「アートな町へ」特集のサイドストーリーその3
このページでは、毎号のオズマガジン制作の編集後記のような、こぼれ話のような、誌面に載せきれなかったサイドストーリーを編集部員が少しずつご紹介しています。今回は、フクヘンのイノウエがお届けします。
更新日:2017/08/30
今年でアート特集は11回目になりました!
オズマガジンが最初にアート特集を企画したのは、2007年でした。以降、年に1回ずつ取り上げ続けて、現在発売中の「アートな町へ」号で、なんと11回目のアート特集となりました。すっかり恒例となった今では、夏が来るとそろそろ出るかな?と思う、なんて嬉しい声もいただけるようになりました。本当にありがたいことなので、この場でお礼を言わせていただきます。ありがとうございます。
僕自身も、11年連続でアート特集に携わり、振り返ってみるとずいぶんたくさんの美術館やギャラリー、そして芸術祭の取材をし、プライベートでもたくさんの展覧会を見てきました。それまでは、芸術に特別強い興味を持っていませんでしたが、今ではいっぱしのアートフリークを名乗ってもよさそうです。
ですが。圧倒的にわからないのです、アートが。この11年間、主に現代アートを紹介してきました。しかし、多くの人が感じるとおり、「ワカラナイ」のです。数々の作品を前にして、大きい! すごい! きれい! のような子供のような感想しか出てきません。それさえも出ず、え? これはなに? 以上、なことも数知れず。
もちろん、取材ですのでそれなりに勉強はしています。このアーティストはこういう作品やメッセージが多い。この展覧会にはこういう文脈がある。この土地にはこんな背景がある。頭では理解したつもりでも、いざ作品を前にして、それがなんなのかを理解できることはほとんどありません。キャプションがないときは、特に読み解けません。
僕たちの仕事は、対象の魅力をみなさんにわかりやすく伝えることですが、どうにも言葉にしにくいというか、全然言葉が出てこないことも少なくないのが、アート特集でした。うまく言えないので写真を見てください! もしくは現地で見てください!! とできたらいいのですが。
アーティストに取材しても、学芸員に取材しても、「作品がすべてです」「感じたままでいいのです」というコメントがとても多い。「なにも感じないときはどうしたらいいんですか!」と訴えても、「それはそれでいいのです」といなされ、「こういう意図があるんですか?」と聞けば「そう見えるのならそうでしょう」とくる。
自分には芸術センスがないんだな、と片づけるのは簡単ですが、雑誌の締切はやってきます。どうにかこうにか、資料を読み込み、あらゆる角度から眺め、答えを探しました。でも、どうやらそれが間違っていました。
アーティストは作品を作っているのであって、「正解」を作っているわけではありません。アートに「答え」はそもそもなかったのです。ない答えをいくら探したところで、見つからないのは当たり前だったのです。
わからないことを自分の頭で考える。想像する。
思えば、今はわからないことはすぐに検索し、たいていのことには答えらしきものが見つかります。どんな遠い世界のことも、画像なり動画なりを見ることができます。そんな時代において、わかりにくいことは、けっこうなストレスです。
でもそれは、僕たちが忘れてはいけない感覚のようにも思えるのでした。わからないから考える。わからないなりに想像してみる。その力をなくしてしまったら、AIと変わらなくなってしまうかもしれません(むしろ、AIのほうが想像も上手にしそうです)。
誰かの受け売りではなく、自分の中にあるものと照らし合わせて思考を巡らせると、アートは不思議な膨らみ方をしていきます。もちろん全然膨らまないこともあって、それもまたおもしろいことです。普段はつい、自分のかけた労力に対して相応のリターンがないと損した気がしてしまいますが、労力をかけたけどなにも返ってこなかった、という経験も、実は大事なことだなぁと思います。損するたびに怒ってたら、生きづらくてしょうがないですよね。
と、そこまで難しいことを考える必要はないのですが、僕がアートに求めるのはそういう感覚になりました。絶対に自分からは生まれない発想と、それを具体化してしまうパワー。なんだかはわからないけど、心惹かれるものが、確かにあります。
そんなことを、みなさんにもちょっと感じてもらえたらいいな、と思って特集を作り続けています。答えのないことを、あてもなく考えるのも、よりみちのひとつだなぁと思うのです。
僕のおすすめは、豊田&松本。気になってるのは石巻です
ちなみに、今回の特集では、愛知県の豊田市美術館で行われている『奈良美智 for better or worse』(開催中~9/14)と、草間彌生さんのふるさとである松本市美術館を担当しました。
奈良さんの個展はキャリアを振り返るような構成になっていて、作品の変遷を感じ取れました。描かれる人物の表情や色彩の変化は、やはり美術館で見るからこそ際立ちます。
豊田市美術館
松本市美術館の屋外でひときわ目を引く《幻の華》は、草間さんの野外彫刻の中で世界最大のもの。そして彼女の原点でもある初期作品を通年鑑賞できるのも貴重です。
松本市美術館
どちらも日本を代表するアーティスト。ぜひ誌面とあわせてチェックしてみてください。僕は来週、石巻で開催中のリボーンアート・フェスティバル2017に遊びに行く予定です(楽しみ)。こちらも誌面でご紹介中なので、よろしければ。
Reborn-Art Festival 2017
長くなりましたが、それではまた来週、こちらのページで。どうぞ、いい1日を。
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