オズマガジン古川編集長の「F太郎通信2017」Vol.05 2013年6月12日発売7月号「島の旅へ」特集
更新日:2017/04/23
オズマガジンのバックナンバーを少し楽しく読むためのコラム
こんばんは。日曜日。どんな1週間でしたか。
毎週日曜日に書かせていただいているこのコラムもあと2回になりました。毎回読んでくださる方の反応がとても嬉しいものです。いつも本当にありがとうございます。6月12日に、オズマガジンは創刊30周年を迎えます。今まで読んでくださった方々にどのような形で感謝の気持ちをお届けしていけるのかを考えながら、この1年を大切に過ごしていきたいと思います。そしてそのひとつの施策として、現在5月11日までの限定公開ではありますが、オズマガジン過去100冊のバックナンバーを読み放題にさせていただいております。
このコラムでは、僕がその100冊の中から思い入れのある号(どの号にも思い入れはたくさんあるのですが)を6冊ピックアップして、6週間にわたって書かせていただいています。5回目の今日は2013年の7月号「島の旅へ」特集です。
いつもどおり、この号の巻頭に書かせていただいた文章を引用させていただきます。
海が荒れて船がでないこと。
真っ暗な闇が夜を包むこと。
ずっと壊れたままの自動販売機。
わたしたちが不便だと思うことは、
島ではすごく「ふつう」のことで、
不便と不満と不運をぜんぶ一緒にして考えている、
ちいさな自分がいました。ぜんぶ違うことなのに。
雨が上がって剥き出しの太陽があたりを照らし、
名前のない夜に季節の花がひらいていました。
すれちがった知らない誰かがこんにちはと声をかけてくれたとき、
そのことがふつうのことだと感じられたのです。
そして、便利であることと、自由であることを、
はきちがえてはいけないと思いました。
ぜんぶ、島で考えたことです。
きっとわたしたちはきれいな正解を求めすぎて、
臆病な自分を隠そうとしすぎていたのかもしれません。
島ではどんな答えも、ただそこにありました。
正解ではなくて、答えだけがたくさん。
痛みをまぎらわすこともなく、
さみしさを押し殺す必要もない。
喜びは静かにうけとって、
その分の喜びを別の誰かに手渡す。
ありのままの、ふつうを生きること。
島にあるのは非日常なんかじゃなくて、
わたしたちの「暮らし」そのものだと思いました。
忘れていたんじゃなくて、
思い出そうとしてなかっただけ。
今回もオズマガジンを読んでくださって、
ありがとうございます。
初めての島特集です。
今でもよく覚えていることがあって、この号を作るときに考えていたのが「便利さ」と「豊かさ」の違いということでした。オズマガジンのような雑誌を作っていると、どうしても「便利」なものを作ることが最初の目標になります。もちろん僕らもみなさんに便利に楽しくこの本を使っていただくのがいちばん嬉しいので、一生懸命「情報」を集め、編集します。
しかし「便利さ」だけの交換は、お互いを利用するだけの関係性になってしまうことがあります。僕らはみなさんの便利さのために編集した情報を売り、誰かがその情報を買う。これは客観的にみたらわたしたち本の作り手と、読者のみなさんの間で行われている日常的な光景です。いわばふつうのことです。ただ、その交換がエスカレートすると、お互いに強い要求が生まれます。もっと便利なもの。もっと新しいもの。もっと楽しいもの。もっと安いもの。
でも、わたしたちの毎日を彩ってくれるのは、案外「便利じゃないこと」なんじゃないかなとも思うのです。そのなかにある豊かさのことも、読んでくれる人と一緒に大切にしていけるといいなと。それは便利さや効率を否定するものではなく、それらと同じように、便利じゃないことの中にある豊かさを「忘れない」ということでした。
島の旅は、ある意味では不便の連続です。
この本の発売の2ヵ月ほど前、僕はロケハンのために(撮影に行く前にその場所を見て予習をすることです)式根島を目指して、日曜日の朝の竹芝桟橋をひとり出発しました。東京湾を出ると海は荒れ、高速船はものすごい揺れです。シーズンオフで季節外れのその船に人はまばらで、僕は激しい船酔いを我慢しながら丸い窓からじっと外を見ていました。波は高く、窓にはしぶきがかかり、船の傾きで水の中を進んでいるようでした。空はどんよりと曇っています。
そしてその日、船は式根島までの運航ができず(海が荒れて港に船をつけることができないということでした)、船は式根島の手前にある大島に停泊するということでした。
