OZmagazine編集長の「F太郎通信2017」6通目

F太郎通信2017

オズマガジン編集長古川が、日々の中で感じたことを、読者のみなさんに手紙を書くようにつづったエッセイのようなものです。

更新日:2017/08/20

F太郎通信2017

座りなれた場所で、ひと文字ずつていねいに

 こんばんは。2週間ぶりですね。お元気でしたか? 今は真夜中のいちばん深い時間で、町中が寝静まっているように静かです。もうしばらくすると夜が明けそうです。真夏の夜明けは早いですから。

 いま僕は夏休み中で、今日はずいぶん昼寝をしたからかなんだか眠れなくて、こうしてのそのそと明け方に起きてきてみなさんに手紙(のようなこの文章)を書いています。森の奥の勤勉な樵が木を切るための古い斧を磨くように、ひとり静かに。

 たぶんあなたは今ぐっすりと眠っていると思います。あなたがこの文章を読むころ、僕はどこにいて、なにをしているでしょうか。短い夏休みは終わって、いつもどおりの慌ただしい毎日の中にいるのではないかと思います。このタイムラグも手紙のいいところです。

 窓の外から新聞配達のバイクの音が聞こえます。コンビニの深夜アルバイトの学生は、誰もいない真夜中のレジでぼんやりあくびをしているかもしれません。あるいはどこかで眠っている彼女のことを考えているかもしれません。来月の試験のために必死で勉強をしている人もいるかもしれませんね。

 いずれにせよ、寝静まっているように見える町にも誰かの日常が息づいていて、僕らはいま夜の深い時間のなかで静かにそれぞれの朝がくるのを待っています。僕はその真夜中の時間の、静かな連帯感のようなものが好きです。

 手書きの手紙にも書いたように、「よりみちじかん」というウェブサイトがはじまってから2カ月が経ちました。今まで毎月自分たちの精一杯で本を作って、本屋さんに置いていただき、みなさんに出会えるのを待っていましたが、今はそのほかにこうしてみなさんと手紙を交換するように記事を積み重ねることができるようになりました。

 その結果として、僕たち(これを今読んでいるあなたと僕たちです)は雑誌と読者という「関係性」から、もう少しだけ親密な「関係性」に変わりつつあるような感覚を持ち始められたような気がします。少しずつですが、少なくとも僕にはそれは新鮮で嬉しい驚きでした。

「関係性」

 それはいま僕たちが本を作る上でいちばん意識している言葉かもしれません。

 乱暴な言い方をしてしまえば、もう「情報」はどこでも手に入る時代です。そしてたいていの「情報」は無料で手に入るようになりました。日常は「便利」さを追求し、ある意味では食いつくし、その結果、新しいものはすぐに新しくないものになっていきます。サイトで注文したモノが翌日に届かないことを、いつのまにか僕たちは不便だと思うようになってしまったのです。

 その情報飽和状態のなかで、こんどは情報は「どのように手に入れるか」から「誰から手に入れるか」というフェイズに確実に変わってきています。インターネット上で発信された誰が書いたかわからないおいしいお店の情報よりも、顔を知っている自分の友達がインスタグラムやフェイスブックでシェアした情報の方が興味があるし信頼もできる。それはある意味では当然のことだと思います。

 そして複数の友達をフォローしているだけで、あなたはもう毎日浴びるように情報を受け取り続けることになります。それが情報発信時代のわたしたちの日常です。

 そのような日常のなかで、あなたにとって「誰だかわからない人たち」が本を作って情報を発信しても、それはもう届かないどころか、目にも留まらない時代になってしまっています。あたりまえですね。そこには関係性がほとんどないのですから。
 
 編集者というのは情報収集のプロで、それをわかりやすく編集してまとめるプロでなくてはいけません。あなたが毎日会社に行って働いている間に、僕たちは本を読んでくれるはずの誰かの変わりにいろいろな場所に行って、いろいろなことを感じ取り、それをテーマに合わせてひとまとめにして本にする。雑誌というのは編集者の楽しい「おせっかい」を編集して、使い手が使いやすいようにまとめたものなのです。そこには当然時間がかけられているし、思いも込められています。その時間や思いをわかりやすくまとめることこそが編集というもので、僕たちはその「編集」の価値を買ってもらって、結果的にそれが僕たち編集者の仕事というものになっています。

 オズマガジンに当てはめて考えると、僕らはあなたが慌ただしい毎日を過ごしている間に、編集部みんなで日々「よりみち」のきっかけを集め、あなたがそれを使いやすいように編集して、本にしておくことが仕事です。そしてあなたがその本を使って「よりみち」をして、あぁ今日は「いい1日」だったなあと思ってもらえたら、それがいちばんの喜びであり、僕たちが目指していることです。本が売れることも、売上を増やすことも、あくまでその結果としていただいた対価なのです。お金のことだけを考えたら、もっと効率よく作れるものや高く売れるものがいくらでもあると思います。

 でもきっと今までのオズマガジンは、あなたにとってまだまだ、「誰だかわからない人たち」が編集して発信したものでした。あなたにとってはまだきっと、インスタグラムやフェイスブックの中にある無料の情報の方が信頼できるものだと思います。

 でもこの「よりみちじかん」というサイトは、その編集者としての僕たちの日常や、毎日考えていることを、前よりも頻繁に伝えることができる場所になりました。
 ずっと前からオズマガジンのことを好きでいてくださった方も、まだ出会って2カ月の方も、いろいろな方がこの場所に来てくださっていると思います。
 でも僕らは誰に対しても等しく自信を持って、僕たちが編集したものをオススメすることができます。さすがに時間がかかっているなと、言わせることができると思います。

 こうして僕たちが考えていることや、いま作っている本のことを、この場所でみなさんに発信できるのはとても嬉しいことだなと思います。いわばそれは、みなさんがフォローして毎日見ている友達のフェイスブックページと同じようなものになれるかもしれないということです。

 もし、あなたが同じような毎日に少し疲れたら、そしてどこかに「よりみち」したいなと思ったら、本屋さんやコンビニでオズマガジンを手にとってみてください。僕たちはあなたが毎日会社で働いている間も、料理をしている間も、場合によっては寝ている間も、あなたの日常の「よりみち案内帖」になるべく、「よりみち」を楽しくするための本を作っています。

 あなたがオズマガジンを使った日がいい1日だと思えたら、繰り返しになりますがそれが僕たちにとっていちばん嬉しいことです。目指していることです。その結果として、世界にいい1日が増えたら嬉しいし、そこから世界さえも少しずつ良くなっていくはずだと信じています。

 窓の外が少しずつ明るくなってきました。夜が明ける時間です。新しい朝。町が動き始めました。僕は眠くなってきたので、今から少し眠ろうと思います。

 いい1日を。

雑誌OZmagazineは、日々の小さなよりみち推奨中。今日を少し楽しくする、よりみちのきっかけを配信していきます。

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※記事は2017年8月20日(日)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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