このページでは、毎号のオズマガジン制作の編集後記のような、こぼれ話のような、誌面に載せきれなかったサイドストーリーを編集部員が少しずつご紹介しています。今日はフクヘンのイノウエよりお届けです。
東洋一美しいと言われる、沖縄・宮古島の与那覇前浜ビーチ
今、ひとり旅が増えています
こんにちは。先週末にフルマラソンを走る予定でしたが、台風で参加できませんでした。残念。
さて、いよいよ今年も残すところあと2か月、日が暮れるのもめっきり早くなりました(日が短くなると、外で撮影できる時間も短くなるので、僕たちは日暮れに敏感です)。現在、「週末ひとり旅」特集が発売中です。見たよ、という方がいらっしゃったら、ありがとうございます。まだ見てないという方、もしよかったらぜひ見てみてください。
今日は、この特集を作る前後に考えていたことをつらつらとお話しします。
ところで、今、ひとり旅が増加しているというデータがあることをご存知でしょうか。いくつか統計を見てみると、旅行に占めるひとり旅の割合が男女や世代、国内外を問わず、10年前と比べておよそ2倍程度になっているのです。なんとなくそんな気はしてましたが、改めて数字で見るとそんなにか!という驚きがありました。
情報が簡単に手に入るようになり、移動や宿泊手段も充実。そして「おひとりさま」は当たり前の世の中になりました(もはや、わざわざ「おひとりさま」という言葉を使いませんね)。「ぼっち」という寂しさを強調するような表現もあまり耳にしないと思います。
旅だけにとどまらず、ひとり行動が増えているということは、各方面から聞こえてきています。そんな背景を踏まえながら「ひとり旅」特集は出発しました。
自分の町から遠く離れた場所の日常に入り込む旅を
でも、全体として増えているとはいえ、ひとり旅にハードルがあることは事実です。食事はどうしよう、宿はどうしよう、やっぱり話し相手がほしい、などなど。ひとり旅をしたことのない人が少なくないこともわかっていたので、編集会議では、ひとり旅ってなにがいいんだろうね、という話をしていきました。
旅をするのに、ひとりでなくてはならないという理由はありません。でも、まとまったひとりの時間がほしいという思いは多かれ少なかれ誰もが持っているはず。もちろん僕たち編集部員も。そういう気持ちに、うまく応えられそうな町と旅を探していきました。
あまりにも観光客が多いと、どうにも居心地が悪い。かといって極端に人が少ない町では寂しさが際立つ気がする。アクセスが複雑なところや、そもそもレンタカーを使わないとたどり着けない場所も、ひとり旅には向いていないかもね。そんな話を積み上げていきます。いろいろな人に意見を求め、過去の実体験や新たなリサーチも加えながら。先週の記事でそのあたり少しお話ししました
そうして徐々に取材先が決まっていきました。宇治、名古屋、松本、宮古島など、全部で11の町です。それぞれ特色は違えど、最終的に気付いたのはどの町も地元の生活の温度を感じられることが共通点でした。
当たり前ですが、よそものの僕らにとっては見知らぬ旅先の地でも現地の人にはいつもの町なので、普通にごはんをしたりお茶をする場所があります。喫茶店だったり、食堂だったり、パン屋さんだったり。
そういう「地元目線のいつもの場所」こそが、ひとりでもすっと溶け込める場所なのでした。ひとりでないと、よさをうまく感じ取れない場所と言ってもいいと思います。
どんな人が来て、なにを買っているのか。どんな話をしているのか。このお店はどういう立ち位置で、町とどうつながっているのか、あるいはいないのか。そんなことに想いを巡らせるような、自分の町から遠く離れた場所の日常に入り込むことが、ひとり旅の醍醐味なんじゃないかと思いはじめました。
鎌倉に泊まって素顔の町を見たり
宮古島で人生を変えるほど青い海を見たり
さて、僕が実際に制作したページは、鎌倉と宮古島です。
