おもしろいこと、この地から。「週 刊 東 北!」
Vol.001 @福島県三春町
【毎週水曜日 16:00 更新】
2016年春、器と生活道具のお店「in-kyo」が東京から移転した先は福島県の小さな町・三春町。店主・長谷川ちえさんは何を求めて移住したのだろう?
更新日:2016/07/27
3度目の引っ越し、変わらないもの
in—kyoのはじまりは2007年、下町らしい雰囲気が色濃く残る台東区蔵前から。
日々の暮らしについて綴ることも多いエッセイストのちえさんが「月日とともに積み重ねたくなるような、器や生活道具を提案しよう」と始めたお店。その5年後に蔵前からすぐ近くの駒形に移転。そして2016年、結婚を機にパートナーが暮らす緩やかな山並みが美しい福島・三春町へ。
古い美容室をリノベーションしたという店内は広々としていて、フローリングの床と漆喰の壁の白さが気持ちいい。オープンの時から使い続けているというクレーンランプが店を照らし、東京時代からお付き合いが続いている、くまがいのぞみさんの器や宮下智吉さんの漆器があり、ちえさんの選んだ本や雑貨類が並ぶ。
「リノベーションしている段階から何ができるんだろうと気にかけてくれる方が多くて。周りに説明するために偵察に来た、というお婆ちゃんもいました(笑)。これは私も想定外で、嬉しい誤算。三春町には好奇心旺盛で元気なお年寄りが多いんじゃないかな」。
店内のレジスペースの奥には、ゆったりと取られた小上がりのキッチンスペースも。「ここでも引き続き徳島のアアルトコーヒーを淹れています。ちょっとゆっくりしてもらえたら」と話す。
福島という土地との出会いとつながり
ちえさんと福島との縁を繋いだのは、あんざい果樹園。福島市のフルーツライン沿いにある果樹園に、自宅を改装した器とギャラリーのスペースと直売所を改装したカフェを併設し、時には屋外ライブの会場にもなるその果樹園は10年以上も前から福島の知る人ぞ知るスポットで、遠方から訪ねて来る人も多かったそう。(現在は果樹園のみの営業)
「イベントをきっかけにあんざいファミリーと出会い、お母さんの温かい人柄に惹かれて畑作業を手伝いにいくように。一緒にごはんを作って食べて泊めてもらって、まるで家族のような時間を過ごさせてもらうようになり、福島を訪れる機会も増えていきました。そしてあんざいファミリーを介して大切にしたい仲間もたくさんできて、気がついたら福島は、私にとってひと際愛着のある場所になっていました。
大切な人や好きな店がある土地は物理的な距離を超えて、近くに感じると思うんです。もちろん災害があれば心配になるし、何かできることはないだろうかと思いますよね」
穏やかな時間が流れる三春町で、暮らしに軸を置いて
「これからはこの三春町で『暮らすこと』に本気になって向き合っていこうと思っているんです」と、ちえさん。
「今まではお店の存在が自分の軸であり何よりの優先事項で、自分のことはどうしても後回しになりがちだった。今日出来る仕事は片付けてしまおうと、夜遅くまでお店に残ることもあったし、東京だとそれが当たり前というムードもありますよね」。
確かに、東京は夜遅くなっても街灯がこうこうと照り、人が行き交い、町が動いている気配がある。でもここ三春町は夜の7時にもなると真っ暗になり町は静まり返るという。
「三春町の時間の流れの中では、早寝早起きの生活サイクルがごく自然なことで、まずは自分の暮らしに軸足を置いてしっかりと整えようと思うし、それができると思うんです。そのうえでお店の在り方というものを大まじめに探っていこうと思ってます。結婚をして家族を持ったこともあってそんなふうに考えるようになったのかもしれません」。
ちえさんの軸足は、分身でもあったお店から自分自身へ。穏やかな時間が流れる三春町が、ちえさんの新しい決意を後押ししているように見える。
【8/3リリース 後編へ続きます】
【今週出会った、東北の素敵な町と場所】福島県三春町・in-kyo
エッセイストとしても多くの著書を持つ長谷川ちえさんが営む、器と生活道具を扱うお店。
TEL:0247-61-6650
福島県田村郡三春町中町9
営業:10:00~17:00
定休日:水
アクセス/JR磐越東線三春駅下車徒歩20分。バスの利用は中町バス停下車。車の場合は磐越自動車道郡山東I.C.下車
●あんざい果樹園/utsuwa.gallery あんざい
TEL:024-591-1064
福島県福島市町庭坂原ノ内14
営業:11:00~17:00
定休日:月~水
●福島県三春町
国の天然記念物に指定されている滝桜の他にも1万本の桜があり、歴史的建造物も多く、その数は20ケ所以上も。四季折々に美しい風景に出会える町。東京からJR三春駅までは東北新幹線と磐越東線を乗り継いで約2時間
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WRITING/AKIKO MORI PHOTO/KOHEI SHIKAMA (akaoni)