おもしろいこと、この地から。週 刊 東 北! Vol.021/福島の、会える農家さん【前編】

週刊東北!

【毎週水曜 16:00更新】
今、農家のあり方が少しずつ変わってきている。「食」と「農」の距離を縮めるために、畑にとどまらず、自分たちらしいやり方で私たちに届けるところまでを考える農家さんたち。福島の土地で志高くモノづくりに取り組む生産者と、彼らを応援する人々が集まる「チームふくしまプライド。」もそんな動きのひとつ。「遊びに行ける、開かれた農家さん」の思いとメッセージを2週にわたってお届けします。

更新日:2016/12/14

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農業の師匠である父親の定衛さんと/めごい菜農園のいちばんの人気野菜はホワイトコーン。生でも食べられて梨のような甘さ/除草剤を使わないため、広い農地は季節の草花や虫たちと共存している

西会津「めごい菜農園」渡部佳菜子さん
先祖から続いてきたこの畑が私の居場所です

何代も続く農家に生まれ、子供の頃からいずれは自分も農家になると決めていたというめごい菜農園の渡部佳菜子さん。「農業に誇りを持って取り組む父の姿を見て、小さい頃からカッコいいと思っていました」。その後も気持ちが変わることはなく、農業短期大学で学んだのち就農。

ホワイトコーンが人気のめごい菜農園は約1万㎡ほどの広大な農地ながら、通常多くの農家が雑草駆除のために使用している除草剤を使用していない。「農地の見映えのためだけに除草剤を散布することはしません。草があることで生態系のバランスが取れているのだし、土地全体や環境の未来を考えて」。そして、もともとのミネラル豊富な土壌を生かし、西会津の町で取り組む農家の多いミネラル農法をめごい菜農園でも採用している。
「人がバランスのとれた食事が必要なように、畑の土壌もミネラルを加えバランスの良い土壌作りをすることが健康な植物の成長につながるんです」。
 
農園の野菜から視線を上へと向ければ四方に山々が広がっている。圧倒的な自然を前に「ここが私の居場所」と言い切る佳菜子さんの言葉は、この土地に生きること、そして先祖からずっと続いてきた、ここ西会津の土地で農業を受け継いでいくことすべてを差しているのだろう。


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めごい菜農園に伺ったのは10月。ハウスに少しだけ残っていた今シーズン最後のきゅうり/手を見せて下さいとお願いしたら、恥ずかしそうに差し出してくれた「働き者の手」/見渡せば2000m級の山々が全方囲ぐるり。大自然が広がっている

農業は、幸せ提供業。
もっとみなさんの近くに会いにいきます!

ホワイトコーンをはじめ、雪下キャベツやフルーツトマト、パプリカなど、現在渡部さんの畑で手掛けている野菜は約20種ほど。「珍しい品種を売りにする中で、イタリアンのシェフなどともつながりが生まれました。たとえば、今ではうちの人気商品のヤングコーンはあるシェフからのリクエストにより商品化したもの。これからはもっと品種を絞って、よりおいしくめごい菜農園の野菜であることの付加価値を磨いていきたい」。

渡部さんは「チームふくしまプライド。」にも参加している。メンバーである先輩農家から学ぶことは多いそう。「農業は幸せ提供業だよねってみんなで良く話すんです。おいしいねって食べてもらえることで、私たち農家も大きな力をもらって幸せが循環するんですよね(笑)。今後はもっとこの輪を広げていきたい。
今は私が留守の間に畑を手伝ってもらえる従業員さんもいるので、直接お客さんと触れ合えるマーケットや経営の勉強会など外に出る機会を増やして、めごい菜農園の存在を知ってもらうための方法や農業を盛り上げる方法を模索しているんです」。


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大きな洋梨ゼネラルレクラークを両手に抱える、寺山さんと母の正子さん。制服はピンク、小物はカラフルな色を選ぶのは、農家のやさしさ、温かさを表したいと話す/酸味と甘みがあり、みずみずしい果汁がたっぷり/畑にはヤギの「ももち」ちゃんと「えん」くんの姿が/敷地内の加工場ではいちじくをコンポートに

