OZ発、プチトリップ

400年前のお殿様と同じ景色を見る。名古屋城本丸御殿は最高峰の日本美術展

更新日:2018/06/16

日々ロケハンに出かけたり、個人的に旅をしたりしているOZの編集部にとっては、毎日が新しい発見や出会いに満ちた小さな旅。ページには載らない裏話やエピソードをお届け。今回は、にわか歴女になり城めぐりと日本画にハマっている編集Yが、名古屋城本丸御殿の完成おひろめツアーに参加してきました。

名古屋城本丸御殿上洛殿二之間天井板絵

美しい曲線を描く玄関の屋根は杮葺き(こけらぶき)で、厚さ3mmの木材を重ねて造られています

2018年6月8日(金)から一般公開された「名古屋城本丸御殿」が、10年に及ぶ年月をかけてとうとう完成に至りました。初代尾張藩主・徳川義直(家康の九男)の住まいとして今から400年以上も前、慶長20(1615)年に建てられた壮大な建物です。
実は私、2年前に第2期工事が完成したときも訪れていて、名古屋を訪れるのはその時以来なのですが、さらに名古屋城の素晴らしさを実感することになりました。今回は上洛殿と呼ばれるもっとも格式の高い豪華な部屋が完成し、永きにわたる工期が完了したとのことで、メディアもたくさん訪れていました。

今までのお城めぐりとはイメージが全く違う!名古屋城本丸御殿の魅力

今回初めて公開された部屋のひとつ、上洛殿一之間。飾り欄間の彫刻は必見

修復ではなくて復元。その意味をかみしめる

歴史のある建造物を現代のわたしたちが見るとき、通常思い浮かべるのは築ウン百年の建物で色が薄くなった部分を塗りなおしたり、欠けた部分を補強したりといういわゆる「修復」。ところが今回、約10年をかけて完成した名古屋城の本丸御殿は、ヒノキの香りが漂う新築のピッカピカ! まさにその当時のお殿様たちと同じ景色が見られる「完全復元」なのです。
江戸時代初期の最新技術と最高峰の芸術を集めて作られた本丸御殿。障壁画は当時もっとも旬な狩野派の面々、デザイン・設計等は400年前の名工たち、その魂と技術を受け継いだ現代の名工たちが平成の本丸御殿を作り上げたと思うと胸が熱くなります。今見ても全く古くなく、むしろとても崇高な日本美術と伝統建築とデザインの展覧会を見に行く気分で訪れるべきなのかもしれません。

戦災焼失前の上洛殿二之間より一之間西北側をのぞむ(名古屋城総合事務所所蔵ガラス乾板写真)

かつては日本にお城が25000以上もあったとも言われていますが、築城当時の建物が現存するのはごくわずか。名古屋城は、国宝に指定されるなど大切に残されていたのですが、残念なことに昭和20年の空襲で天守閣もろとも焼失してしまいました。ところが、この価値を知っていた当時の方が、戦前に実測図面や写真などをきちんと残していて、戦争中も疎開させて当時の豊富な資料が無事に残っていました。400年前の姿をこんなに忠実に復元できる御殿は日本でここだけなのです。

もっとも格の高い上洛殿上段之間。家光公は一体ここに何日滞在したのでしょうか?

奥に進むにつれて高くなる「格」の違いを楽しむ

当時、このお城に来る可能性がありもっとも「格」が高い人と言えば? そう、当時江戸城にいた将軍です。記録によると三代将軍家光が上洛(京へ赴くこと)の際に宿泊するため、上洛殿を新築したとされています。普段住んでいない方のためにいちばん豪華で格の高いお部屋を用意する、そのおもてなしの心と情熱にジーンと来ます。
金や漆など贅を尽くした装飾に、天才絵師と言われた狩野探幽はじめ狩野派による障壁画。決して一般庶民が見ることのできなかった徳川家御用達の景色を、タイムスリップして見ることができるなんて、なんていい時代になったのでしょう!

