編集部の「いい1日」リポート VOL.017
この連載では、編集部員が見つけた「いい1日」のヒントをご紹介していきます。特集のためのリサーチから、個人的な趣味のさんぽ、その他もろもろ、よりみちで出会ったことや感じたことをつづります。今日の担当はフクヘンのイノウエです。
更新日:2017/10/13
人気の下町、谷根千へ行きました。
こんにちは。今月末にフルマラソン出場を控えているイノウエです。このページでゆるやかに東京の東側レポートを続けていますが、昨日、今日と、谷根千に行ったので、そのお話を。
谷根千とは、台東区と文京区の境らへんにある、谷中、根津、千駄木という3つの町の頭文字をつなげた通称です。最寄駅で言うと、日暮里駅、根津駅、千駄木駅になります。
山手線の内側なのに、昔ながらの木造住宅や商店街など、いわゆる下町らしい情緒が残るエリア。小さないいお店が集まっていることもあり、オズマガジンでもたびたび特集させていただいています。
僕の谷根千との出会いは、10年ほど前の一箱古本市。谷中に住んでいた先輩編集者に誘われたのがきっかけでした。
出店者は好きな本を段ボールひとつに詰め込んで販売するという古本のお祭りで、シンプルかつアナログな仕組みが好ましく、そしてやってきた人たちがあちこちで本を介したコミュニケーションとおさんぽを楽しんでいて、その光景にとてもわくわくしました。
今では規模も大きくなり、さらには全国にこの仕組みが広がったのもさもありなん、このイベントは谷根千の縮図であり象徴だったのかもなぁと思います。
そんなこんなでこの町を気に入った僕は、ちょくちょく遊びに来るようになり、そのたびあれやこれやを買うことになります。昨日は、過去に買いものをし、何度も訪ねているお気に入りのお店に行ってきました。
tokyobikeで自転車さんぽのススメ
ということで、谷根千で買ったものその1、自転車。tokyobikeという自転車を、かれこれ8年ほど愛用しています。どんな景観にも似合うミニマムなデザインをひと目で気に入りました。
試乗してみるとさらに好きになります。名前の通り、ズバリ東京を走るための自転車なので、信号や坂道が多くてもスイスイ進めるように漕ぎ出しが軽く、小回りが利くのが本当に軽快。これしかないと即決でした。
今では中目黒や高円寺など都内各地のほか、海外にも出店しているので、ご存じの方も多いかもしれませんね。
オーストラリアに旅行したとき、現地の女性がtokyobikeに乗っているのを見たときはものすごく興奮したものです(駆け寄って握手のひとつもしたかったのですが、スムーズにその人は走り去っていきました)。
8年も乗っているとさすがにいろいろトラブルがあり、パンクはつきものとして、ハンドルグリップの劣化があったり、壁にぶつけてホイールが歪んでしまったり。そのたび、ここ谷中のtokyobikeさんに戻ってきては修理や整備をお願いしています。すでに、その修理代を合計したら、新しい自転車が1台以上買えるのですが、「直す」という付き合い方も悪くないかなと。
8年一緒に過ごした自転車を手に入れるには、8年分の時間が必要なんですよね、当たり前ですが。8年分の時間はピカピカの新車より貴重なものだよなぁと、長い付き合いになってきた相棒を見ながらひとりごち、いつかこの自転車をもうすぐ2歳の息子に譲ることまで想像する今日この頃です(気が早すぎ)。
tokyobikeさんのいいところは、レンタサイクルがあるところ。谷根千はなかなか広いので、自転車があるとよりたくさんの場所に足を延ばせるので、興味があったらぜひ借りてみてください。
tokyobike
セミオーダーで一生ものをあつらえる
谷根千で買ったものその2、帽子です。C.A.G.という今年10年目を迎えられた帽子屋さんで、セミオーダーしました。
grisというオリジナルブランドの帽子を作っていて、シーズンごとに新作が出ます。その中から好きな型を選び、生地の色と組み合わせ、リボンの色や留め方などを相談していきます。もちろん、採寸してもらえるので、サイズもぴったり。
夏用のストローハットを最初に作り、あまりに気に入ったので、翌年には冬用のハットをオーダー。このふたつで1年の大半を過ごしています。既製品の帽子がなかなかしっくりこず、これというものを見つけられなかったのですが、ここであつらえた帽子は一生ものになりました。
スタイリストさんにもよく褒められる自慢のアイテムで、かぶり始めてこちらも7~8年。後日お店に伺った際、店主の内山さんに「すっかりなじんでいい形になりましたね」と声をかけてもらったことも、嬉しい思い出です。レディス、ユニセックスと充実しているのでぜひお気軽に試していただきたく。
この日も、初めて買ったときと同じように内山さんが迎えてくださりました。入れ替わりの激しい東京で、10年お店を続けることも素晴らしいですし、それはとりもなおさず僕と同じように幸せな帽子との出会いをした人がたくさんいるということ。そんな想像をするとますますいい気分になりました。
C.A.G.
このほかにも、松野屋さんで買ったブリキのバケツや、丁子屋さんで買った自転車柄(!)の手ぬぐい、ビスケットさんで買ったクロスと食器立てなど、気づけば身の回りには谷根千で出会ったものがずいぶんたくさんありました。そしてそのどれもが現役で僕の暮らしを楽しくしてくれています。
町のあちこちから、物語の匂いがします
買い物ではないですが、谷根千ごはん部門の心のベストテン第1位「檸檬の実」さんも、ご紹介しないわけにはいきません。
平日は日替わりのランチ1種類を提供している食堂スタイルのお店で、店主のイダさんが掲げる「おいしく楽しく作ってます」という言葉通り、お店には明るくほがらかな空気と、ぬくもりあるごはんが待っています。おいしくて口とお腹が嬉しいのはもちろんのこと、それ以上に気持ちのいいおしゃべりが楽しめる場所。
肩肘張ることはなく、でも家具や器の一つひとつにもきちんと意思が感じられるのも大好きです。築50年ほどの民家を改装していますが、過度に手を入れない自然な雰囲気もいいのです。お店ですが、イダさんそのもののように思えます。
久しぶりだったのでいろいろな話をしながらいただいた油淋鶏はやっぱりおいしくて、後からやってきたお客さんとイダさんの会話を聞いてるのもなんだか楽しくて、まさしく「おいしくて楽しい」時間を過ごしました。最近は、お料理教室も始められたそうで、きっとそれもおいしくて楽しいに違いありません。
檸檬の実
お気に入りのお店を回っていたら、最高に楽しくなってしまいました。住んでもいないのに、こんなに思い出がちりばめられている町はほかにありません。作り手にせよ、売り手にせよ、顔が見えるコミュニケーションがあることが大きいのかもしれません。
どんな人にも語るべき物語がある、というのがオズマガジンの基本信条なのですが、それはすなわち、どんな町にも、どんなモノにも語るべき物語があるということ。すべての物語が美しいわけではなく、段ボールの片隅の本のようなものでしかなかったとしても、その物語はどこかで誰かの小さな支えになっているものです。
例えば僕が、大好きな帽子をかぶり自転車に乗って出かけると、無性にいい気分になるように。毎日はなかなかにハードなので、そういう自分の好きな物語の力を借りるのが、人生のコツなんじゃないかと思います。
谷根千には続々と新しいお店もできていて楽しいので、よかったらぜひ遊びに行ってみてください。上野から徒歩圏なので、美術館や動物園のついでに足を延ばしたりするのもいいかもしれません。そして、ぜひとっておきの物語を見つけてみてください。
それでは、どうぞよい1日を。
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