OZ発、プチトリップ vol.025 島根県・世界遺産に暮らすということ
日々ロケハンに出かけたり、個人的に旅をしたりしているOZの編集部にとっては、毎日が新しい発見や出会いに満ちた小さな旅。ページには載らない裏話やエピソードをお届け。今回は、編集Mが初めて訪れるスポットばかりの島根と広島の旅、1日目の島根編。
更新日:2017/10/10
島根と言えば壮大な出雲大社や美しい松江城、最近外国人にも人気の足立美術館など数々の名所がありますが、忘れてはならないのが、世界遺産の石見銀山。今回、初めて島根県を訪れて主な観光スポットを巡ったのですが、特に印象に残っているこの町のことをお伝えできればと思います。
銀山の跡地を巡り、当時の人々に思いを馳せる
石見銀山だけが世界遺産と思っている人が多いのですが、正確には「石見銀山遺跡とその文化的景観」が世界遺産。銀山を中心に発展してきた技術や仕組み、銀を運ぶルートや東アジアの交易に大きな貢献をしたこと、歴史と自然を守りながら人々が今も豊かな生活を営んでいることなどをすべてひっくるめて文化的な価値があると認められたのです。
今回ガイドをしてくれた安立聖さんがすごい。電動付自転車を借りて間歩(まぶと読みます。銀を採掘した坑道のこと)までゆるやかな坂道をひたすら登って行くのですが、そのスピードが速い速い。途中のスポットで解説してくれるのでこまめに停まってくれるのですが、付いていくのと説明を聞くのに必死。その分非常に濃い密度で、当時の銀山での作業や人々の暮らし、現在の町おこしの様子まで詳しく知ることができました。
間歩は600以上とたくさん残っていますが、坑道跡の中を見学できるのはわずかふたつ。そのうち唯一常時一般公開している「龍源寺間歩」を歩きます。中はひんやりしていて、富士山のふもとにある風穴(ふうけつ)を思い出しました。氷こそないけれど、暗いトンネルが延々と続き、時々上からピチャンと水が垂れたりして、ひとりで歩いたらちょっと怖いかも。ここは非常に良質な銀がたくさん採れる場所で、昼夜交代で掘る人・石を運び出す人・水を汲み出す人・空気を送る人など専門分業制で効率よく産出されていたのだそう。
ゆるゆると歩きながら間歩を見学したら、自転車でびゅーんと町並み地区へ戻ります。この坂を一気に下る爽快感は最高です。歩くのがよっぽど好きだという人以外は、レンタサイクルをおすすめします。
遺産だけど現役。人々が暮らす町並みを歩く
町並み地区に着いたら「群言堂 石見銀山本店」でひと休み。ここは築約150年の商家をリノベーションしたライフスタイルの発信地。センスのいい雑貨や自然素材のアパレル、カフェ、佇まいも中庭もなにもかもがさりげなくおしゃれで素敵です。今でこそ古民家カフェやライフスタイルショップのブームですが、こちらは約30年前にオープンしたいわば先駆け。こんな静かなところから出発して、今や全国各地にもショップやカフェがあり、オンラインショップも手掛けています。
ここでは地元で採れた梅を使ったパウンドケーキをいただきました。添えられたミルクのアイスと共に箸でいただく珍しいスタイル。箸の先が細いのでスムーズに食べられます。ほんのり甘酸っぱい梅としっとりとしたスポンジが好相性で、やさしくも大人の味わいを感じさせるスイーツでした。
美しい木造の建物で統一された通りは、普通の住宅の中にお店が点在していて、ガイドの安立さんはそこですれ違う人すべてが顔見知りというか友達。住民のみなさんが私達にも気軽に挨拶してくれたり、通り沿いの縁側にさりげなく手づくりのオブジェやお花が飾ってあったりと、とても心地よいおもてなしの心を感じます。最近ではUターンやIターンの方が増えて、にわかにベビーラッシュが起きているのだそう。
銀山の間歩も大森の町並みも、個人で見学してもいいのですが、ガイドをお願いしないと理解も楽しさも半減です。この土地に対する愛情もじんわりと伝わってきて心が温かくなり、初めて来たのにまたすぐ来たくなるような魅力にあふれた町でした。
温泉と神楽で古の世界へタイムトリップ
石見銀山から車で30分ほど、今夜の宿は温泉津温泉(ゆのつおんせん)へ。銀の積み出しや銀山への物資補給として栄えた港町で、こちらも世界遺産の一部です。湯治場としても有名で、人々が癒されるのにふさわしい、レトロな町並みに古くから愛されている天然温泉が豊富に湧いています。
夜は宿から歩いてすぐの龍御前神社(たつのごぜんじんじゃ)で夜神楽を見物。今回の石見神楽は地元の若者たちを中心に上演されるとのことで、どんなものかと思って観たら、とんでもなく素晴らしく迫力があり、見ていてもストーリーが分かりやすく楽しい! この日の演目は、ヤマタノオロチをスサノオノミコトが退治する「大蛇(おろち)」という有名なお話。小さいころからお祭りや集まりでこれを見ていた子供たちは神楽と共に育ち、自然とこの伝統を継承していくのだそう。
「石見銀山遺跡とその文化的景観」が世界遺産になっている理由は、歴史と伝統を大切にしながら営んできた暮らしが、きちんと今も息づいているからなのだと感じました。
OZ発、プチトリップ vol.026
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WRITING/YUKO MUKAI(OZmall)