OZmallが贈るクリスマスストーリー第4話「玉砕覚悟で逆プロポーズ!? 」

クリスマスホテルストーリー

女性サイト「OZmall」が贈る、ホテルで繰り広げられるクリスマスストーリー。遠距離恋愛、幼なじみ、運命の出会い、逆プロポーズなど、クリスマスを前に、さまざまな男女に起こるホテルでの“4つのショートストーリー”をお届け。

更新日:2016/12/22

【第4話・前編】一向に結婚の話をしてくれない彼。待ちくたびれた彼女が決意したのは、聖夜の逆プロポーズ




「お誕生日おめでとう、30代に突入だね」



『ありがとう、いい30代にします』



控えめに刺したローソクを、彼が静かに吹き消す。


今日は彼の誕生日だ。
わたしたちはいつもと同じように、ささやかにこれを祝っていた。


今年用意したバースデーデザートは、純白のクリームでデコレーションされたホールサイズのラズベリーシフォンケーキ。
いかにも美味しいおやつを焼きそうな色白で可愛いお姉さんが切り盛りしている、近くの小さなお菓子屋さんのものだ。
彼は生クリームが苦手だけれど、ここのだけは喜んで食べる。ケーキから焼き菓子までどれも味わい豊かで、お姉さんが丁寧に泡立てるクリームはコクがあるのに爽やかなのだ。


記念日だからとわざわざ出掛けたりしないのは恒例化していて、人ごみが苦手なお互いにとってちょうどよい温度の過ごし方であることに変わりはない。


だがこうして穏やかな空気が漂っている中、わたしにはどうにもやりきれない気持ちがあった。



今日も、何もなかったな・・・。



食事の後片付けをしながらそんなことを考えていると、涙がこみ上げ鼻がツーンとしてくる。



付き合って7年、同棲して2年。わたしたちは、誰もが認める超安定型おしどりカップルだ。
周りから結婚秒読みと言われて数年が経つ。お互いの親にも紹介し合っているし、わたしは彼の親に少なくとも嫌われてはいないと思う。


なのに今日まで、彼が結婚の話を持ち出してきたことはない。


彼は良い意味でも悪い意味でも未練や執着とは無縁の人で、優しいけれど本当に掴みどころがなく、長年連れ添った今もわからないことや距離を感じる瞬間が山ほどある。
思い返せばわたしたちのあらゆることは、常にわたしが半ば強引に決めてきた気がする。

たまにひとりで恋愛している気分にすらなるくらいだが、彼のあっさりしたところを本能的に魅力と認識してしまっているわたしには、この現実に太刀打ちのしようがなかった。


独身の友人だって沢山いるし、結婚していなくてもみんな楽しげに生きている。
それにわたし自身「いつもと同じ」状況が今日も変わらず続いていることに、ほっとする気持ちがあるのも確かだ。


けれど、わたしたちの未来についてどう思っているのか、そもそも「わたしたち」なのかそうじゃないのか。


少しくらい示してくれてもいいじゃない。


ずっとそんなもやもやを抱えていたわたしは、お互い30歳になる今年度に淡い期待を抱かずにはいられなかった。彼からふたりの将来について話をしてくれる日が来ると信じて過ごしてきた。


心の晴れないままリビングに戻り無言で座ると、ウェディングドレスに身を包んだ花嫁がまるでわたしに助け舟を出すかのようにテレビの画面に現れ、幸せいっぱい風の笑顔をつくった。
悶々としたわたしは意を決して、それとなく話題を持ち込んでみる。自分を主語にすることは避けながら、なるべく直接的な言葉を使わないように。


