OZ発、プチトリップ

出雲や松江のお隣・島根県雲南市で地元の人々と触れ合う、ほっこりローカル旅

更新日:2018/10/09

日々ロケハンに出かけたり、個人的に旅をしたりしているOZの編集部にとっては、毎日が新しい発見や出会いに満ちた小さな旅。ページには載らない裏話やエピソードをお届け。今回は、ライターNが島根県・出雲地方の雲南市を旅してきました

(左上)ステンドグラスがかわいい木次駅(きすきえき)(左下)峯寺遊山荘では、土地の恵みを存分に堪能(右上)Bistrot Aubeの黒板に描かれていたのは、外国と思いきや、雲南市の地図(右下)木次線の一両編成の電車も旅情たっぷり 

かわいい駅看板から始まる雲南市の旅

スサノオノミコトVSヤマタノオロチ伝説などの神話の舞台となり、江戸時代から明治時代かけては、たたら製鉄で栄えた島根県の出雲地方。雲南市はこの出雲地方にあり、2004年に6つの町村が合併して誕生しました。出雲大社で有名な出雲市や、国宝の松江城がある松江市に隣接するのも特徴で、島根県の定番観光地とあわせて旅するにもぴったりです。

今回は、出雲地方の女子旅を企画・提案している雲南市観光振興課の鈴木佑里子さんの案内で、地元の文化や歴史を感じながら、地域の人々との触れあう1泊2日の旅をしてきました。

羽田空港から飛行機で約1時間30分の出雲空港に到着すると、まずは鈴木さんとの待ち合わせ場所、空港からタクシーで20分ほどのJR木次駅へ。実はこの駅、2018年4月にお目見えした「き♥(きすき)」の看板がインスタ映えすると話題に。駅員さんたちがホームにあった古い看板をもとに作りあげたそうで、素朴なかわいらしさがなんともいえません。旅の始まりからテンションが高まります。

須我神社
(左)社務所で迎えてくれた地元のお母さん(右上)木次駅から須我神社までは車で30分ほど(右下)ご祭神のスサノオノミコトがヤマタノオロチを退治したことから、“悪切”の神様として崇められているそう

地元の人々が守り継ぐ、歴史ある神社へ

木次駅からまず向かったのは、大東町にある「須我神社」。今もこの地に流れる斐伊川で暴れまわっていたヤマタノオロチを退治したというスサノオノミコトと、妻・クシナダヒメが日本で最初に造ったお宮と伝えられています。良縁結び、子授かりのほか、悪切り開運にご利益があるとされ、病気、人間関係など悪い縁を断ち切って、新たな一歩を踏み出したいと願う人々が全国から参拝にやって来ます。

そんな須我神社は、規模こそ大きくないものの、木造社殿の佇まいが心地よく、境内に入った瞬間から気持ちが穏やかに。参拝の後、社務所をのぞくと、ほがらかな笑顔のお母さんたち。聞けば、地元の方たちが当番制で社務所を守っているとか。地元の人々があたたかく迎えてくれることも、この神社の心地いい雰囲気を作り出しているのかもしれません。

車で5分ほどの地には、巨大な夫婦岩が鎮座する奥の宮が。本社と奥宮への二宮詣での習わしがあるので、どちらも参拝するとご利益が高まるかも。

ビストロオーブ
肉か魚料理が選べるメインにサラダ、スープ、ドリンクが付くオーブランチ1260円。パンも自家製でもちもちの歯ごたえ

参拝の後はビストロで地場産の野菜をたっぷりと

参拝を終えると、ちょうど昼どき。加茂町にある「Bistrot Aube(ビストロオーブ)」でランチをしました。こちらは、2017年11月に地元出身のシェフ・多々納健寿さんが開いたビストロ。料理には雲南市内の農家から届く野菜がふんだんに盛り込まれています。

