竹芝桟橋から高速船で3時間半。神話によるとこの島はかつて「神集島」という漢字で表記され、神様が集まる島として知られていました。宗教、神様、潜伏キリシタン・・・。そういう類いのものが大好きな編集マコトとしては、この旅、行く前から期待が高まります
編集マコトの神津島ロケハン日記
東京都とは思えない美しい海と、星空の島
高速船が大島に停泊して港で人が降りてしまうと、いよいよ船は太平洋を外洋に向かって走り出しました。大島までは房総半島と伊豆半島に囲まれた、大まかに捉えれば湾の中を走っていた船も、いよいよ太平洋の外海に漕ぎだすわけで、離島に向かう「気分」はいっそう高まってきます。気のせいか海も一段その青さを深くしたように感じられました。今回の旅の目的は神津島。東京離島は恋の島。その恋が叶ったり深まったりするピースを探す旅です。
竹芝桟橋から3時間と少し。天気は快晴。高速船は心配していた揺れもほとんどなく、気がつけば僕はうとうとと眠っていたようです。目が覚めるとそこは、ここが東京都ということがにわかに信じられないほど青い海の波止場。島の船着き場は2カ所あり、今日の船はメインの神津島港ではなく、風をかわせる多幸港というなんとも幸せなネーミングの港に着いたようでした。
波止場から島のシンボルである標高約600メートルの天上山が見えています。多幸湾側断崖と呼ばれるこの壮大な眺めに、上陸早々圧倒されました。流れの速い雲が山頂あたりを通り過ぎていき、なんだか神々しい雰囲気。そう。ここ神津島はその昔神話の時代に神様が集まった神聖な島なのです。
がんばれ(大丈夫か?)神様。神話のシーンを訪ねて
船を降りるとレンタカー会社の人が港に迎えにきてくれていました。僕らがまず向かったのは、町のメインストリート。その道沿いに広がる前浜海岸は、美しい白砂と青い海が印象的な島のメインビーチです。
ロケハン当日は平日でまだ春の終わりだったため、数人のサーファーを除いて海辺には誰もいませんでした。それでもレンタカー会社の女性は運転しながら海を眺めて「わたしが子供のころ、30年くらい前は今の10倍くらい宿もあって、夏になるとこの海岸は砂浜が見えないくらいの人で賑わったのよ」と教えてくれました。ヨーロッパの海岸沿いの町のような海沿いの道を車で走るだけでも、かなりロマンチック度高めです。
前浜海岸の脇に、この島の名前の由来である「水配りの像」のモニュメントがあります。神話の時代、この神津島で神々が集まる会議が開かれることになりました。会議の議題は「命の源」である水を、伊豆諸島の島々にどのように分配するか? その会議にいち早く現れたのが御蔵島の神様でした。続いて新島、八丈島、三宅島と、続々と島の神様が集まり、水が分配されていきました。だから御蔵島や新島は今でも豊かな水源に恵まれているということです。
しかしこの会議に寝坊して遅刻したのが利島の神様。もうほとんど水が残っていないことを知った彼は怒ってその水に飛び込み(完全に逆ギレ)、その飛び散った水で神津島には至る所に水が湧くようになったと言われています。島を訪れたらぜひこの像も見てみてください。利島の神様、不貞腐れて寝ています。こういう人って、今もときどきいますね。
初日のメインイベント、天上山登山に挑みます
神津島最大のパワースポットといえば天上山。島のシンボルです。春のセッコク、夏には百合、秋はセンブリ、冬になればサルトリイバラと、季節の花々が登山者の目を楽しませてくれるそう。登山道は途中まで階段が整備されているので、初心者でも安全です。
景色は変化に富んでいて、登山の最初は鬱蒼とした木々の中を進みます。そして途中で急に視界が開けたかと思うと、そこからは剥き出しの岩の道になりました。振り返ればそこにはさっきまでいた集落や、広大な海が見渡せる絶景が広がっています。ロケハン当日はオオシマツツジと呼ばれる真っ赤なツツジがあちこちに咲き誇っていて、それは美しい眺めでした。この絶景はひとりで楽しむよりも、圧倒的に誰か大切な人とわかちあいたい。そんな風に思いました。
