高い歌唱力に裏打ちされた豊かな表現力で、魂を揺さぶるアーティスト・MISIAさん。「アイノカタチ」が大ヒットした記憶も新しい。アジアを代表する歌手として活躍する傍ら、長年、社会貢献活動に真摯に取り組んできた彼女が、初めて書き下ろした絵本「ハートのレオナ」へ込めた思いを伺った。
アフリカ開発会議(TICAD7)の名誉大使就任をきっかけに、夢だった絵本を形に
――ご多忙な中、絵本「ハートのレオナ」を書き下ろそうと思ったのはなぜですか?
私の中でずっと「本当のアフリカを知ってほしい」という気持ちがあり、それが絵本の原点になっています。
音楽を通じ、もともとアフリカには関心をもっていましたが、2005年に世界規模の貧困撲滅キャンペーン「ホワイトバンドプロジェクト」に参加させていただいたのをきっかけに「本当のこと知りたい」と強く思うように。(世界的ロックバンドのフロントマンで社会貢献活動に熱心な)U2のボノさんの勧めもあり、2007年に念願かなって初めてケニアを訪問。様々な場所を訪れましたが、アフリカで最大級と言われているキベラスラムにも行きました。そこで人々の生活や、スラムの中にある小学校を訪れたことで、たくさんの子どもたちと出会い、多くのことを教わりました。実際に見た現実は大変なものでしたが、教育には希望を感じ、アフリカの子どものたちの教育支援に取り組むように。その後、2010年に音楽やアートを通じてより良い世界を作りたいと一般財団法人「mudef」を立ち上げ、今もmudefを通じ活動を続けています。
こうしてアフリカとの縁が深まれば深まるほど、本当にアフリカが伝わり切れてないと感じることが多くなり、誰にでも手に取っていただきやすい絵本でメッセージを伝えられたら、という気持ちが少し前から芽生えるようになりました。今年8月に横浜で開かれる第7回アフリカ開発会議(TICAD7)で2度目の名誉大使に任命されたこともあり、この機会に絵本をぜひ創りたいと思いました。
――これまでたくさんの作詞を手掛けていますが、絵本は初めて。特にご苦労なさったことは?
作詞は極限まで言葉をそぎ落としていくので、それに比べると絵本は多くを語れます。伝えたいことがたくさんあふれすぎて、最初に書いたときは3~4万字にもなってしまい(笑)そこから凝縮させていくのがなによりも大変でしたね。
今回、リサーチのため都内の書店をくまなく回りましたが、アフリカに関する絵本が少ないことに驚きました。また、アフリカのどこを描いているかはっきりしないお話も多いなと感じたので、私が現地に行ったからこそ感じられたリアルなアフリカを伝えたいなと思うように。そこから、主人公のライオンの女の子・レオナちゃんが親友のペリカン・ムワリと一緒に各地を旅しながら、アフリカを知っていく物語にしようと思いつきました。
大宮エリーさんは、溢れる思いを全て受け止めて絵に描いてくださいました
――物語の中に、ご自身が体験したアフリカの文化や人々の暮らしを盛り込んだのですね?
アフリカは50以上の国に多民族が暮らすため、さまざまな側面を持っています。私の実体験を通して、アフリカの多彩な文化や暮らしをリアルに伝えられるのではないかと思ったんです。
たとえば、レオナちゃんは布に包まりムワリに運ばれて旅をしますが、そこでケニアやタンザニアで作られている色鮮やかな「カンガ」という布を登場させました。セネガルでは、「星の王子さま」(サン=テグジュペリ作)でも知られるバオバブの大樹や音楽との心躍る出会いが。その一方で、学校や井戸など、アフリカが抱える現状も描きました。
私がいちばん描きたかったのは、それぞれの場所で出会っていくハート、心の話です。人柄や文化は、その土地に暮らす人々の心が創り出すものだと思うんですね。音楽やアート、ファッション、食べ物など、それらに触れることで、おのずとそこに込められた心に触れることになるのだと。私自身、アフリカ各地でその心に触れるたびに生きる上でのメッセージをたくさんもらいました。絵本なのでフィクションではありますが、そこに込めた輝く命のメッセージは本物なのです。
作画を担当してくださった大宮エリーさんは、mudefの理事で、私の同志。私の思いをすべて受け止めて、素敵な絵に仕立ててくださいました。
ファッションや音楽など、世界中がアフリカに注目しています
――MISIAさんを行動へと駆り立てるアフリカの魅力とはなんでしょうか?
そうですね・・・。アフリカにはいろんな側面があり、ひとことで語るのは難しいというのが正直な気持ちです。ただ、初めてケニアに降り立ったとき、直感的に「すごくいいところ!」と思ったことは今も鮮明に覚えていますね。
当時と今とでは、アフリカは大きく変化しています。日本を含め世界各国が著しい経済成長に注目していますし、文化面でもようやく本領を発揮し始めたのかなと。ナイジェリアのラゴスでは、毎年ファッションウィークが開かれ盛況です。若手デザイナーの中には、ビーズを用いた伝統的な技術と西洋的な発想を盛り込んだ斬新なデザインが評価され、世界的な賞に輝く人も出ています。音楽的には、アフリカのビートとジャズが融合したアフロビートがより広がりを見せ、私の楽曲にも影響を与えています。
――数年前には、ブランドのスーツを着こなすコンゴの紳士たち「サプール」も話題になりましたね?
ええ。「戦うより、おしゃれを」というそのメッセージも世界の人を魅了しましたよね。もっと身近なことでいえば、ノンカフェインのお茶として親しまれているルイボスティーが、実は南アフリカでのみ生産されているのをご存じですか。意外にアフリカとのつながりを感じられるものは身近にありますし、個人的な接点ができるとアフリカが身近な”自分ごと”になると思うんです。
その媒介のひとつとして「ハートのレオナ」が役立てばいいですね。そこに描かれる物語をきっかけに、「私はここに惹かれたから、もう少し深堀りしてみよう」「これって今はどうなってるんだろう」と、ご自分なりに考えるきっかけ作りになればとても嬉しいです。
PROFILE
- MISIA
- 長崎県出身。1998年のデビュー曲「つつみ込むように…」が大ヒットし一躍トップアーティストに。最新アルバム「Life is going on and on」の収録曲「AMAZING LIFE」がTICAD7のイメージソングに決定。9月に全国ツアー「MISIA SOUL JAZZ SWEET&TENDER」を開催。
「ムワリって、実はスワヒリ語でペリカンという意味なんです」と笑うMISIAさん。取材中はアフリカの知識が次々と飛び出し、思いの強さが伝わってきました
「ハートのレオナ」 主婦と生活社 1800円+税
サバンナで両親や姉妹と一緒に暮らす、おでこにハートの模様があるライオンの女の子・レオナ。旅に憧れるレオナを親友のペリカン、ムワリがアフリカ特産の布・カンガに包んで飛びアフリカを周遊する旅へ出る。各地で目にする光景は驚きの連続だった…。MISIAが社会貢献活動を通じて受け取ったアフリカからのメッセージを封じ込めた初の絵本。
HAIRMAKE/HIROKAZU NIWA PHOTO/NOZOMU TOYOSHIMA WRITING/YUKO KITSUKAWA