(上)玄関一之間の「竹林豹虎図」(左下)上洛殿西入側の猿がキュート(右下)釘隠しの飾り金具ひとつとっても細かい細工に驚く

家臣や客人が訪れる玄関一之間では、虎の障壁画がお出迎え。訪れる人たちは金地に描かれた虎の迫力に圧倒されたとか(でもよく見るとかわいい顔をしています)。そこから将軍が宿泊する格の高い上洛殿に移動するにつれて、金具や天井、欄間などはどんどん手の込んだ豪華なものになるのですが、障壁画などは逆に色味が少なくなり、スッキリと洗練されて不思議と落ち着いた気分になっていきます。この画を手掛けた狩野派の規格として、動物のモチーフはもっとも格が低く、次いで花鳥、人物と来てもっとも格が高いのは山水画。画法も金地濃彩画よりも水墨画の方が格が高いのだとか。そんな知識を知ってから見ると、楽しみもぐんと増えるものです。

(左)家康様いわく「部屋を見るときはな、将軍と同じ目線で座ってみるのがよいぞよ」(右)清正像の前で説明をする清正様。「最近ヒゲを剃ってしまって、あまり似てないかの」

ただのイケメンにあらず。「名古屋おもてなし武将隊」

今回のツアーでは恐れ多いことに「名古屋おもてなし武将隊」の徳川家康様と加藤清正様による直々の案内をしてもらいました。お2人ともシュッとしたイケメン武将ですが、実は歴史や芸術に関する知識が半端なく、ユーモアたっぷりに分かりやすく説明してくださいます。御殿の中を案内してくれた家康様は、外国人観光客に向かって「おお~異国からよう参られた。Welcome to Nagoya Castle.」などと突然流暢な英語を話しはじめるという意外な一面も。屋外の城内エリアでは清正様が名古屋城を造るときのエピソードを話してくださいました。今、天守閣は木造復元をめざして調査を兼ねて閉館中。「この間石垣を調べてたらな、ワシの家来の名前が新しく発見されたんじゃ。みんなよう頑張ってくれてたな」などと“当時”を振り返っていました。

お腹がすいたら金シャチ横丁でなごやめしに舌鼓

名古屋城を堪能したら、隣接する「金シャチ横丁」でごはんタイム。こちらも2018年3月にオープンした新名所。名古屋の名店がそろっていて、ここだけでしか食べられないスペシャルメニューを出すお店も。この日は暑かったのであっさりしたものが食べたいと思い、「那古野茶屋」で湯葉入りの上品なつけ麺を食べた勢いで、かき氷を追加オーダー。するとさすが尾張名古屋のお膝元、かき氷の上に金箔がキラキラと輝いています。
正門のそばの義直ゾーンはひつまぶしや名古屋コーチン、味噌煮込みうどんなど定番なごやめしの老舗系、東門そばの宗春ゾーンはあんかけスパや台湾まぜそば、イタリアンなど新進気鋭のお店が揃っているので、ハシゴするのも楽しそうです。

名古屋で今注目の、おしゃれスポットによりみち&おさんぽ

その1:古き良き町並みをぶらぶらしたくなる四間道

せっかく名古屋を訪れたなら、王道だけでなくイマドキのカフェとかおしゃれなスポットとかにも行ってみたいと思い、今アツいエリアをジモトの方に聞いておさんぽしてみました。

ひとつは、名古屋城と名古屋駅のちょうど中間あたりに位置する「四間道(しけみち)」。白と黒で統一された風情ある町家や蔵などが立ち並び、最近はスタイリッシュなレストランやカフェがぞくぞくとオープンしています。私は中途半端な時間に行ってしまったので、あまりお店が開いていなかったのですが、着物を着てそぞろ歩きしたくなるようなフォトジェニックな町並みをおさんぽするだけでも楽しいです。

その2:ゆる~くクリエイターたちが集まる覚王山エリア

そしてもうひとつ、今名古屋で住みたい街として注目されているのが、名古屋駅から電車で15分の「覚王山」駅周辺。駅から日泰寺への参道周辺を中心に、昔ながらの商店に混じって路面店の小さなカフェや雑貨屋さんなどがポツポツと点在していています。その中のひとつ「覚王山アパート」はゆるーくクリエイターたちが自分たちの作品を販売するショップや、小さなギャラリーがつまっていて、ちょっとディープでキュートな世界が広がっています。

今回の名古屋城本丸御殿のようにお目当てを決めて訪れるのも楽しいし、ふらっと知らない街を歩いてみるのも楽しい。名古屋はまだまだ奥深いところで、またリピートしてしまいそうです。

※記事は2018年6月16日(土)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります