OZmagazine編集長の「F太郎通信2017」8通目
オズマガジン編集長古川が、日々の中で感じたことを、読者のみなさんに手紙を書くようにつづったエッセイのようなものです。
更新日:2017/09/17
もうすっかり秋ですね(まだTシャツですが・・・)
こんにちは。オズマガジン古川です。2週間ぶりですね。いかがお過ごしでしょうか? 前回もたくさんのコメントをいただきありがとうございました。すべてのコメントを大切に読ませていただいております。忙しい毎日の中で読んでくださり、コメントまで書いていただき感謝しています。
今日は今年作った「よりみちノート」についてお話しさせていただければと思います。
昨日は土曜日で、編集部は中目黒のトラベラーズファクトリーにお邪魔して「よりみちノート」のイベントをさせていただきました。「よりみちノート」は、基本的にはオズマガジンを定期購読してくださった方へのプレゼントとして作成しています。そして販売はトラベラーズファクトリーの中目黒店と東京駅店のみで行っています(今後は首都圏の書店さん限定30店舗でも販売開始予定です)。
というのも、このよりみちノートは、トラベラーズノートブランドの「スパイラルリングノート」というノートをベースに作られています。いわばトラベラーズノートとオズマガジンのコラボレーション。僕らがノートを作ろうと思ったときに、始めるからにはいいものを作りたいと思ったし、毎日カバンに入れて持ち歩いてもらえるようなものを目指していました。そこで編集部でも愛用者の多いトラベラーズノートを作っているデザインフィルを訪れ、トラベラーズブランド代表の飯島さんとデザイナーの橋本さんに相談しました。ご存知のとおりトラベラーズノートは「旅するように毎日を過ごすため」のノート。それは僕たちの考える「よりみちしながらゆっくり生きましょう」という価値観とすごく近いところにあると思ったのです。2人はこの提案をすぐに認めてくださり、よりみちノートづくりが始まりました。
結局ノートができるまでに半年近くかかりましたが、できあがりはワクワクするものになったのではないかと思います。
イベントに来てくださったある女性は、すでによりみちノートを持っていました。そこに僕たちが掲載した30の地図のほかに、自分が好きな20エリアくらいの地図を出力して張り付け、インデックスを自作して貼っていました。さらにそのノートは手ぬぐいで作られたカバーで大切に包まれていました。
ある女性の2人組は、2時間くらいノートにシールや紙を貼ってデコレーションして「これからこれを使ってよりみちをたくさんします」と言って嬉しそうに帰っていきました。
オズマガジンは月刊誌なので、1冊作って本屋さんに預けたら、どうしても次の号に力が集中してしまいがちです。でも「よりみちノート」は読者のみなさんに届いたときが始まりで、その先も一緒に育てていくことができるということを改めて感じました。イベントにご来場くださったみなさん、本当にありがとうございました。
そしていちばん嬉しいことは最後に待っていました。
みんなで打ち上げをしていたとき、トラベラーズのあるスタッフさんがおもむろに古いオズマガジンを持ち出して「この特集を見て、僕もなにかしたいと思ったんです。それでトラベラーズチームに入りました」と言ってくださいました。
差し出されたのは2007年の、まだ月刊化する前の湘南特集で、それは湘南でモノづくりをするアーティストたちを深く紹介するページでした。そのページのことはよく憶えていたし、そのページを作ったときの気持ちも憶えていました。そのとき知り合ったアーティストさんとは今でもお付き合いが続いています。
僕はそれが本当に嬉しかった。忘れていた気持ちを思い出したような気分でした。
10年前に編集長になったとき、僕はオズマガジンを「本棚に残る雑誌にしたい」と思いました。ことあるごとにチームの仲間にもそう言っていたような気がします。それまで情報誌というのは基本的に情報の鮮度が要求されるもので、多くは使ったら捨てるというのが主な流れだったと思います。最新情報はすぐに古くなる。だから最新情報を掲載する雑誌は、常に最新情報を追いかけていなくてはならない。
でもそのとき僕が思っていたのは「最新情報じゃなくてもいいじゃないか」ということでした。
1カ月で古くなる情報を追い続けても、それは僕たち作り手を疲弊させるだけだ。それに世の中だってそんなに毎月、最新最新と言われて疲れてしまうんじゃないかと。だから「オズマガジンは情報誌をやめよう」という風に思っていました。お店を出した人はその人なりの覚悟を持ってお店を出しています。その覚悟は1カ月で消費されるものでは決してありません。真剣にモノを作っている人の商品が1カ月で古くなるはずもありません。だとしたら僕らはその思いやストーリーをしっかり伝え、決して古くならないものに光をあてていこう。それが「本棚に残る雑誌」の一歩なんじゃないかと思ったんです。敬愛してやまないマガジンハウスの「Relax」のように。
その結果として、どれだけのオズマガジンが誰かの部屋の本棚に残れたのかは僕たちにはわかりません。でも昨日のそのできごとは、それが0冊ではなかったということを証明してくれました。それは本の可能性だと思いました。形あるものは、残していくことができる。あらためて本づくりに携わることができてよかったと心から思うことができました。
話が逸れてしまいましたが、僕は「よりみちノート」にも同じ可能性を感じています。誰かの日常に忍び込んで、誰かのカバンの中に潜り込んで、誰かと日々を一緒に過ごすことができる。そして本棚や引き出しにしまわれて、10年後にそれを眺めて思い出すことができる。よりみちした日々をログしておけば、自分の歩いた道を思い出すことができる。もし10年経ってあなたがどこか遠くの町に行ってしまったとしても、ノートがあればあの日に帰れる。
それは本の可能性です。相対的に見て本の業界が斜陽だとしても、それは僕らが本を作るのを辞める理由にはならないのです。むしろだからこそ本はどんなところが素敵なのかをもっともっと考えて、その価値のことを思ったとき、僕らがこれからやろうとしていることは、そんなに間違っていないと思いました。
オズマガジンは今でも「情報誌」です。30年間続いてきた「情報誌」です。10年前に辞めようと思ったのは「情報誌」なんじゃなくて「最新だけを追い続ける情報誌」でした。その情報になにを求めるか、その基準はなんなのか、読者には説明することのほとんどない部分のその心持ちを、仲間と考え、向き合い、失敗ものりこえて、繋いできた本です。
ニール・ヤングは「変わり続けるからこそ、変わらずに生きてきた」と言っています。ずっと大切にしてきたこの言葉の意味を、今は前よりも自分の経験として心の中にしまっておけるようになりました。
「よりみちしながらゆっくり生きましょう」
オズマガジンは今月も変わらず、みなさんのよりみちのきっかけとなる情報をまとめてお待ちしています。よりみちノートはオズマガジンを定期購読してくださった方にプレゼントしています。もしよかったら、一緒によりみちしながら、毎日を歩いてみませんか?
では、また2週間後にお会いしましょう。いい1日を。
雑誌OZmagazineは、日々の小さなよりみち推奨中。今日を少し楽しくする、よりみちのきっかけを配信していきます。