【30時間で満喫】クラフトビールとフルーツをめぐる春の高知旅/高知県南国市

【30時間で満喫】クラフトビールとフルーツをめぐる春の高知旅/高知県南国市

誕生から間もない注目のクラフトビール醸造所、内緒にしておきたいほどすてきなカフェ、花々が咲き乱れる楽園、そしてフルーツたっぷりのパフェ。束の間訪れた自由時間に向かったのは高知県南国市。ココロとカラダに栄養を補給する、春の高知の南国ショートトリップへ。

更新日:2024/03/28

旅人をうるおすオアシスのようなクラフトビール

出張のすきま時間はうれしい。

春の初めに高知県へ、野菜の取材に出かけた。
取材の約束は翌朝。つまり、この日の午後はまるまる自由に使っていいというわけ。これを最高と言わずしてなんと言おう。

それで高知龍馬空港からリムジンバスとJRを乗り次いで後免(ごめん)駅へ。さらにバスに乗って約10分。田んぼに囲まれた、のどかな住宅地ふうのところにある停留所で降りる。このあたりでおいしいクラフトビールが飲めると聞いたのだ。

タップルームを併設した小さな醸造所で出迎えてくれたのは、ボイド・マットさんとボイド・由貴さん。おふたりが2023年4月に開いたばかりのウェイフェーラー・ブルーイング・カンパニー(Wayfarer Brewing Company)には、大きな窓から気持ちのいい午後の光が注ぎ込んでいた。

「ウェイフェーラー」という初めて聞く言葉に首をかしげていると、マットさんが教えてくれた。
「『旅人』、それも飛行機とか電車とかではなくて自分の足で歩いて旅するような、そんな旅人を意味します」

なるほど! オーストラリア出身のマットさんが東京へやってきて、千葉県で由貴さんと出会って、ふたりでクラフトビール造りを始めたくて各地をめぐり、ついに由貴さんの故郷、高知県南国市でブルワリーを開く。たしかにマットさんと由貴さんのスタイルにふさわしい言葉だ。

そして、マットさんが造るビールもまた旅行者の道のりのように繊細で大胆で冒険に満ちている。
使用するホップは、アメリカ、ドイツ、チェコ、オーストラリア・・・と30種類以上。さらに南国市内で、自分たちの手で9種類を育てる。「収穫してから数時間以内の新鮮なホップを使って仕込むこともあるんですよ」とマットさん。

オーストラリアでは音楽の仕事にも携わっていたというマットさんのビール造りは、旅路のようでもあるし、音楽のようでもある。クラシックではなくジャズ。基本となるスコア=レシピはあるけれど、麦の種類と量、ホップの種類と量、材料を入れるタイミング、温度管理等々、細やかなアレンジを施すことによって毎回違うおいしさが生まれるそう。飲むたびにうれしい驚きがあるんだろうな。

「どんなときも大切にしているのは“プロセス”。最初から最後までビール造りの基本となるプロセスを守れば、ちゃんとおいしいビールができあがる。そこから先は好みの違いでしょうね」とマットさんがほほ笑む。

タップ(ビールサーバー)の数は5つ。常時5種類のビールが飲める。爽やかな喉ごしでゴクゴク飲める「Mist」と、ボディがしっかりして麦の甘みをほのかに感じる「Double IPA」をそれぞれハーフパイント(正確にはPotサイズ)で注文。「好みの違い」とマットさんは言うけれど、それぞれ違ってどっちも好き。おいしいビールはいつでも幸せをくれるのだ。

四国や中国地方だけでなく近畿地方から訪れるお客もいるそうだが、もちろん地元の皆さんにも愛されていて、これまでにハーフパイントのビールを最も早く飲み干したのは、なんとご近所に住む91歳のおばあちゃんだという(しかも驚異の2秒で!!)。

帰り際に缶ビールを3本、ビール好きの友人へのおみやげにと購入する。シックでおしゃれな缶のデザインは由貴さんが考えたそう。幾何学的な線の重なりや円や三角は、由貴さんとマットさんの想い出の場所である千葉県柏市や、趣味の自転車、醸造所のそばにある神社を表しているそうだ。

「南国市は海も川もあって緑豊か。夕焼けや流れる雲を眺めたり、きれいな天の川に見とれたり、特別意識していなくても当たり前のように自然があって、それがビール造りにおのずと影響を与えているんじゃないかと思います」と由貴さん。朝の霧や夕方の空の色をイメージして、ビールに名前を付けることもあるという。

マットさんも「南国市にやって来て本当によかった。子どもたちが毎日元気いっぱいに遊んで、楽しそうにしているのを見るのがいちばんの幸せ」と続ける。まさしく満ち足りた様子のふたりに別れを告げて、ブルワリーをあとにした。

Wayfarer Brewing Company(ウェイフェーラー・ブルーイング・カンパニー)

2023年4月オープン。タップは常時5種がリストオン。Schooner(スクーナー、420ml)1000円~、Pot(ポット、265ml)650円~、CAN(缶、350ml)700円~。炭酸OKのタンブラーを持参するか、購入すれば、量り売りもしてくれる。お酒が飲めない人や車で来た人にはソフトドリンクも。揚げ焼き野菜のアンチョビマリネやサワークリームのポテトサラダ、自家製バケットなどのフードとともにのんびり週末の時間を楽しみたい。