この日は、肉か魚料理のメインが選べる日替わりのオーブランチを注文。朝早く東京を出発したせいか、とてもお腹が空いていたので、島根の銘柄豚・石見ポーク ヒレ肉のソテーを選びました。ヒレ肉のソテーは、ナイフを使わなくても噛み切れるほどのやわらさ。しかも旬の野菜が10種も添えられていて、久々のバランスのいい食事に身体も喜んでいるようでした。サイドメニューの赤玉ねぎドレッシングのサラダも、ゴボウのポタージュも、思わず心が躍る味わい。その土地ならではのおいしいものに出会えると、旅はいっそう楽しくなります。

菅谷たたら山内
(左)普段からガイド役も務めている施設長・朝日光男さん。子供の頃の遊び場だったという高殿の前で (右)日本に唯一残る高殿は、映画『もののけ姫』のたたら場のモデルになったとか。見学は1名300円 

雲南市を代表する名所で“たたら製鉄”をお勉強

約1400年も前から出雲地方に伝わるという“たたら製鉄”は、日本古来の製鉄技法で、映画『もののけ姫』の中にいも描かれています。この“たたら製鉄”を知るべく向かったのは、吉田町の山あいに残る「菅谷たたら山内」。山内とは、たたら製鉄にかかわる職人たちが働き、暮らした集落のことで、江戸時代の面影を今に伝えています。

「菅谷たたら山内」では、祖父と父がたたらの職人で、この山内で育ったという施設長・朝日光男さんが迎えてくれました。緑豊かな集落には、天保年間建築の元小屋と呼ばれる家屋や、大正期までたたら製鉄が操業されていた高殿と呼ばれる施設などが残され、昔のままの風景が大切に守られています。どんな風に鉄が生産されたかなどを朝日さんからお聞きし、先人たちの知恵や工夫に感心するばかり。日本の産業の偉大さを知るひとときになりました。

たたら鍛冶工房
(左)ペーパーナイフ作りを教えてくれた小林さん (右上・右下)真っ赤な鉄を打つ・・・非日常体験に思わず没頭 (左下)上手にできると、五寸釘がこんなペーパーナイフに。体験料800円、所要時間20分~

ペーパーナイフ作りに挑戦して職人気分を体験

たたら製鉄をちょっと知った気分になると、その扉をもっと広げたくなります。そこで「菅谷たたら山内」から車で10分ほどの「たたら鍛冶工房」でプチ職人体験。五寸釘を素材にしたペーパーナイフ作りに挑戦しました。

教えてくれたのは、工房で和鋼開発に携わる小林憲生さん。初めに小林さんがお手本を見せてくれます。木炭の中で真っ赤になるまで熱した五寸釘を金づちでたたき、グラインダーという機械で削ってナイフに仕上げていくのですが、小林さんの姿を見ているととても簡単そう。

しかし・・・実際に自分でやってみると、釘を思うように打てず、釘を熱して、たたいての繰り返し。それでも、下手なりに結構おもしろくて、高度な工作を楽しんでいる気分に。グラインダーの作業は小林さんにお手伝いいただいて、なんとか完成。不格好だけれど、愛用ペーパーナイフになってくれるはず!

(左)宿泊した「天野館」別邸の客室。庭園が望めます。1泊朝食付き1名7500円~(右上・右下)幸乃家では、オーナーシェフ・吉岡幸浩さん腕を振るう。手前から、外は香ばしく、中はジューシーなうんなんスパイス骨付き鶏961円、雲南市の木次乳業のモッツァレラチーズのカプレーゼ仕立て546円、うんなん卵を使った、だしまきたまご チーズ788円 

老舗旅館に泊まって、評判の居酒屋で晩ごはん。夜も楽しみいっぱい

さて、この日の宿泊先は木次駅から歩いて7分ほど、1891年創業の老舗旅館「天野館」。明治時代に建てられた本館と、大正時代築の別邸からなり、格式ある木造建築が風情たっぷり。遠い昔を訪れたような気分になれて、身も心もゆるんでいくようでした。