山頂からさらに20分ほど歩くと辿り着く場所が、この登山のハイライト。ハート型の池として知られる不動池です。これはますます縁結びにも効果がありそうですね。その窪んだ大地に溜まったハート形の池に囲まれるように中州があり、そこに小さな鳥居が建っています。その水に護られた中州には、龍神がまつられていました。あれ? この感じ、なにかで見たかも。。。そう、この場所、映画「君の名は」の、クライマックスのあのシーンに酷似しています。
登山道の入口からこの不動池まで、ゆっくり歩いても1時間半程度。スニーカーで歩けますので、登山はやったことないという人にも安心しておススメできます。
郷に入りては郷に従え。島のドレスコードといえば
宿にチェックインする前に向かったのは島の土産物屋さん。目的はもちろん島でのドレスコード、ギョサンを買うためです。島ではビーチサンダルよりも、圧倒的にギョサンの方がポピュラー。このサンダルの由来は小笠原諸島と言われていますが、伊豆諸島のほとんどの島で買うことができます。
特徴は、なんといってもカラーバリエーションが豊富なこと。スニーカーを脱いで、靴下を脱いで、好きな色のギョサンに履き替えたら、やっと島に着いたなと感じられます。お値段も1足600円程度(島によって微妙に違う)なので、島に滞在している間のサンダルと割り切って、いつもは買わない色にチャレンジしてみるのもいいかもしれません。僕は真っ赤なギョサンをゲット。これで一気に島民に溶け込んだような気分になることができました。
ハーフパンツにTシャツに着替えて、赤いギョサンをつっかけたら、島の居酒屋に向かいましょう。飲食店は多くないので、事前に電話で開いているかどうか確認して出かけることをおススメします。2軒目はぜひ伊豆諸島初の地ビールを開発した島の蒸留所兼バー、Hyuga Breweryへ。と、思ってお腹に余裕を持って2軒目に向かったのですが、お店は臨時休業。帰り道に伊豆諸島随一と言われる美しい星空を見ようと楽しみにしていましたが、こちらも空に雲がかかって見えず。波の音が聞こえるこの暗い夜道に星が瞬いていたら、ロマンチックなこと請け合いなのですが。
島旅あるある。思う通りにいかないのも、たまにはいいものです。島では島の生活のリズムに身を委ねるのが正解ですね。
翌日も快晴。船の時間までのんびり
翌日、目が覚めるとすでに夏のような日差しが照りつけていました。島の太陽は明らかに東京の(ここも東京だけど)それよりパワー強め。日焼けに注意です。
午後いちばんの船の時間までは、車で島を巡ります。神津島は伊豆諸島の中でもとりわけ景勝地の多いところと言われていますので、せっかくなので満喫しようと車を走らせます。美しい弧を描いた静かな入江の沢尻湾海水浴場や、珍しい砂利ビーチの長浜海水浴場など、ビーチでのんびりするもよし。海に飛び込める飛び込み台もあり、シュノーケリングも楽しめる赤崎遊歩道まで足を伸ばすのも。はたまた神津百観音巡りの中でも島の中心地から近く、初心者向けの庵屋堂を約1時間で巡るコースを歩いて、島の信仰心の一端に触れるもいいですね。島には自然のままの見所が満載です。
そうそう、船に乗る前に、神津島港にあるよっちゃーれセンターの2階の食堂で金目鯛の煮付け定食を食べる時間も残しておいてください。僕もこの定食を楽しみに訪問しましたが、なんと2日連続で目の前で売切。とほほ。ここは早めの時間の訪問をおススメします。でも、そのほかのメニューも新鮮な魚介を使った絶品揃いなのでご安心を。満腹になったら、目の前から船が出発です。
1泊2日の滞在で、ずいぶんと長い時間この島にいたような気分になりました。島の時間はゆっくりだから、そしてこの島はコンパクトだから、そう感じられるのかもしれません。次は夏の暑いシーズンにまた来なくちゃです。だってクラフトビールも星空も、金目鯛定食も食べてないですから。旅はその場所にそうやって心残りを作るのも、次に訪問する理由ができるのでいいかもしれません。今度は大切な人を連れて。そう思った短い旅でした。
今回のロケハン日記を書いたのは・・・
編集マコト
オズマガジン統括編集長。公私で日本全国さまざまな場所を飛び回っています。隠れキリシタンの集落を巡るのがライフワークで、ひとり日本の地方を巡り続けています