オズマガジン古川編集長の「F太郎通信2017」Vol.04 2012年8月12日発売9月号「アート」特集

更新日:2017/04/16

2012年のアート特集。大地の芸術祭の草間彌生さんの作品とKIKIさんの写真が懐かしいです

オズマガジンのバックナンバーを少し楽しく読むためのコラム

 こんばんは。オズマガジン編集長の古川です。このコラムも早いもので4回目。後半戦に突入しました。回を重ねるごとに読んでくださる人が増えて、とても嬉しく思います。コメントの書き込みも、ありがとうございます。

 一方で、今日はじめて読んでくださる方もいらっしゃいますね。簡単に説明すると、このコラムは5月11日までの限定で、毎週日曜日の夜にアップさせていただいております。
 おかげさまで今年6月にオズマガジンは創刊30周年を迎えます。それを記念して、過去約8年分のオズマガジンのバックンバーを期間限定で読み放題にさせていただきました。それをみなさんにも知っていただきたくて、この場をお借りしています。バックナンバーはどなたでも無料でお読みいただけます。ぜひ読んでいただけたらと思います。

 このコラムでは、その100冊近い過去のオズマガジンから僕が6冊を選んで、その号の思い出を書かせていただいています。今回は2012年9月号「アート」特集のお話をさせていただければと思います。

 アート特集は、オズマガジンにとって大切な特集です。今では毎年1回、必ず特集させていただく企画になりました。

 2008年の6月に、にオズマガジンにとっては大きな転機がありました。今まで月に2回発売していたオズマガジンを月刊化し、大きなリニューアルをしたのです。その大事な号の特集に僕らが選んだのが「アート」でした。

 今までは情報誌の特集でアートが取り上げられることはほとんどありませんでした。それまではどちらかというとアートいうのは、知識や経験、ある程度のリテラシーがないと、一般の人のコミットメントが難しい対象として捉えられていたように思います。
 実際アート特集をはじめたこの頃は、アートに詳しい方々にとってオズマガジンは「浅はかな知識でアートを語っている」というややネガティブな認識が強く、毎年思いもよらないところから強い意見や、ときには警告めいた進言をいただいたりもしました。

 でもその僕たちとアートを近づけてくれたのが、今では日本中に点在する、地域とアートを結びつけたサイトスペシフィック(美術館に限らない、特定の場所に存在することを前提に制作された美術作品)なアートの存在です。

 今まではアートというのは美術館で「拝見」するものでした。でもこのアートの潮流は、アートを「拝見」するものから「体験」するものに変えました。その代表が、この2012年のアート特集の表紙にもなっている、越後妻有で行われているアートトリエンナーレ「大地の芸術祭」ではないかと思います。

 「大地の芸術祭」は、新潟の十日町という日本有数の豪雪地域の里山を舞台に、世界的なアーティストがその土地の文化や風習、土地の記憶を活かしてアート作品を制作、展示するという、3年に1回開催されるアートイベントです。このイベントにより、十日町は今ではアートの町として、日本中からたくさんの人が訪れる町になっています。

 このアートと地域活性を同じ文脈で語るという新しい動きは、時を同じくしてこのころに、日本中で生まれました。金沢には『金沢21世紀美術館』ができ、青森県の青森市、十和田市にはすばらしい美術館が生まれました。今ではこの2つの都市は、日本を代表するアートの町になっています。

 このように日常のルーティンの中に、新しい少しの非日常を提案することは、まさに新しいオズマガジンが目指していくべき方向性でした。たとえアートのことは詳しくなくても、わたしたちは旅やお出かけの分野では、プロとして培ってきた誇りがありました。少しの背伸び感はありましたが、アートがこのようにハードルを下げて一般の人を巻き込もうとしているのなら、僕らも少し背伸びしてアートを日常の中に取り込んでもいいのではないか、という気持ちで、新しいオズマガジンの象徴にアートを選んだのです。

 結果的にこの特集は、読者のみなさんに広くあたたかく受け入れていただき、毎年の人気特集になりました。そういう意味あいにおいては「大地の芸術祭」の存在は、今のオズマガジンにとって、とても大きかったと思います。

 僕自身、当時はアートのことをほとんど知りませんでした。でもはじめて大地の芸術祭を訪れて、アートの概念が変わりました。今まではアートに「答えや正解」を求めていて、発信側の意図にたどり着けないであろう自分にコンプレックスを持っていました。でも、ここでアートを見ていると、「答えや正解」はそんなに重要じゃないのかもと思えたのです。はじめて新緑まぶしい新潟を大地の芸術祭を訪れて、アート巡りをした時のわくわくを今でもはっきりとおぼえています。すごく楽しかった。心が自由になっていく感覚がありました。

 そしてこれなら、オズマガジンを読んでくれている人に教えたい、伝えられると思えました。「僕もわからないけど、わからなくても楽しいから、ぜひ体験してみてください」そういう言い方を自信を持ってできると思いました。

 この感覚は、今のオズマガジンにも大きく活かされたと思っています。大切なのは知識じゃなくて、それぞれが感じるそれぞれの感覚なんだということ。価値観は人の数だけあっていいということ。一般論じゃなくて、腹落ちした自分の感覚としてそれが言えた。自分たちの意見として。これは僕らがオズマガジンを作るときに今でも大切にしていることです。

 人の頭で考えられたもっともらしい大きなことより、自分の頭で考えた小さなことの大切さ。その考えに至るのに、毎年定点的にアート特集を続けてこられたことは大きかったと思います。そういう意味では僕らは、アートからたくさんのことを教えていただきました。

 前回に引き続き、このアート特集に僕が寄稿した文章を引用させていただきます。5年前の文章ですが、基本的には今も同じことを思っています。

わたしたちは目に見えるものを信じて疑わず、
言葉だけでなにかを伝えることに違和感をあまり感じません。
そもそも考えなくても答えを検索できてしまう現代を、
わたしたちは生きています。

そんな毎日の中で、それぞれが少しだけ立ちどまって、
いろんなことを自分の頭でゆっくり考えてみる。
そのきっかけになれたらいいなと思って、
このアート特集を作りました。

なぜならときにアートは、あなたに考えることを要求します。
考えるよりも感じることを望んでいるアートもあるでしょう。
もしかしたらそれはあなたを強烈に揺さぶってくるアートかもしれない。
ひとつ言えることはそこに明確な答えが提示されることは少なくて、
だからこそわたしたちの心は、アートの前では予測不能です。

What can you see behind ARTS ?

わたしのその喜びが、サーバーで共有できるものじゃないように。
わたしのこの悲しみが、簡単に言葉にならないように。
自分の中にうごめいている、
このわけのわからない感情や、
予測不能な心の動きを、
自分のものとしてもっと大切に生きるために、
わたしたちは立ちどまって考える時間が必要なんだと思います。
そしてもしかしたら正しくないことも、考えても答えが出ないことも、
ちゃんと肯定してあげることが必要なんだと思います。


 今年も8月にアート特集を予定しています。みなさんに読んでいただいて楽しいものを作れるように、編集部みんなで、まずは今年もアートを感じてみたいと思います。

 また来週お目にかかるのを楽しみにしています。来週はどの特集のことをお話しましょうか。100冊すべてに思い入れがありすぎて、いくつかを選ぶのは本当に難しいのです。

 今週も読んでいただき、ありがとうございました。最新号(鎌倉特集)に合わせて、オズマガジンのバックナンバー、ぜひお楽しみください。5月11日までの限定公開です。

 それでは、いい1日を。

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※記事は2017年4月16日(日)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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