夕食は、2018年4月にオープンした三刀屋町の「うんなん咲場 幸乃家」で。雲南市のおいしいものを発信したいと、卵、チーズ、スパイスなど地場の食材を使ったメニューを多く揃え、地域で評判になっている居酒屋です。オーナーシェフの吉岡幸浩さんをはじめ、スタッフは地元愛の強い気さくな方ばかり。食材、お酒についてあれこれ教えてくれるので、次はあれ食べたい、これ飲みたいと、ついつい注文してしまい、はち切れそうなくらいお腹いっぱいに。

宿に帰ったら、お風呂に入って寝るだけと思っていたものの、特別な空間を少しでも多く楽しみたくてちょっと夜更かし。テレビも付けず、ぼーっと過ごす時間がとても心地よく感じられました。

天野館HP
うんなん咲場 幸乃家 Facebook

峯寺遊山荘
大坂さんの奥様が作る山の幸料理2500円。宿泊しなくてもランチで味わえます。要予約

山で暮らす夫妻が土地の恵みでおもてなし

2日目は「天野館」でボリュームたっぷりの朝食をゆっくりいただき、9時半頃にチェックアウト。景色を楽しんだり、ひと休みしたり、のんびりドライブしながらめざしたのは、峯寺弥山の中腹にある「峯寺遊山荘」。みずからを“森番”と呼ぶ、周囲の自然を知り尽くした支配人の大坂雅春さんと奥様が迎えてくれる宿泊施設&喫茶店です。

お目当ては、見晴らしのいい展望喫茶で味わう山の幸料理。山で採れた食材や、旬の野菜を使った料理を使った約10皿の料理がずらりと並び、自家製のイノシシ肉の燻製や、コスモスの天ぷらなど、普段はなかなか味わえないものも。どれも素材の持ち味を活かしたやさしい味わいで、自分でも驚くくらいぱくぱくと箸が進みます。

こちらでは、展望喫茶のすぐ近くで二ホンミツバチのハチミツを採取。宿泊客は朝食にこのハチミツを使ったトーストを味わうのが定番なのだとか。今度訪れるときは、泊まって朝食にハチミツをたっぷりのトーストを・・・そんな思いを抱いて、次の目的地へ。

尾原ダム
(左上)気持ちのいい風景が広がる尾原ダム周辺 (左下)ダム見学では、普段は見られない角度や位置からダムを見ることができます (右上)「庭カフェ」のソフトクリーム400円 (右下)木次町では日本ではまだ貴重な乳牛・ブラウンスイスが放牧されています

地域の安全を守るダムを見学して、旅の最後にソフトクリーム

お腹を満たした後は。30分ほど車を走らせて木次町の「尾原ダム」へ。島根県の内陸にある雲南市ですが、ここへ来ると視界が一気に開けて、開放感のある眺めが楽しめます。事前に申し込んでおくと、ダム管理支所の職員さんらの案内でダムの見学も可。下から見上げる高さ90ⅿの巨大なコンクリートの壁は迫力満点で、シェルターのような内部の見学にもワクワク。ダムの仕組みや役割も知ることができる貴重な体験となりました。

最後に訪れたのは、「ワイナリー奥出雲葡萄園」をはじめ、天然酵母のパン屋さん、革工房など、広大な敷地内にさまざまな施設やお店が点在する「食の杜」。芝生広場の「庭カフェ」で目に留まったのが、ブラウンスイスという乳牛の牛乳で作るソフトクリーム。早速いただいてみると、コクがあるのにすっきりしていて、嫌みのない甘さ。雲南市の旅をおいしく締めくくりました。

今回の雲南市の1泊2日は、訪れるスポットごとに温かな笑顔でもてなしていただいた、心温まるほっこりローカル旅でした。出雲や松江の定番観光スポットに加えると、いつもと違う島根の魅力に触れられるはず。

WRITING/MIE NAKAMURA PHOTO/AYA MORIMOTO

※記事は2018年10月9日(火)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります