアスリートは感覚が研ぎすまされているので、アートとの親和性も高いんです。そんな人がメンテナンスに訪れる場所になれば、きっとビル全体の文脈が広がるのではないかな」と、とんがりビル全体のディレクションを担当する小板橋さんは話す。
アートという手段で町や人の魅力を照らす
1Fのギャラリー<KUGURU>は、月替わりで山形や東北に縁のある若手作家を中心にした展示を行っている。そのディレクションを行っているのが、宮本武典さん。キュレーター・アートディレクターであり、東北芸術工科大学で准教授・主任学芸員を務め、山形ビエンナーレのプログラムディレクターも兼任している。
「山形には現代アートが常設で見られるようなギャラリーがなかったんです。<KUGURU>では山形らしい発信をして、アートを身近に感じられる場所でありたい」と話す。
9月には、<東北芸術工科大学>が主催する、地域密着型の現代芸術祭、<みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ>の2回目が控えている。
「僕たちは東日本大震災以降、アートやデザインが社会の役に立てることはなんだろう? と問いかけてきました。アートやデザインを通じ、山形や東北に日常とは異なった光をあてることで、新しい風景を見ることができるかもしれない。また、体験がきっかけとなり自身のアクションにつながっていくことにも期待しています。<山形ビエンナーレ>は、“街を面白くする人をつくる”芸術祭でありたいと思っているんです」。
郷土に根付き、個性を磨く。
ワクワクの輪はとんがりビルから山形へ。
「人が集まり、町の拠点となるビルをめざし、今後はいろいろなことを仕掛けていきたいと思っています」と小板橋さん。それは、旅行者が山形に降り立った時にまずは立ち寄り情報収集をする場所であり、地元の人が新しいことや面白いことを探している時に行きたくなるような、そんな場所なのだろう。
現在は隔月でとんがり通信を作ったり、<nitaki>の食事と組み合わせたイベントを行ったり。店同士のゆるやかなつながりはあるけれど、足並みを揃えて一緒に行動するという感じではないという。
「山形を面白くしたい、という思いをベースに、個々の本分を磨いていくこと。それが結果的に面白いケミストリーを生み、お互いを刺激し合う存在になるのだと思っていて。
今後は店と地元の関係をより深めていきたいですね。例えば地元の農家さんとの連携をより密にすることが山形ならではの特色となり、とんがりビルの個性になると思っています。ビルが面白くなることで、そのエネルギーの輪が少しずつ広がり山形全体が元気になる、そんな未来を思い描いているんです」。そう小板橋さんは話してくれた。山形のこれからが楽しみになってくる。
【今週出会った、東北の素敵な町・店・人】 とんがりビル
TEL023-679-5433(マルアール)
山形県山形市七日町2-7-23
営業・定休日は店舗によって異なる
アクセス/山形駅からバスを利用。七日町バス停下車、徒歩4分
みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2016
<会期>2016年9月3日〜9月25日。今年のテーマは、『山は語る』。2014年の『山をひらく』に継いで、人や自然に耳を澄ませ、山形の物語を表現する。今年はエリアを市外へも広げ、より多くの人を巻き込み、アートを拡散する予定だとか。
LIFEKU(ライフク)
震災後の2012年に発足。福島の商人同士が協力・共存して商業振興と社会貢献を行い、福島のセンスとスタイルを伝えるプロジェクト。ライフクには、福島に来る、福が来る、福島に暮らすの意味が込められている。
ヒトト
「風土を食べる」をテーマにしたマクロビオティックカフェ。2016年1月に前身のベースカフェを含め9年間の吉祥寺での営業を終え、9月に福島でのオープンに向けて準備中。
WRITING/AKIKO MORI PHOTO/KOHEI SHIKAMA(akaoni)