2020年3月に国立劇場で開催予定だった、通し狂言「義経千本桜」(よしつねせんぼんざくら)の二段目、三段目、四段目全編をYouTubeで特別に公開! 都落ちする悲劇の貴公子・源義経と、平家の武将、知盛・維盛・教経、そして鼓(つづみ)を自分の親と慕う“狐”の情が巧みに絡まった、親しみやすく分かりやすい超傑作なので、おうち時間にじっくり鑑賞してみて。尾上菊之助と尾上丑之助の親子共演もお見逃しなく。
義経、静御前、いがみの権太など、お馴染みの人物が登場する名作「義経千本桜」
「義経千本桜」二段目
「鳥居前の場」では、子狐が義経の家臣である忠信に化けた姿も見ものだ。「渡海屋の場」「大物浦の場」では、凄絶な戦いの後、碇を担ぎ上げて海に投じ、歴戦の勇将にふさわしい壮絶な最期を遂げるダイナミックな演出に注目! 安徳帝役で出演する菊之助の長男・丑之助もお見逃しなく。
あらすじ
「鳥居前の場」京から落ち延びることになった源義経に、同行を許されなかった静御前(しずかごぜん)は、鎌倉からの追っ手に襲われるが、遅れて現れた義経の家来・佐藤忠信によって助けられる。実はこの忠信は、義経が自分の形見にと渡した初音の鼓の皮にされた狐の夫婦の子。つまり子狐が人間・忠信に化けていたのである。変わり果てた親である鼓を慕い、忠信の姿となった狐は、静御前を守護して、都へと向かうのだった。
「渡海屋(とかいや)の場」「大物浦(だいもつのうら)の場」
源義経の活躍で討ち滅ぼされた平家一門。しかし実は、大将の一人・知盛(とももり)は生きており、船問屋の渡海屋の主人・銀平に変装し、義経への復讐の機会を伺っていた。男気にあふれた船問屋の主の姿と、後半の重厚で風格ある平家の大将の姿が、鮮やかな対照をなして描かれる。
「義経千本桜」三段目
平家の武将・維盛(これもり)を軸に、小悪党の「いがみ権太」が主人公として描かれた作品。維盛の旧臣・小金吾(こきんご)による、捕り縄を使った歌舞伎らしい立ち廻りが前半最大の見せ場。また後半は、生活感あふれる「鮓屋」を舞台に、維盛一家のために、名もない庶民が犠牲になる葛藤と悲劇が描かれている。ならず者だけどどこか愛嬌がある“いがみの権太”に感情移入しそう。
あらすじ
大和国下市村のすし屋の主人弥左衛門は、旧恩ある平重盛の子息・維盛を奉公人の弥助としてかくまっている。そこへ現れたのは、勘当の身の惣領息子・いがみの権太。性懲りもなく今日も金の無心にやって来た。やがて弥助の素性を知った権太が、ごほうび欲しさに維盛の首とその妻子を源頼朝の家臣、梶原景時に差し出す。これに怒った弥左衛門が権太を刺すと、権太の口から意外な真相が明かされる・・・。
「義経千本桜」四段目
四段目は亡き親狐の皮で作られた鼓を慕い続けた、子狐・忠信の物語。愛情深い狐の姿を通して、人間界の無常が浮き彫りにされていく様がドラマティックに描かれている。派手な演出と楽しい立ち廻りがあり見どころ満載なので、歌舞伎の魅力を体感できるはず。
あらすじ
義経を慕って春の大和路を吉野へ向かう静御前が初音の鼓を打つと、家臣・佐藤忠信が現れ、旅の供をする。過去のことを思いながら歩む2人の行く手に、吉野の山々が見えてくる。追手を逃れかくまわれていた河連法眼の館で、義経と静御前は再会を果たす。すると義経や静御前の前に2人の佐藤忠信が現れる。その片方は、朝廷の雨乞いのために鼓の皮とされた両親を慕う子狐が、忠信の姿を借りて鼓に付き添っていたのだった。
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WRITING/MAKIKO FUNASAKA