おもしろいこと、この地から。週刊東北 Vol.003/とんがりビル(山形県山形市)【前編】

週刊東北

【毎週水曜 16:00更新】
今春、山形市の中心地・七日町に誕生した<とんがりビル>。1Fには食堂やギャラリー、山伏が提案するお店があり、上の階には個性豊かな面々が入居する山形の新拠点。<とんがりビル>が考える、山形のこれからとは?

更新日:2016/08/13

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(上)取材した日は、福島市<ヒトト>の奥津爾さんをはじめとするチームが視察に訪れていた。彼らも今夏、複合ビルに移転するため、現在準備中なのだとか(下)築40年のビルをリノベーション

食堂がオープン! <とんがりビル>いよいよ完成

2016年4月に入り、食堂<nitaki>がオープンしたことで、より開かれた場所になった<とんがりビル>。店の前にはメニューが描かれた黒板があり、誘われるように入店する人や、足を止めてじっくりと見入る人もいる。
料理を担当する、店長の今 奈美絵さんは「山形の食材を使って郷土料理に新しい解釈を加えたり、食べ方の提案をしています」と話す。

ランチの定番となっているのは、日替わりの「nitakiプレート」。彩り豊かなお皿の中に、ミニトマトの三五八漬けがあった。三五八漬けとは米麹を使った漬物で、山形をはじめ、東北ではなじみ深い郷土料理。トマトのフレッシュな酸味に麹のまあるい旨味と塩気が加わり、サラダのようでもあり浅漬けのようでもある、新しい味わい。
「ゲストの中には料理法を尋ねてくれたり、キッチンを興味深げに覗く方がいたり(笑)。この一皿から、始まる交流が嬉しい」とも。

気持ちをゆるめ距離を近づけてくれる体験が、ここにはあるのだろう。食堂であると同時に、ビル全体の玄関でもあるこの場所は、地元の人から旅行客まで、ふらりと入れる山形への新しい入口でもある。

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(上)その日の食材を見てメニューを決めるというランチプレート。野菜のおいしさが際立っていた(中)<nitaki>のスタッフ(下)季節の果物で作った、美しい色合いの自家製酒がずらりと並ぶ

山形の文化を体験できる場所として

<とんがりビル>に入っているのは、個性豊かな店子たち。
1Fの食堂<nitaki>の横にあるのが、山伏の坂本大三郎さんが営む、本と雑貨の店<十三時>。店内には東北産のふりかけやろうそく、大小のこけしなどがあり、本棚には山や自然にまつわる書物が並ぶ。そんな中でも目を惹くのは、山仕事で使うかんじきや蓑、山の中で息絶えたイタチの毛皮等々の想像力を刺激する品揃え。

「ここは山形の文化を体験する場所としての意味合いが特に強いかもしれません。手に取ってみるだけでもいいし、店主に話しかけてもいい。そこから始まる好奇心もあるかもしれない。お店に行く、という行為の中にはモノを売買するだけじゃない面白さがあるでしょう」と小板橋さんは話す。
その奥には、ギャラリーやイベントを行うフリースペ−ス<KUGURU>があり、ここはアートとデザインのラボのような場所だという。

そして2Fには写真スタジオ<Sundae Booth>、3Fにはアメリカで生まれたボディワークとヨガを組み合わせた、ロルフィングスタジオ<festa>と体験型のスペースが続く。
4Fの<TIMBER COURT>は手作り家具のショールームで、とんがりビルの内装のディレクションも担当。ブランドでもなく量産でもない手作り家具に、自分でミツロウを塗りメンテナンスすることで風合いを育てていく楽しさを教えてくれる。

「<とんがりビル>にはさまざまなジャンルの店があり、個々の自由な表現があります。訪れるゲストにもそれぞれに見て触れて、感じて楽しんで、自分だけの山形像を持って帰ってほしい」と小板橋さん。

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山伏として得た知識をアウトプットする場でもあるという<十三時>/<TIMBER COURT>の店内には家具だけでなく、木とスチールを使った雑貨やアクセサリーも/ロルフィングスタジオ<festa>/ギャラリー<KUGURU>/<Sundae Booth>で奥津さんと福島チームが記念撮影

山形を、自分たちの手でもっとワクワクする場所に

なんともチャーミングな<とんがりビル>の名前の由来は、人々が山の麓に集まってお祭りをしているようなイメージと、山形にはとんがっている山が多いことからだそう。

<とんがりビル>があるのは、山形駅からバスで10分ほどの中心街にあるシネマ通り沿い。かつては映画館がいくつかあったことから名付けられた通りも、今は名前だけが残るのみ。近隣には空きビルやシャッターが閉まった店が増えていたという。

そこで、山形を元気にするべく立ち上がったのが、デザイン事務所アカオニの小板橋基希さん、みかんぐみの竹内昌義さん、OPEN A/東京R不動産の馬場正尊さん、山形R不動産の水戸靖宏さんの4人。建物を直して町に活気を呼び戻すことを目的に、2015年に共同でマルアールを設立。<とんがりビル>のプロジェクトが動き始めた。
「自分たちが暮らす場所を自分たちの手で面白くしたいと思うんです。町づくりは行政だけが頑張ってもだめ。民間で立ち上げることに大きな意味があると思うから」と、小板橋さんは話す。

“山形を元気にしたい”という彼らのイメージの根底には、賑わいが賑わいを呼び、エネルギーに満ちあふれ自然と心が踊る、そんな山形のお祭りの原体験があるのだろう。
【8/17リリースの後編に続きます】

「週 刊 東 北!」
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福島チームはアカオニと縁があり、小板橋さんと打ち合わせ/とんがりビルの青写真となった図面

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TEL.023-679-5433(マルアール)
山形県山形市七日町2-7-23
営業・定休日は店舗によって異なる
アクセス/山形駅からバスを利用。七日町バス停下車、徒歩4分

WRITING/AKIKO MORI PHOTO/KOHEI SHIKAMA(akaoni)

※記事は2016年8月13日(土)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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