どこでもいいから陸に降りたいと思って大島に降りて、待合室で休んでいると、こんどは海が大しけのため、今日このあとの船はすべて欠航するというアナウンスが流れました。僕は式根島に行けないどころか、島から出ることもできなくなってしまいました。
まだお昼前でした。翌日は月曜日なので朝から仕事です。でも翌朝いちばんの船に乗っても会社には間にあいませんし、海の状況によっては翌日も船がでないことも考えられます。
港のまわりにはいくつかの食堂や土産物屋が並んでいるのが見えました。それらはかろうじて営業はしているものの、店にいる売り子たちもやる気なくぼんやりしています。僕と一緒に船を降りた数人の人たちは、いつのまにかそれぞれの場所に消えていってしまいました。
ほどなくして、こんどは島を出るために港にやってきた人たちで港に人が増えはじめました。そして待合室にあるチケット販売の窓口は、欠航によってその問い合わせに追われていました。港に集まってきた人たちはみんな帰れなくなって困っていて、その待合室は殺伐とした雰囲気になってきました。
外は強い風が吹いていましたが、ときどき晴れ間ものぞいていました。それなのに船が出ないということで、多くの人は職員に詰め寄るように大きな声で質問をしています。
島の人に聞くと、空の天候と海の状況というのは必ずしも一致しないということでした。晴れていても海が荒れることもあれば、雨が降っていても海が静かなこともあるのだそうです。
「まあ仕方ない。ごはんでも食べて考えよう」
僕は諦めて待合室を出て、その辺を散歩してみることにしました。先のことは先になったら考えよう。そう思って食堂に入りビールを頼むと、そんな困った状況にも関わらず、なんだかとても自由な気分が沸き上がってきました。今は午前の11時で、明日の朝まで何もすることがない。そもそも式根島に行く予定だったから大島の情報はなにも持ってなくて、そもそもしなければいけないこともない。ついでに言うと着替えも宿もない。という状況です。
宿の人は急に訪れた僕をあたたかく迎えてくれて、こともなげにこう言いました。
「それは大変でしたね。でも海のことはもう仕方がないから、のんびりなさってください」
この状況を「豊かさ」という言葉で説明するにはさすがに無理があります。でも、あの日のことは今でもよく憶えていて、そのときは不便で不運な状況だったかもしれませんが、今考えるとあの日曜日はとても楽しかったなぁと思うのです。
少し話がそれましたね。島特集の話でした。
僕たちはこの特集をすることで、みなさんにこういう不便な状況になってほしかったわけではありません(もちろんですね)。ただ、食堂のお姉さんの動きのゆっくりさとか、音の割れたラジオから流れていた古いサザンオールスターズの歌、宿の人の何気ないやさしさとか、そういう淡々とした島の日常のことは、ぜひ知ってほしいなと思ったんです。そこには流行のファッションブランドもなければ、ニューオープンのお店もない。タクシーだって呼ばなくちゃ来ない。でもすごく楽しかったんです。そういう日常だって、自分で選べるんだということが、とても自由だと思ったのです。
その「豊かさ」についての意識は、この頃のオズマガジンを作る時にとりわけ強く考えていたことかもしれません。島特集以外でも、僕たちはそのことを考えながら本を作ってきたというブレのなさだけは胸を張れるのではないかと思います。それは編集部みんなの「考え方が揃っている」ということに他ならないと思います。チームみんなで、読んでくれる方の生活の小さな「豊かさ」を考えるきっかけになるということ。
30年を超えて、時代が変化のスピードを上げても、わたしたちはこれからもその時代の中にきちんと存在している、小さな光を拾い集めるように本を作っていけたらと思います。強くて大きなものではなくて、日常の中で見逃してしまいそうな光のようなもの。だってそれをわたしたちは忘れてしまったわけではなくて、思い出そうとしなかっただけだと思うから。だからそれを思い出すきっかけになれたら、そう思うのです。
今日も読んでいただき、ありがとうございました。バックナンバーの公開は5月11日までです。ぜひ読んでいただけたら、この本たちも喜ぶと思います。
では、いい1日を。
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