THE TIME TRAVEL 時間旅行Vol.003/foodscape!(大阪府大阪市)【前編】
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【毎週火曜 6:00更新】
旅をして、日本各地の作り手に出会い、私たちに手渡していく――。“料理開拓人”として、さまざまなアプローチで食の尊さを伝える堀田裕介さん。彼がこの1年、誰でも気軽に食に向き合える場所として生み出した、2つのカフェがあります。前編では、大阪駅からほど近い福島エリアのベーカリーカフェ「foodscape!」の物語をお届けします
更新日:2016/08/09
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純国産鶏のさくらたまごのたまごサンド400円、米粉のクロワッサンの中に板チョコを入れたパンオショコラ210円、カフェラテ380円。パン生地は国産小麦をベースに、酒かす、味噌、米粉などの日本古来の食材を練り込む/幅広い年代のお客さんに、スタッフの明るくて丁寧な対応が気持ちいい。1Fはベーカリーの奥がカフェスペースに
各地の食材をパンに凝縮したfoodscape!が1周年。
“食の当たり前”に気付く場所
大阪・福島の国道沿い、ガラス張りのおしゃれな店から出てきた旅行客風の女性2人が満足そうに顔を見合わせた。「やっと来られてよかったね!」
ここfoodscape!は、ベーカリーとコーヒースタンドを併設し、さらにケータリングやイベントも行う「大阪にはなかったスタイル」の店。1階のベーカリーは、「FARM TO BAKERY」をコンセプトに、オーナーの堀田さんがこれまで出会った生産者の食材を使ったパンが約60種類並び、それぞれのポップで食材の産地や作り手を伝えている。
「都会にいると忘れがちですが、食べ物は、育てる人、獲る人、運ぶ人、作る人・・・、たくさんの人の手を経て届けられるもの。誰でも利用しやすいパン屋さんを入り口にして、そんな“当たり前のこと”に、もう一度目を向けてもらえたらと思っています」
そして、パンの相棒になるコーヒーにももちろんこだわり、芦屋のスペシャルティコーヒー専門店「TORREFAZIONE RIO」に特注したオリジナルブレンドを提供する。バターの風味に合うようにブレンドされた一杯を、カフェスペースでパンと一緒に楽しむことも可能。2016年6月末で、オープンから1周年。地元の人はもとより、SNSなどで堀田さんの活動やお店の評判を聞いた人たちも全国から訪れ、毎日平均200人以上が利用する人気店に。
「食に関することは写真や文章だけでは伝わらないから、お店に足を運んでもらい、食べて体験してもらうことがいちばんですね。僕も、実際に生産地を訪れて体感したことが活動の軸になっていますから」
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6月24日の1周年記念パーティには、常連さんや生産者など約150人が。鳥取産の無農薬栽培のスイカを使ったスペシャルカクテルや、淡路島産釜揚げシラスのタルティーヌなどが大好評。店づくりに関わった人を堀田さん(右から5人目)がおもてなし
生産地の美しい風景を料理で表現したい
堀田さんはこれまで拠点を持たず、月の半分以上、地方の生産者を巡りながら、イベントなどで料理を振る舞って来た。その旅の中で堀田さんの心を捉えたのは、畑や港の美しい風景、そして黙々と作物に向き合う生産者たちの真摯な姿だった。食材が育まれる「風景」を、都会の人に伝えたい。フードと、風景や景色という意味を持つランドスケープを合わせた「foodscape!」には、そんな願いが込められている。
20年以上、飲食店畑をひた走り、食材や生産者について意識したのは10年ほど前。同世代の農家さんと出会ったことがきっかけだそう。
「滋賀県の米農家『みたて農園』の立見さんをはじめ、若い農家の方と親しくなったことが大きかったですね。季節ごとに産地へ通い、農作業を共にして作物を育てる楽しさや大変さを体感したことで、生産者とお客さんをつなぎたいと思うようになったんです。そして、生産者は遠い存在ではなく、一緒に食材を作り上げる仲間なんだと、僕らの意識も変わっていきました」
どの生産者とも、ビジネスを超え人と人して確かな信頼をつないできたからこそ、foodscape!では商品ポップはもちろん生産者を招いた料理会なども企画して、その関係性ごと見せていきたいという。「パンの背景にある僕らの絆に、共感してくれるお客さんも多いと思うんです」
淡路島産の釜揚げシラスや、なにわの伝統野菜、貴重な純国産の卵を主役にしたタルティーヌやサンドイッチ・・・。各地の恵みを詰め込んだパンを楽しみにしているのは、お客さんだけではないよう。地方から遠路はるばる、生産者たちが店を訪ねてくるのだとか。
「自分がつくった作物がどんな形でお客さんに届けられているか、それを見てもらえば生産者の方の意識を高めることにもつながります。foodscape!は、食材を育んでくれた生産者への恩返しの場でもあるんです」
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パーティの終盤にリフティングのパフォーマーが登場。場を盛り上げ、拍手喝采!/ロースターのセレクトやスタッフへの抽出技術の教育など、foodscape!のコーヒーを監修しているバリスタの石田さんと堀田さん
多くの人に届けるために、食の楽しみ方を切り開く
堀田さんの肩書きである「料理開拓人」は、周りの人がつけてくれたそう。イベントやケータリング、食育などの講演会、食と音楽のライブパフォーマンスなど、多彩な切り口で食のあり方を追求する堀田さんの活動を表している。
新しい道を切り開くとき、慣習は余計なものなのかもしれない。料理人の世界では、自分が見つけた食材や技術は人には教えないのが常識。でも堀田さんは、いい食材や生産者は、他のお店や企業にも惜しみなく紹介する。「僕はいいものはどんどん広めたいし、シェアしたい。そうすれば生産者が潤い、外からいろいろな意見が入ることで技術も向上して、食材の質が上がりますからね」
「彼はとても視野が広く、常に先を見据えているんです」と言うのは、堀田さんと20年来の付き合いがあるバリスタの石田謙介さん。
「地方の食材に注目したり、“食の安心、安全”を謳うことは珍しくなくなってきましたけど、堀田くんはそれだけじゃない。みんながおいしい、楽しいと感じられるような形でリリースし続けている。だからこそ、彼の活動がさまざまな人と食をつなぐ接点になるんじゃないかな」
いいもの、おいしいものをみんなに届けたい。堀田さんの根っこにある思いは、とてもシンプルだ。
「食べることと生きることは直結しています。食が充実すれば、人生は今よりもっと豊かになる。食をないがしろにしないで、食べるものを自分の目できちんと見極めてほしい。foodscape!がそのきっかけになれたらいいなと思っています」
【今週の時間旅行 to 大阪
foodscape!(フードスケープ)】
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TEL 06-6345-1077
大阪府大阪市福島区福島1-4-32
営業時間/8:00~20:00
アクセス/東西線新福島駅より徒歩5分
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WRITING/ASAMI KUMASAKA PHOTO/EDDY OHMURA