よりみちエッセイ #01 難波里奈さん(東京喫茶店研究所二代目所長)

よりみちエッセイ

更新日:2017/06/12

よりみちエッセイ

「思いついたら、よりみち」

皆さんは日々、会社や学校などから自宅までの道をどのように帰っていきますか? 駅の出口は南口? 北口? 構内から出たら右へ行くのでしょうか? それともまっすぐ?

 日々は忙しなく、無意識のうちに毎日決まった道を歩いて、同じ時間の赤信号で止まって。同じ速度で隣を歩く知らない誰かの顔さえ覚えてしまうこともあるかもしれません。

少し時間のある帰り道。いつもと違った時間を過ごすために、たまには「よりみち」をしてみませんか?


思えば、私は昔から「よりみち」というものがとても好きでした。

春は淡い花びらに誘われて桜並木のある方へ、夏はむせかえるような力強い植物の匂いに引き寄せられて、秋はかさかさした落ち葉を踏みながら誰もいない公園へ、冬は珍しく降った雪を眺めるために喫茶店の窓際の席へ。

ただ自分の好きなように歩くというのは、なんて気持ちの良いこと。わざわざ遠くへ行かなくとも、いつもの駅の1つ前で降りて、知らない道へ迷いながらも歩いてみる。そうして出会ったのは、翌日の朝が楽しみになる美味しそうなパンがたくさん並べられたパン屋、今度誰かを連れて行きたくなる雰囲気の良い居酒屋、まるで店主の自宅の本棚をこっそり覗いているようでわくわくする小さな本屋、1人でぼんやりするのにちょうど良い路地裏の喫茶店・・・。


人気のある店は、雑誌やテレビなどで知ることができますが、知る人ぞ知るという素敵な場所はまだまだたくさんあって、よりみちの途中などに思いがけず出会えたりするもの。

誰かに教えたくなるような、それとも自分だけの秘密にしておこうかと迷ってしまうほど、大切なものや場所が増えていく幸せ。他の人から見たらなんでもないような風景も、自分にとっては額に入れて飾っておきたいものだったりするのです。

また、「よりみち」というのは、明確な目的のために動くのではなく、自分の気持ちが自然と動く方へ引き寄せられていくことであり、今縛られていることからしばし心を逃避させて、次の日からまたがんばれるためのご褒美のようなものでもあると思うのでした。

たとえ急いでいてもぼんやりしていても時間は勝手に進んでいくもので、自分が生きている限り過去にも未来にも繋がっています。
今に至るまで切実に必要ではないもの・ことを多く好んできましたが、それらはとても楽しく、そう考えると「無駄なこと」というのはあまりなくて、むしろそこにこそ楽しさがあるのかもしれません。

今まで知らなかった街がこれからの「目的地」となり、また新しく知らない街へふらふらと。


よ  よりたのしいことをもとめて
り  リセットしたきょうをあしたへ
み  みんなにもおしえたくなる
ち  ちょっとしたしあわせ、楽しいこと

素敵なことは、いつもよりみちのその先に。

PROFILE/訪れた喫茶店は1700軒以上。著書に「純喫茶、あの味」(イースト・プレス)など

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※記事は2017年6月12日(月)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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