客席が360°回転！アジアで唯一の劇場で「鑑賞」を超えた「体験」を。新感線☆RS『メタルマクベス』disc3鑑賞リポート

『メタルマクベス』＝通称『メタマク』は生バンドによるロック、ヘビメタなどさまざまな楽曲が盛り込まれた音楽劇。会場は新東京ウォーターフロント、ゆりかもめ「市場駅」から徒歩1分の「IHIステージアラウンド東京」。オランダに次いで世界で二番目に誕生、アジアではここにしかない「円形の観客席が回転する」劇場の中に入ってみる。他にある円形劇場のような、丸いステージを客席が360°囲んでいる風景ではない。円形の中に客席が配置され、その周りを360°ステージが囲んでいるが、正直、「客席が回る」の意味にピンと来ないまま席につく・・・。

物語の舞台は2218年。フェンダー国とギブソン国、ESP国が戦いで火花を散らす中、ESP国の将軍・ランダムスターに3人の魔女が「お前は未来の王になる」と告げる。ランダムスターに渡される80年代に活躍したヘビメタバンド《メタルマクベス》のCD。そのボーカル “マクベス浦井”とランダムスターは瓜二つだった。魔女のお告げの話を聞いた妻は現王の殺害計画を夫にそそのかし・・・？! と、根底は確かにシェイクスピアの四大悲劇「マクベス」！　そこに登場人物の名前を楽器名にするなどの宮藤官九郎さんによるアレンジ、劇団☆新感線主宰・いのうえひでのりさんの演出が加わると・・・？

巨大パノラマスクリーンに映し出される荒廃した都市風景の映像から幕が開き、スクリーンが開くと「マクベス」ではおなじみの3人の魔女が登場。至るところに小ネタが散りばめられており、観客を笑わせながら一気に独特の世界観へ引き込む。でも笑わせるだけでなく、ランダムスターの運命を変える重要なお告げをする役目をしっかりと果たす魔女たち。

そして始まって15分ほどのシーンでは、この劇場機構を最大限に活かした演出が。スクリーンが開き、横いっぱいにセットが登場すると同時に座席が動く。なるほどこういうことだったのか！　約1300の客席を乗せた「盆」が移動する演者を追って、左や右にすーっと回転している。左側のセットでは、将軍ランダムスターがどのように戦いに勝利したかを報告している様子を、右側のセットではその戦いの様子を再現。物語がよりわかりやすく、その世界に自分もいるような空間を演出。物語にのめり込んでいると動いている感覚すらなくなってくるのが不思議。そして、回転は思ったよりも静かで体への衝撃はゼロ（何を心配し何を期待していたのだろう笑）、自分たちではなくステージが回転しているのではないかという錯覚も。

ランダムスター役の浦井健治さん。ミュージカルの時とはまた違い、生バンドによるロックやヘビメタナンバーを歌いこなす姿にワクワク。ステージ床から大きなLEDスクリーンが起き上がり、その前で殺陣のシーンや、客席周囲の通路をバイクで駆け回るシーンは迫力満点。

ランダムスター夫人役には長澤まさみさん。夫を尻に敷き、王の暗殺をけしかける恐妻ぶりは見ていて爽快で新鮮！　しかし夫婦だけになると2人ともかわいらしさが垣間見え、突然飛び出す「ごろにゃん口調」も見所のひとつ。浦井さんと長澤さんは近未来との時代を行き来する80年代のバンドメンバー・マクベス浦井とそのマネージャー・ローズ、という役も演じている。

この360°回転型の素晴らしさは、なんといっても場面転換が驚異的にスムーズ。360°全てに舞台セットが組まれており、客席が場面に合わせてそのセットの方向へ回転。映像が映し出される4枚の巨大スクリーンも可動式で、開閉することで物語がノンストップで続く。まるで自分が荒野や城に一緒にいるような気分に。また、俳優陣が360°の距離をいかして行進したりバイクで走り抜けたりする場面もあり、「舞台袖」が存在しないのもステージの広さを無限に感じさせてくれる。

ランダムスター夫婦に暗殺されてしまう現王・レスポールにはさすが間合い抜群のラサール石井さん。その他、高杉真宙（まひろ）さん、柳下大（とも）さんなど、舞台・映画・ドラマで注目される若手イケメン俳優たちもふりきれた演技を見せている。そして劇中ではセリフだけでなく、細部に小ネタや笑えるポイントがたくさん！　全部見つけられるかも楽しみのひとつで、とにかく最後まで瞬きするのがもったいなかった。

途中休憩含み、全二幕で4時間。言葉で聞くと長いが、テーマパークやロックフェスに行くと一日があっという間のように、『メタマク』でアトラクションとフェスとお芝居を一緒に楽しんだ気分。 シーズンで変わる演出や曲調、衣裳にリピーターが続出しているのも納得。客席の回転、巨大スクリーンと映像、音楽に照明、すべてが融合された“ステージアラウンド”。360°のステージでどっぷり物語に没入できるメタマク体験をあなたも是非！