須賀川市「阿部農縁」寺山佐智子さん
母の漬け物の味をしっかりと受け継ぎます

桃や梨などの果物をメインに50種類ほどの農作物を育てている阿部農縁。その主である寺山佐智子さんは、以前は20年以上も看護師やケアマネージャーをしていたという経歴の持ち主。「相手が“人”から“自然”へと変わり、日々自然のシンプルな反応の気持ち良さを感じています。人は気難しく一筋縄ではいかない場合もあるけれど、自然は手をかけたらかけた分だけ応えてくれるからやり甲斐がありますよ(笑)」。

寺山さんが就農したのは今から9年前。「50年以上農業を続けてきた両親が年をとって来た時に、農業のノウハウや私にとってのお袋の味である漬け物の味が途絶えてしまうのがもったいない、と思ったから」。
 
阿部農縁は農園ではなく、農「縁」と名乗っている。「以前は農園でしたが、私たちの作る野菜や果物を通してできるご縁を大切にしたいと思って改名。地元に根づいていくため、外に出て、お客様の顔を見て販売する機会も大事にしています」。


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完熟をサッと煮ることでフレッシュなおいしさを封じ込めて/敷地内の古民家納屋を改築した農家民宿で/桃、いちじくのコンポートと、完熟桃、りんごの果実を加えた「食べるタレ」(価格など詳細は下記「商品購入ページ」)

農家民宿も開いています。
農家の日常を、ぜひ体験しにいらしてください!

寺山さんの活動の場は畑にとどまらない。「農業は片時も畑から離れられないと思われがちですが、育てるものしだいで時間は作れます。どんどん外へ出て新しいことを学びながら農家の可能性を試していきたい」と話す。チームふくしまプライドに加え、キリン絆プロジェクトの発展型である「キリン魁(さきがけ)プロジェクト」として福島の6軒の農家に選ばれ、経営学を学んだ経験も。

今秋からは6軒の農家が協力し、旬の農産物をおいしく味わうメニューを提案する定期便「ふくしまファーマーズ便」もスタート。現在は畑で採れた野菜で手作りする「農縁おせち」の準備など、常にいくつものプロジェクトが進行している。
「農業の世界は男性が中心。彼らの価値観とまた別に、女性ならではの視点で、無理なく長く続けられる方法を考えていきたいですね」。
 
寺山さんは外につながりを広げるだけでなく、外の人を畑に迎え入れるべく農家民宿も併設している。
「生きることは食べること。一次産業に就く人はもっと自分たちの仕事に誇りを持っていいと思うんです。農家の日常は都会に暮らす人にとっての非日常。いつもと違うことや知らないことを知るのって楽しいことですよね。食べることの原点である農業に触れる中できっと発見もあるだろうし、豊かな経験になるはず。ぜひ遊びにきて下さい」。


【遊びに行ける、福島の農家さん】

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農園にまだ訪れたことがないという人も、ぜひ気軽に訪れてみよう。また、彼女たちの作った野菜や果物を購入できるサイトもぜひチェックして。


●めごい菜農園・渡部佳菜子さん
ホワイトコーンなど約20種の野菜を生産。情熱を持って野菜作りに取り組む姿は、農業の未来を明るく照らしてくれそう。

めごい菜農園
TEL.0241-45-3520
福島県耶麻郡西会津町尾野本字樋ノ口乙183


●阿部農縁・寺山佐智子さん
桃や梨を中心に多品目の農産物と加工品まで手掛ける。農業体験事業や都市-農村の交流を行い、新しい農業の可能性を探っている。農家民宿では、阿部農縁のとれたて新鮮野菜などを使った調理実習も可能。

阿部農縁
TEL.0248-75-2382
福島県須賀川市和田沓掛49-2
※農家民宿 1泊2食(※調理実習込み)1人8500円

●チームふくしまプライド。
2016年秋からスタートした、福島の農産物や農家さんや、応援する人が集まる「食のファンクラブ」。渡部さん、寺山さんもこのチームメンバーで、野菜や果物の旬の時期にはここから商品の購入も可能(現在は寺山さん「阿部農縁」ページがオープン中。詳しくは下記リンクから)。

TEXT/AKIKO MORI  PHOTO/KOHEI SHIKAMA(roku)

※記事は2016年12月14日(水)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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