全国に150以上ある動物施設。各園がその土地柄や技術を活かし、希少な動物を繁殖させたり、種を守る取り組みを行っている。大人になった今だからこそ、そのストーリーを知ればいつもの施設も新たな目線で楽しめるはず! 今回は、世界最小級の野生ネコ・スナネコの赤ちゃんが生まれた「那須どうぶつ王国」と、その姉妹施設である「神戸どうぶつ王国」に注目。知るほどに心が和む動物園の世界へどうぞ。
未来の野生動物のために、今私たちができること
昨年4月、コロナ禍で休園中だった那須どうぶつ王国の園内で、ある動物の赤ちゃんが生まれた。“砂漠の天使”と呼ばれる世界最小級の野生ネコ、スナネコの赤ちゃんだ。一緒に生まれた2匹は直後に死んでしまい、残り1匹も衰弱していたため、ただちに人口哺育の道が選ばれた。「低体温の状態でしたので、つきっきりでマッサージなどをして体を温めました。スナネコの飼育も繁殖も国内の動物園で初だったので、一つひとつが手探りの状態でした」と担当飼育員の橋本渚さんは振り返る。
そのとき生まれたスナネコの名前がアミーラ。アラビア語で“お姫様”の意味だそう。今では瀕死の状態が嘘のようにおてんば娘に成長。昨年7月に同じく人口哺育で育った妹のハディーヤとともに元気いっぱいに遊ぶ姿がとってもほほえましい。
栃木県の那須どうぶつ王国と兵庫県の神戸どうぶつ王国。姉妹施設である両園は、スナネコやマヌルネコといった希少動物が見られることで人気だ。なぜ珍しい動物がたくさんいるのか。それは両園が野生動物の保全に力を入れているため。園長の佐藤哲也さんに両園の取り組みについて話を聞いた。「自然環境や野生動物に対する保全の取り組みは、動物園の責務です。希少動物の種の保存は、日本国内だけでは近い血統同士の交配になってしまうため、世界の動物園と連携しながら行っています。マヌルネコもそのひとつで、メスのポリーはスウェーデンの動物園から那須にやってきて、日本の新たな血統を作ってくれました。また、日本の固有種を守っていくことも重要です。那須ではライチョウやツシマヤマネコなどの寒冷地の動物、屋内で温度管理ができる神戸ではトゲネズミやミヤコカナヘビなどの温暖な地域の動物と、それぞれの環境に適した動物の保全に取り組んでいます」
官民一体となって保全に取り組んでいるのがライチョウだ。日本アルプスの一部の高山帯にしか住んでいない国の特別天然記念物で、温暖化などの影響で絶滅の危機に瀕している。「今年度、自然繁殖に初めて成功しました。最終目標は野生復帰ですが、それがまた大変なこと。野生のライチョウは天敵を回避する術や、寒さや暑さを避ける方法を親から学びますが、飼育下で生まれた個体はそれを知らない。そうした野生での生き方を山で保護したライチョウから学ぶ、野生復帰順化施設が今年できる予定です」と佐藤園長。コロナ禍の減収で計画がストップしかけたそうだが、クラウドファンディングで支援が集まり、前に進むことができたという。
保全の取り組みは、その動物たちが置かれている自然環境に目を向けることも大切。両園にあるレストランでは、絶滅が危惧される長崎県対馬のツシマヤマネコを守るために減農薬で作られている「ツシマヤマネコ米」をごはんやパンに使用していて、私たちも食べることで取り組みを応援できる。また、レストランやショップでは使い捨てプラスチックをすべて廃止した。ふたつの施設だけでは微々たるものでも、訪れた人たちが普段の生活でも意識を変えれば、きっと大きな効果を生み出すはず。
最後に佐藤園長はこう話す。「動物園は、野生への扉としてありたいと思っています。山岳地帯に暮らすライチョウを実際に見るのは簡単ではないですが、動物園なら誰でも見ることができます。まず生きた動物を見ること。そしてその野生動物が置かれている現状を知ること。理解を深めてもらうことが、希少な動物たちを守ることにもつながると考えています」野生への扉としての動物園。そこでつながれていく命の尊さ、愛おしさにぜひ触れてほしい。
OZmallからのお願い
新型コロナウイルスの影響により、イベントの中止・変更、ならびに施設の休業、営業時間の変更、提供内容の変更が発生しております。日々状況が変化しておりますので、ご不明点がございましたら各施設・店舗へお問い合わせください。
外出時は、ご自身の体調と向き合いマスク着用のうえ、各施設の3密対策・ソーシャルディスタンス確保などの衛生対策にご協力のうえ、思いやりを持った行動をお願いします。
※オズマガジン2021年3月号は「癒しのどうぶつ」記事を一部転載
※掲載店舗などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください
- ◆那須どうぶつ王国/栃木
- 栃木 屋内施設中心の「王国タウン」と牧場形態の「王国ファーム」のふたつのエリアからなる動物園。3月19日までの冬季は王国タウンのみで営業。檻のない放し飼いエリアが多く、迫力満点だ。昨年秋には幻のオオカミを展示する「オオカミの丘」が誕生。
- 電話番号/0287-77-1110
住所/栃木県那須郡那須町大島1042-1
営業時間/10:00~16:30(15:30最終入園)
定休日/不定休 ※営業時間、定休日は季節により変動あり
生きものの種類数/150
OPEN/1998年
料金/1400円(11/30~3/19)、夏季2400円
アクセス/東京駅より新白河駅まで新幹線で約1時間25分、新白河駅よりタクシーで約25分
- ◆神戸どうぶつ王国/兵庫
- ポートアイランドにある、「花と動物と人とのふれあい共生」をテーマにした動植物園。年間を通じて満開の花のもと、アルパカやカピバラなどの動物と間近で出会える。昨年秋オープンのジャングル空間を再現したコビトカバの新展示場にも注目。
- 電話番号/078-302-8899
住所/兵庫県神戸市中央区港島南町7-1-9
営業時間/10:00~16:00(15:30最終入園)
定休日/木曜 ※営業時間、定休日は季節により変動あり
生きものの種類数/150
OPEN/2014年
料金/1800円
アクセス/東京駅より新神戸駅まで新幹線で約2時間40分、新神戸駅より京コンピュータ前(神戸どうぶつ王国)駅まで電車で約30分。京コンピュータ前(神戸どうぶつ王国)駅よりすぐ。
オズマガジン2021年3月号は「癒しのどうぶつ」特集
変化や悩みが尽きなかったこの1年、どんなときも私たちに癒しと笑いをくれたのが「どうぶつ」たちでした。モフモフ、ぬくぬく愛らしい姿はもちろん、本能的に生きる彼らの姿は、私たちの日々に学びや気付きを与えてくれます。工夫が凝らされた動物園や水族館、触れ合いカフェには、大人も楽しめる見どころもたっぷり。ご期待ください!
※新型コロナウイルスの国内状況により、店舗・施設の営業時間の短縮や臨時休業、座席数の変更などがある場合がございます。最新の情報は、各店舗・施設にご確認ください
発売日/2021年2月12日(金) 価格/800円
オズマガジン掲載の関連記事を見る
PHOTO/MIHO KAKUTA、WRITING/AYANO NOMIZU