TEL.なし
住所/高知県南国市国分1278-1
営業時間/金・土・日11:00~18:00
定休日/月~木

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公式WEB

おいしい食事と読書の喜び。内緒にしておきたい食堂

ブルワリーから徒歩5分。地図アプリで「雨風食堂」という素敵な名前の食堂を見つけた(というか、ちゃっかり予約していた)。

この日のランチは兵鯛(ひょうだい)の塩焼きの土佐酢おろし、揚げ出し豆腐、天然のもずく酢、海老と木茸の茶碗蒸し・・・と、まるで宝物のように、いろんなおかずがぎゅっとお膳に並ぶ。茶碗蒸しをレンゲですくうと、ふるふるとふるえて温かくて、この日は少し肌寒かったから温度がことのほかうれしい。手作りの鯖の押し寿司のおいしいこと! いりこでだしをとったお味噌汁がじんわりとカラダにしみこんでいく。どれもよい原材料を使って丁寧に作られた味だった。

食堂の名前には「食事と図書」とつく。食事とともに本も売ってるし、本だけではなく本を読むという楽しみも売っているのだと思う。

入り口そばの本棚を眺めながら、図書を担当しているという店主(夫妻のうち夫が食事担当、妻が図書担当なのだそう)のお話を聞くうちに、あれこれほしくなって単行本と文庫本を1冊ずつ、そして「雨風文芸」なるZINEも1冊購入する。もともとパンパンだった旅行鞄が(さっき缶ビールを3本も買ったので)はちきれそう。だけど、後悔はしない。本はどれだけあってもいいものだ。

ちなみに、東京へ戻ってから読み始めた「雨風文芸」がすこぶるおもしろい。「雨風文芸」の書き手たちはユニークで、食堂の図書部門「amekaze books」が主宰する、読書を愛する者たちの寄り合いのような集い「雨風ブックナイト」に参加したことがある人で、テーマに沿って書ける、書きたいと思った人なら誰でも寄稿できるのだという。

これまでに7冊が刊行されていて、5冊目のテーマは「恐怖」。最新号のテーマ「最後まで読むんじゃなかった」と、どちらにするか、さんざん迷ってから「恐怖」を選ぶ。怖いものをのぞき見するのが好きなのだ(読んで後悔するという経験も読書の醍醐味だけど)。

高知に暮らす10歳の少女が感じる「こわい」もの。かつて10歳だった人が布団の中で震えていたこと。おとなになって大切な存在が増えたからこそ恐(おそ)れること。十人十色の「恐怖」を読み、子どもの頃に自分が怯えていたことをそっと手繰り寄せてみる。なぜか2階の納戸にドラキュラ伯爵が住んでいると思い込んで、小学校から帰ってひとり留守番をするのがなにより怖かった。恐怖、こればかりはおいしいビールを飲んでも薄まることはない。

食事と図書 雨風食堂(しょくじととしょ あめかぜしょくどう)

良質な食材や調味料を使ったカラダが喜ぶ食事と、そうそう、これ読みたかったんだよね! という絶妙な選書の両方に心をわしづかみにされる食堂。予約していくのが望ましい。ランチだけでなくスイーツやドリンクなどのカフェメニューももちろんおいしい。営業情報など詳細はウェブサイトでご確認を。「雨風文芸」はウェブサイトから購入することも可能。

TEL.088-862-3344
住所/高知県南国市比江343-4

公式WEB

一年中、花々が咲きフルーツが育つパラダイス

四国在住のフォトグラファーのKさんと合流して、西島園芸団地を訪ねる。巨大な温室ハウスが何棟も立ち並ぶ、まさに園芸団地。駐車場にある、スイカを模した愉快なトイレに思わず笑顔になる。なんて楽しい場所だろう!

ハウスの中に入ると花々の甘やかな香りが鼻孔をくすぐる。スターフルーツやバナナがまるでここは熱帯とでも言うようにすくすく育っている。天井一面から垂れ下がるかのような、ピンクと白のブーゲンビリアは「咲き乱れている」という言葉がぴったりだ。

ひっきりなしに観光客がやってくる。春先はいちご狩りのシーズンでもあり、おいしいいちご目当ての人も多いのだろう。そして、彼ら彼女らの多くがメロンとスイカを食べてから去っていく。いいなぁ。

ちょっとメロンを食べていきましょうよ、とカメラのKさんを誘ってハウスの奥にある「いちごカフェ」へ行き、メロンのスムージーパフェを頼む。Kさんはマンゴーのスムージーパフェを注文した。

やってきたスムージーの上に鎮座するメロンは大きくて、かぶりつくと甘くてジューシーだった。聞けば西島園芸団地ではメロンも、スイカも1本の樹につき1個の実しか栽培しないのだという。大切に育てられたメロンがおいしいのも納得だなぁと思いながら、ストローをズズズーッと吸い上げた。

ここではフルーツはもちろん、200種類以上にものぼる世界の草花やハーブ、食中植物や多肉植物などなど、園内で育つ植物は基本的にすべて購入することができる。Kさんは家族のためにいちごのパックを買って帰った。私も明日の取材がなければ買うのだけれども・・・と悔しく思いながら、代わりに土佐文旦をひとつ、買ったのだった。

西島園芸団地(にしじまえんげいだんち)

ブーゲンビリアをはじめとする世界各国の200種以上の花々を展示するほか、スイカ、メロン、いちご、マンゴーとさまざまなフルーツを年間を通して栽培する、まさに花と果実の楽園。いちごカフェではメロンのスムージーパフェ1280円やメロンのパンケーキ1280円などをいただくことができる。いちご狩りのシーズンは1月~6月初旬、要予約。

TEL.088-863-3167
住所/高知県南国市廿枝600
営業時間/9:00~17:00 ※いちごカフェは9:00~17:00(16:30LO)
定休日/無休

公式WEB

PHOTO/SHINYA KONDO(Wayfarer Brewing Company・Nishijima Horticultural Park), TOMOMI FUKUDA(AMEKAZE SHOKUDO) TEXT/TOMOMI FUKUDA

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※記事は2024年3月28日(木)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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