銀座物語05
老舗店や高級ブランドショップが建ち並ぶ銀座。そんな一流たちが集まってくるこの街に根を張り、挑戦を続ける人がいる。今回は、銀座生まれ銀座育ちで、2014年から銀座でバナナジュース専門店を営む大和田理恵さんの銀座物語
更新日:2017/03/25
すべて手作り。想いが詰まった完熟バナナジュース/「BANANA JUICE」の大和田理恵さん
素朴でやさしい。だから、また飲みたくなる
東銀座のランドマーク・歌舞伎座横の路地を進んだ先に、小さなバナナジュースの専門店がある。メニューはバナナジュースのみという潔さで、そのほかに小松菜やニンジン、黒ごまやきなこなどを加えた“アレンジ”バナナジュースも用意されている。
「子どもの頃からバナナジュースが好きだったんですよね。バナナって、いつでも家にあるような身近な果物じゃないですか。どうしたらもっとおいしく味わえるんだろうって、妹と日々研究したりして(笑)。ここに店を開く前に妹と喫茶店をやっていたんですけど、このバナナジュースはそのときに生まれたもの。材料は冷凍したバナナと牛乳のみで、本当にシンプルなんです」
できたてのバナナジュースをひと口すすると、トロリとした見た目を裏切るすっきりした味わい。混じりけのない、バナナ特有のやさしくクリーミィーな甘さにホッとする。一緒にオーダーした小松菜バナナジュースはさらにさっぱり。まろやかなバナナの風味が青くささを消し去って、とてもおいしい。
幻の1杯と呼ばれるワケ
開店時間を迎えると、お客さんがひっきりなしに訪れてはそれぞれにお気に入りの1杯をオーダーしていく。「オーダーを受けてから1杯ずつ作ります。お渡しするまでに数分かかってしまうんですけど、やっぱり作りたてが一番おいしいので、そこはこだわりですね」
営業時間は平日のお昼12時から15時くらいまでのわずか3時間ほど。さらに不定期に休むこともめずらしくない。
「肝心のバナナがなくなってしまうんです。使っているのはほどよく酸味のあるフィリピンバナナで、皮の表面にいわゆるシュガースポットが現れる完熟状態になるまで寝かせて、最適な状態になったら冷凍します。これを翌日に使うんですね。でも、仕入れ時の状態や時期によっては予定通りに完熟してくれなくて」
巷で人気の“熟成肉”ならぬ“熟成バナナ”。バナナの持つうまみを最大限に高めるために不可欠な待ち時間=熟成期間こそが、幻のバナナジュースと呼ばれる理由だった。加えてバナナジュース1杯につき完熟バナナをたっぷり2本使うため、その数は膨大。そんなこだわりの1杯が、230〜260円のお手頃価格で味わえることに改めて驚く。
「やっぱり気軽に普段使いしてほしいので、これ以上は高くできないですよね。価格を抑えるために人は雇えないし、内装もすべて手作り。実はこのビルも1年ごとに更新が必要な期間限定物件なんです。もしかしたら来年には取り壊されてしまうかもしれないんですけど、そのぶん家賃が安いので、この価格でやっていけるんです」
銀座は下町。気さくな人たちに助けられて
大和田さんは生まれも育ちも東銀座。結婚後は銀座に近い月島や勝どきに住み、2012年まではそこで喫茶店を営んでいた。実家近くのこの場所に戻ってきたのは、2011年の東日本大震災の影響と、物件探しの中での縁が重なってのこと。
「あの震災で喫茶店近くにあった大きな会社が引っ越して、常連さんがいなくなったことを機に喫茶店をたたむことにしたんです。引っ越すことになって、出会ったのがここでした。1階の店舗込みでないと借りられない物件で。これも縁なのかなって思って、もう一度やってみることにしたんです」
運命に導かれるようにして、2014年に店をオープン。狭いうえに、火も使えないので、メニューは喫茶店時代に人気だったバナナジュースのみと決めた。
「バナナジュースだけでやっていくことに不安もあったんですけど、その方がいいよ、って励ましてくれるお客さんもいて。銀座に店を開いてみて感じたのは、お客さんがいろいろアドバイスしてくれるんですよね。アレンジメニューもお客さんのリクエストから生まれたものなんですよ」
サイズ展開したら? 生クリームを入れるのはどう? フレンドリーにそんな声をかけてくれるのは、昔なじみの人たちでなく、店を開いてから知り合った人たちというから意外。「銀座は下町なので、人との交流がマメだし、みんな気さくなんです」と、人情味にあふれる銀座の一面を教えてくれた。店内に飾られたたくさんのバナナグッズも、その多くがお客さんからのプレゼントなのだそう。
「私が子どもの頃は今みたいなキレイな高層ビルなんてもちろんなくて、個人商店が並ぶ普通の町でした。近くにあるハムカツサンドで有名な「チョウシ屋」さんも実は同級生のお店。ずっと住んでいる方が多いので、餅つきや盆踊りなど町内会の活動も活発ですよ」。
明るくて気取りのない、まさに下町気質と言えそうな大和田さんの人柄も、自然と店に人が集まってくる理由。訪れた際は気軽に声をかけてみて。
「BANANA JUICE」オーナー 大和田理恵さん
月島や勝どきで2012年まで、10年ほど喫茶店を営む。そのときのメニューも、バナナジュースと水出しコーヒー、ランチのみ。2014年に東銀座にバナナジュース専門店を開く
SHOP DATA__BANANA JUICE(バナナ ジュース)
自家製完熟バナナと牛乳(調整or無調整の豆乳への変更も可能)のみで作る、なめらかな舌触りと素朴な甘さのバナナジュースが絶品。バナナジュース230円ほか、小松菜やニンジン、ココナッツミルク、甘酒バナナジュース各260円など10種程度がメニューに並ぶ。
TEL.03-6264-3822 ※営業中は出られません
住所:東京都中央区銀座3-14-19
営業時間:12:00~15:30ごろ ※バナナがなくなり次第閉店
定休日:土・日・祝定休
アクセス:東京メトロ日比谷線・都営地下鉄浅草線「東銀座駅」3番出口より徒歩5分
※ツイッター@banana5144にて休日をお知らせ
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PHOTO/KAZUHITO MIURA WRITING/EMIKO OKAZAKI