鎌倉は言うまでもなく日帰りできるエリアですが、あえて泊まることをおすすめしました。いちばんの理由は、夜~朝の鎌倉に、ぜひ見てほしい世界があるからです。夕暮れの海、地元の人が集まる晩ごはん、そして朝早くの静かな海。
午後から出かけ、観光客の多いスポットを避けながらいくと、週末でも混雑をうまくかわせます。そしてそこにこそ鎌倉らしい穏やかで、自然のリズムとともにある暮らしが見えてくるのです。ひとりで気ままに歩くには本当にぴったりの町で、さまざまなタイプの宿が増えているのもポイント。
それから宮古島。こちらも今、女性のひとり旅がとても増えています。島全体に旅人を歓迎するムードがあるので、どこに行っても居心地がいい。特に今の時期は観光客も減り、暑さもやわらぎ(と言っても今日の最高気温27度!)、おすすめです。
イチオシは、伊良部大橋を渡って、静かな伊良部島でのんびり島時間に浸ること。美しいビーチを眺め、そして味わいのある集落を歩き、伊良部そばを食べる。それはなにものにも代えがたい時間になるはず。
宮古島中心部に集まるローカルなショップ巡りもたまりません。青果や調味料、泡盛など島の特産品が勢ぞろいする「島の駅みやこ」や、おいしいコーヒーとドーナツをいただける「ニンギン商店」、島の素材で作ったジェラートが絶品の「RICCO gelato」など、わくわくスポットがてんこもり。
宮古島はレンタカーを使うのが一般的ですが、ひとり旅なら行動範囲を絞って、タクシー、レンタサイクル、ホテルの送迎などを使うと快適に過ごせます。宿のタイプもゲストハウスからリゾートホテルまで揃うので、スタイルにあわせて選んでみてください。
僕らがひとり旅に出る理由
自分のひとり旅の経験を少しだけ。10年以上前に沖縄へのひとり旅をしたときは、初めてドミトリーに泊まりました。環境がすごく悪かったのですが、そこで出会った現地の方と意気投合し一緒にドライブに出るという、ならではの交流が生まれました。
鎌倉のゲストハウス(ドミトリーに懲りて個室)に泊まったときは、居酒屋で夜ごはんを食べている隣で、鎌倉にお店を開く夢を持つ若者の悩み相談が繰り広げられていて、いろんな物語があることを実感しました。
イギリスでは、慣れない海外の緊張感と、行きたいところに行きたいだけ行けるというかつてない解放感が合わさってとんでもなく高揚しました。
思い出してみると、ひとり旅の記憶は、誰かと一緒に旅をしたときよりも鮮明に残っています。それはきっと旅への集中力が違うから。話し相手がいない以上、自分の五感は360度はおろか、内側にも開いていきます。直感や思考、そして後から振り返る記憶を含めたら第八感くらいまでいっているような気さえしてきますね、大げさに言うと。
今は、ひまさえあればケータイを手に取り、そこには興味を惹く情報がとめどなくあふれています。でも、どんなに有益な情報と出会えるとしても、そこには自分の内側で行われるべき思索は入っていないのだよな。この特集を作りながら考えるようになったのは、そんなことでした。
「10時間の小さな旅の間、わたしはわたしといつもの何倍も語り合っていた」
今回の特集で写真家の中川正子さんに寄稿いただいた文章には、まさにそんな思いをずばり言い当てるこの言葉がありました。これこそが、ひとりで旅に出るいちばんの理由なのではないでしょうか。特集を作り終えてたどり着いた、僕たちの今の結論はここに集約された気がしています。
もちろん、そんなもの必要ないよ、という方も多いことはわかっているつもりです。そのうえで、もし「最近なんかいいことないな」という気分の人がいらしたら、「ひとり旅」というものが処方箋になる場合もあるということを感じていただけたら。例え、今すぐ旅立つことが難しい環境だったとしても。
それでは、今日もいい1日を。
次にひとり旅するときは、しまなみ海道に行きたいと思っているイノウエがお届けいたしました。
OZmagazine 11月号「週末ひとり旅」特集
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