幽霊より怖いのは欲深い人間!?大金と引き換えに失ったものとは

更新日:2020/05/15

第57回恋する歌舞伎は、残念ながら2020年5月の公演が中止になってしまった、赤坂大歌舞伎「怪談 牡丹燈籠(かいだん ぼたんどうろう)」に注目します!

日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

恋する歌舞伎 第58回
「怪談 牡丹燈籠(かいだん ぼたんどうろう)」

怪談 牡丹燈籠(かいだん ぼたんどうろう)

【1】下駄の音を響かせやってきた、ミステリアスな美女の目的は?

旗本の娘・お露(つゆ)は萩原新三郎という若侍に一目惚れをした。想いが募るあまり気を病み、とうとう焦がれ死にをしてしまう。新三郎はその話を聞いて以来、お露の位牌を設けて念仏を唱える毎日を送っていた。
季節も移りお盆の13日。新三郎の家に、あのお露が牡丹灯籠を携え、乳母のお米を伴い訪ねてきたではないか。お露もお米も死んだはず、という新三郎に対し、「それは2人の恋を引き裂くためのデマ」だと説明される。新三郎はそれを信じ、お露と寝間に入っていく。
そこへやってきたのは、夫婦で新三郎の身の回りの世話をし生計を立てている伴蔵(ともぞう)。家の中から声がするので覗いてみると、新三郎が抱いているのはなんと骸骨! お露とお米はやはりこの世を去っており、あの2人の正体は亡霊。伴蔵はあまりの恐ろしさに我を忘れて逃げ帰るのだった。

伴蔵の妻・お峰(みね)は、近頃夫の様子がおかしいので心配する。この日、蚊帳の内から女性の声がするので、お峰は何事かと伴蔵を問い詰めると・・・。

怪談 牡丹燈籠(かいだん ぼたんどうろう)

【2】百両では安すぎる?命がけのミッション成功により人生は一変する

伴蔵は蚊帳の中で、幽霊のお米から相談を受けていたのだ。それは「お露様が新三郎さんと会えるように懐の仏像をすり替え、家のお札を外してほしい」という頼みだった。

新三郎は、あれ以来毎夜お露と逢瀬を重ねているので死相が出ており、このままでは呪い殺されると占い師から言われていた。そこで新三郎は、お寺からお札と海音如来(かいおんにょらい)の尊像を授けられていたのだ。

伴蔵は、お米の頼みを断れば自分たちも呪い殺されてしまうかもしれない、かといって新三郎がいなくなっては生活が立ち行かなくなると思い悩む。そこでお峰は「百両をくれるという条件で依頼を受ければ良い」と提案する。伴蔵は勇気を出して、お米にその交渉を持ちかけ、了承を得るのだった。

早速、新三郎の家に行き、伴蔵夫婦は新三郎の体を洗うふりをして懐の仏像を別のものにすり替え、家中のお札を剥がすことに成功する。伴蔵夫婦はすり替えた仏像を土に埋め一息ついていると、約束の通り百両の金が空から降ってくる! 手を取り合い喜ぶ夫婦の一方で、新三郎はお露との対面を果たし、とうとう呪い殺されてしまうのだった。

逃げるように江戸を離れた伴蔵とお峰は、百両を元手に「関口屋」という荒物屋(今でいう雑貨屋やホームセンターのような業態)を開き、生活を一変させることとなる。

怪談 牡丹燈籠(かいだん ぼたんどうろう)

【3】お金が人を変えてしまう。狭い家では近くにいた夫が今では・・・

一年後、伴蔵夫婦の暮らしは豊かになったが、羽振りが良くなったせいで伴蔵は気が大きくなり、笹屋という料理屋で働くお国という女性と浮気をしている。このお国がくせ者で、元はお露の父・飯島平左衛門(いいじまへいざえもん)の後妻だったが、江戸で伴蔵の隣家に住んでいた源次郎と不義を重ね、共謀して平左衛門を亡き者にしたという過去がある女だ。

ある日、お峰のところに旧友のお六が訪ねてくる。夫が死に生活に困ってしまったため、かつて貧苦を共にしていた同士のお峰を頼ってきたのだ。夫の心も離れ知らぬ土地で孤独を感じていたお峰は、お六と再会できた嬉しさに、ここで一緒に暮らすことを提案する。

その夜、お国ら笹屋の連中と飲み明かし遅くに帰ってきた伴蔵に、堪忍袋の尾が切れたお峰。馬子(まご:馬を引く職業)の久蔵(きゅうぞう)という男から聞き出した、浮気相手のお国とのことを当てこする。伴蔵はもうお国とは会わないと約束をし、その場は仲直りをしたかのように見えた。しかしお六のことを相談すると「今の身分にあった仲間と付き合え」と突き放される。怒ったお峰は「幽霊からもらった百両を手切れ金に出て行く!」と言い、過去の悪行をつい口走ってしまう。事件が露呈するのを恐れた伴蔵は、その場は必死でなだめるのだった。

怪談 牡丹燈籠(かいだん ぼたんどうろう)

【4】次々に人を消していくのは幽霊か、それとも人間か?

ちょうど同じ頃。お国の帰路にある土手に潜んでいた源次郎が姿を現し、この一年の不幸続きを回想しながら平左衛門を殺した罪を悔いる。これをお国が慰めるが、何者かに誘われるようにして源次郎は飛び交う蛍の群れを追いかけ、転んだ拍子に自らの刀に背中を貫かれる。知らずに源次郎に抱きついたことで、お国の体にも刀が貫通し、共に息絶えるのだった。

一方、伴蔵はお峰に「この土地を離れて一緒に人生をやり直そう」という。そのためにと、埋めておいた海音如来の尊像を掘り起こしに行き、金を作ろうと誘い出す。夫の言葉に機嫌を直したお峰は、どこまでもついて行くと言う。再び仲睦まじい夫婦に戻れると思ったのも束の間。突然伴蔵から斬りつけられるお峰。川に沈め逃げようとする伴蔵だが、このままでは終わらない。お峰の元へ吸い寄せられ、そのまま水の中へと引きずり込まれるのだった。
果たしてこれは幽霊の復讐なのだろうか。それとも・・・。

「怪談 牡丹燈籠(かいだん ぼたんどうろう)」とは

三遊亭円朝原作。円朝の怪談噺を素材として明治二十五(1892)年七月、三世河竹新七による『怪異談牡丹燈籠』初演。その後、昭和四十九(1974)年、文学座のために大西信之が書き下ろした『怪談牡丹燈籠』が、歌舞伎座で上演されている。怪談というジャンルを超え、大金を得て人生を狂わせた人間の悲哀、弱さまでを描き切ったドラマとなっている。

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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※記事は2020年5月15日(金)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります