親子代々、師弟代々・・・襷を脈々とつなぎながら、発展してきた浅草。歴史ある名店が多いけど下町らしく気取らず、初めてでも大歓迎の懐の深さも魅力。今回は、創業70周年を迎える洋食店をピックアップ。さらに、あわせて訪れたい甘味処や喫茶店、バーもご紹介。長く愛される、昔ながらの魅力に溢れた雰囲気を堪能して。
創業70周年、浅草の中心を代表する洋食店「ヨシカミ」
浅草の中心・六区を代表する洋食店「ヨシカミ」は、今年で創業70周年を迎える。この店の醍醐味は、なんと言っても大胆なオープンキッチン。私はこの店に来るたびに、調理を間近で見られるカウンター席があいているよう願いながらドアを開ける。なぜなら、ここがこの店の特等席だからだ。肉をたたく音、油で揚げる音、炒める音・・・厨房にはおいしい音がリズムよく響くのと同時に、コックスーツを着こなした料理人たちがテキパキ調理を繰り広げる。その舞台のような光景は活気に満ちていて、料理を食べる前からくぎ付けになる。「オープンキッチンは創業時から変えていません。お客さんに1から10まで手元が丸見え。同じオープンキッチンのお店でもこんなに見えるところは少ないと思う」そう話してくれたのはヨシカミ歴30年の社長、吾妻弘章さん。“包み隠さずちゃんとしたものを”は、創業時から大切にしていること。その真摯な姿勢に、私はいつも襟を正されるような気持ちになる。
一方、変わらないように見えて日々変わってきたこともあるそう。「変えているのはズバリ、味。昔と同じだね、って言われるように日々変えているんだ。深いでしょう〜」。
メニューは100種類以上に及び、ほとんどが創業当時からあるもの。驚くことにその膨大なメニューのレシピは存在しないという。「レシピは代々口承され、後は目と舌で覚える。だからどんどん変わっていけるの。コックによって少しずつ味も違うんだよね。それがいい方向に働いている」。レシピがあるとそれにとらわれてしまって、味がブレたときに修正できなくなる。時代を超えて食材も変わったが、暮らしや嗜好、味覚も当然変わっていく。そのときに応じた細やかな工夫が、いつもと変わらない味の秘訣。特別な食材こそ使わないが、コックの腕によってここでしか味わえないおいしさへと昇華されている。
時代に合わせて柔軟に進化し、受け継がれてきた昔ながらの料理と、70年間毎日包み隠さずひたむきにいいものを提供する真摯さこそ、長く愛されてきた理由。下町らしくいつも気取らず、温かく出迎えてくれるヨシカミに、私はこの先何十年後も通い続けるのだろう。
DATA
店名/ヨシカミ
住所/東京都台東区浅草1-41-4
営業時間/11:30~22:30(22:00L.O.)
定休日/木
席数/60
予算/1500円~
アクセス/銀座線浅草駅より徒歩5分、つくばエクスプレス浅草駅より徒歩2分
あわせて訪れたいノスタルジースポット!日本初のバーや老舗甘味処も
甘味処 西山
1852年に創業した老舗甘味処。上質な十勝産小豆を手選別して丁寧に煮た餡は、甘さ控えめで素材の風味がしっかりと感じられる。その餡をふかふかの皮で包んだ福々まんじゅうは銘煎茶あおば付き(510円)。蒸したてをモダンな店内でいただけば幸せ気分に。
DATA
住所/東京都台東区雷門 2-19-10
営業時間/12:00~18:00 日・祝日~19:00
定休日/水(祝日の場合営業)
席数/24
アクセス/銀座線浅草駅よりすぐ
神谷バー
1880年に創業し1912年に日本初のバーとなった。関東大震災以前から立つ本館は国登録有形文化財。名物カクテル、デンキブランをはじめとしたドリンクに加えおつまみや洋食も充実。ひとりで訪れやすい1階のバーのほか、2階に洋食レストラン、3階には割烹も。
DATA
住所/東京都台東区浅草1-1-1
営業時間/11:00~21:00
定休日/火曜
席数/1階146
アクセス/銀座線浅草駅よりすぐ
グリル グランド
浅草観音裏で1941年から続く洋食店。2週間かけて作るビターなデミグラスソースが名物で、特オムライス(1760円)はふわとろ卵とチキンライスとともにデミグラスソースのコクとうまみを満喫できる。コロッケグランプリ金賞のカニクリームコロッケも必食。
DATA
住所/東京都台東区浅草3-24-6
営業時間/11:30~13:45(L.O.)17:00~20:30(L.O.)
定休日/日・月曜
席数/50
アクセス/銀座線浅草駅より徒歩8分
亀十
大正時代から続く人気和菓子店。大きくてふわっふわの皮のどら焼き(360円)は黒あんと白あんの2種類あり、東京3大どら焼きに挙げる人も多い。それと並ぶ名品が松風(260円)。黒糖が香るふんわりしっとりとした皮と、中に包まれた粒餡とのバランスが絶妙。
DATA
住所/東京都台東区雷門2-18-11
営業時間/10:00~19:00
定休日/不定
アクセス/銀座線浅草駅よりすぐ
駒形どぜう 浅草本店
江戸時代の商家造りの建築にも風格漂う1801年創業のどじょう料理専門店。おすすめのどぜうなべ(2050円)はどじょうを酒に浸けて酔わせ、独自の下ごしらえをして浅い鉄鍋に並べて提供。ふっくらやわらかなどじょうをたっぷりのネギや山椒とハフハフ味わおう。
DATA
住所/東京都台東区駒形1-7-12
営業時間/11:00~21:00(L.O.)
定休日/なし
席数/183
アクセス/浅草線浅草駅よりすぐ
ハトヤ
浅草ゆかりの役者たちにも愛されてきた、1927年から続く喫茶店。香ばしく焼いた食パンでうまみあるハムを挟んだハムトースト(350円)や玉子サンドなどのパンメニューのほか、もっちり正統派のホットケーキも人気。昭和の風情漂う店内やハトのロゴに心温まる。
DATA
住所/東京都台東区浅草1-23-8
営業時間/10:30~17:30(土・日・祝日を中心に営業)
定休日/不定
席数/20
アクセス/銀座線浅草駅より徒歩5分、つくばエクスプレス浅草駅より徒歩2分
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※オズマガジン2021年12月号「東京ノスタルジーさんぽ」の記事を一部転載
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オズマガジン2021年12月号は「東京ノスタルジーさんぽ」特集
検索ですぐ答えが出る現代。近道できて便利ですが、ときおりその情報の多さと速さに疲れてしまいませんか。そんな今まさに“ノスタルジー”が注目。懐かしいもののアナログ感や不完全さは私たちの心をゆるめてくれます。次号は東京に残るノスタルジーな世界をご案内。
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PHOTO/YUSUKE SHIRAI、 WRITING/OZ MAGAZINE(SAKI TOMINAGA)