「そういえばこないだウチに遊びに来た子、結婚するんだって。

昔は結婚願望なんてない!って断言してたのに、決めたら早かったなー」



『へぇ。よっぽど相性の良い人に出会ったんだね』



「30までに結婚するとか突然言い出すから、驚いちゃった」



『まあやっぱり区切りの歳なんじゃないの。特に女性にとっては』




そうでしょ?と彼の視線が、年明け早々三十路を迎える予定のわたしに移る。
いきなり核心に近い話題の予感がし、それを望んでいたはずなのにどぎまぎしてしまう。



「ま、まあ色々ハッキリさせたくなったりはするよね~」



色々ハッキリさせたいくせになんだこの曖昧な答え方は、と自分にツッコミを入れながらも肝心なところで怖気づく癖のせいで、不甲斐ないけど今日のところはこれが精一杯だ。



『ふ~ん・・・』



これといった感情も見えない、主体性のない彼の相槌でこの話題はあっけなく終了した。



なんか、みじめだ・・・。



不憫さの蔓延した空気に息苦しくなり立ち上がる。



「アイス買いに行くけど、何かいる?」



わたしが財布だけ小脇にかかえて玄関へ向かおうとすると、寒いから着て、とコートを持ってひょこひょこ付いてきた。



『おれも食べたい。一緒に行こ』



一見淡白で飄々と生きているくせに、まるで犬みたいに妙に人懐くて鼻が利く。わたしもわたしでそれを愛しがるものだから、損ねかけていた機嫌も簡単に直ってしまう。



「今日は誕生日特典で、何でも好きなの買ってあげるよ」



まったく、自分にあっぱれだ。わたしは彼に相当甘い。



『おれ、スーパーカップ』


「安上がりな男だねー」



いつのまにかやりきれない気持ちも忘れかけ、平和な言葉を交わしながら夜道を歩いていると、すれ違った若い女の子が「あ!」と叫んでこちらへ戻って来た。



『先輩!偶然-っ!!』



態度からしてその“若い”女の子は、どうやら彼の会社の後輩らしい。



『あ、ウワサの彼女さんですか?はじめましてー』



屈託のない眩しい笑顔が容赦なくこちらへ向けられる。



「あ・・・こんばんは」


『そういえば最近ここらへんに越して来たって、言ってたね』


『そうなんですー。今度美味しいお店とか、教えてくださいね!』


『うん、まあおれそんなに知らないけど』



若い女の子相手にデレデレしちゃって。


自分と比べた相手の若さと先刻の『ふ~ん』のせいで、普段なら全く気にならないことにもくだらない感情を抱いてしまう。


再びふたりになりコンビニに入っても彼は特に先ほどの後輩について説明をするでもなく、やっぱりこっちにしようかな~と、アイスを選び始める。
わたしも「今の、だれ?」なんて子供っぽいことは聞けなくて、またもやもやだけが残った。



『もうこんな時期かー』



クリスマスケーキ予約受付中!と、大々的にアピールしているチラシを手に取りながら、彼が言う。
今は11月下旬だけれど、ハロウィンが終わった瞬間にクリスマスムードになるのには、この街全体がもう慣れっこだろう。

もやもやに堪えきれなくなったわたしは、クリスマスというイベントにかこつけて、ある決心をした。



“逆プロポーズ”をしよう。



ダメだったらもうこの関係を終わりにしよう。だってとてもじゃないけれど、結婚をお断りされた相手とこの先も連れ添うなんてできない。イチかバチかの賭けだ。


家に帰る道すがら、わたしは彼に提案をした。



「今年のクリスマスは久々に出掛けない?思い出の場所めぐり」


『思い出の場所って?初めてデートしたところとか?』


「うん、恵比寿ガーデンシネマとか」


『よく覚えてるねー』


「おぼえてるよ・・・」



『いいね、思い出ツアー』



なんだかんだ彼だってわたしに甘くて、たまに言う我儘は大抵聞いてくれる。
ありがとう、と心の中で言いながらそっと彼の上着のポケットに手を入れた。


こんな風に過ごせる冬も、最後かもしれない。


自分で決めたことなのに、また涙がこみ上げて来た。


涙腺、弱くなったな・・・。

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ついにやってきたクリスマスイヴ。思い出の場所で口火を切る・・・「伝えたいことがあるの」

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WRITING/RIO HOMMA(OZmall)

※記事は2016年12月22日(木)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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