OZmagazine編集長の「F太郎通信2017」3通目

F太郎通信2017

オズマガジン編集長古川が、日々の中で感じたことを、読者のみなさんに手紙を書くようにつづったエッセイのようなものです。

更新日:2017/07/09

F太郎通信2017

ひと文字ずつ、上手に書けなくても、ていねいに

 こんにちは。オズマガジン編集長の古川です。

 7月になったら急に夏の暑さですね。いかがお過ごしでしょうか? 体調を崩されてないですか? きっと毎日お忙しくされていることと思います。どうかお体に気をつけて、元気に夏を楽しみましょう。僕もできることをできるだけ。あわてずいきたいと思います。

 ここでみなさんに手紙を書くようになって、手紙っていいなぁとあらためて思うようになりました。書き終わったあとにポストに投函してみなさんの手元にお届けできればいいのですが、なかなかそうもいきませんので、ここまで見に来てくださったことにとても感謝しています。どうもありがとうございます。

 もうひとつ嬉しかったことが、みなさんがコメントで「手書きっていいですね」とたくさん書いてくださっていることです。僕らは読んでくださっている方の「よりみち」のきっかけになれたらと思いながらオズマガジンを作っています。そのような文脈においては「手書き」も「手紙」も、立派な「よりみち」だと思います。みなさんがそれを「いいね」と思ってくれることは、みなさんに「よりみち」っていいねって思ってもらえるのと同義だなと思いました。
 
 でもそれらの「手書きっていいですね」というコメントには、枕詞のように「最近は手書きしてないけど」、「手紙ってずいぶん書いてないけど」という一言がセットになっていました。僕もこのような機会がなければこんなに手紙を書くことはないと思います。そう考えると、手書きをしたり手紙を書いたりする機会というのは、多くの人にとって「良いとは思っているけど疎遠になっている」という言い方ができるかもしれません。でもそれはどうしてでしょうか?

「手紙」が生まれたとき、手紙が最初に担っていた価値は「機能的な価値」でした。紙が生まれた遥かむかしから、たとえば平安時代には電話もメールもありませんでしたから、人は大切な人への愛情を文にして、その思いを託していました。
 しかし現在の手紙に当初の「機能的な価値」を託す人はもうほとんどいません。手紙以上に効率的で便利なもの、それは電話からメール、そしていまではラインなどのSNSへと、その役割は移行しています。そこでは一瞬で相手にコンタクトでき、一瞬で相手からのレスポンスを受け取ることができます。
 その機能的な価値の進歩は少し恐ろしいほどです。たとえば携帯電話が普及する前(たかだか20年くらい前の話です)、僕らは好きな人との待ち合わせ場所で彼女が10分遅れたら「なにかあったのかな?」とか「気が変わったんじゃないか?」とか思ったものです。

 それでも「手紙」がいまの時代までこうして残っているのはなぜか? それは手紙に「機能的な価値」以外の、なにか別の価値があるからです。

 たしかに手紙を書くのはある意味では面倒くさいし、時間もかかります。効率的な時間の使い方とは決して言えません。でも、効率的な時間の使い方をして手に入れたその時間に、僕たちはなにをしているのでしょうか? たぶんその時間、僕たちはまた無意識に別の効率化を計っている。
 たとえば駅の階段を上っているときに電車の発車のベルが鳴ったとき、僕たちはつい走ってしまいます。でも東京の路線なら、次の電車は3分後にはやってきます。僕らはそこで走って得た3分を、どこにやってしまったのでしょうか。

 こんなふうに無意識的に「効率」を意識する毎日の中で、僕らは自分が失ってきたものに、もう少し意識的であってもいいかもしれません。10分遅れで待ち合わせの場所に走って現れた彼女の笑顔を見たときの喜びのようなものを、僕らは知らず知らずどこかにおいてきてしまったのかもしれません。

 もちろんそれは「効率的」なものやことを否定することではありません。ネットで注文した欲しい本が翌日に届くことは、誰がどう考えても便利ですばらしいサービスです。でもそれと同時に、本屋さんで偶然出会った本を帰り道のカフェで読む楽しみというのも、同時に忘れずにいたいと思うのです。

 ものすごく乱暴な分類をすればそれは「便利さ」と「豊かさ」と言えるかもしれません。どちらがいいとか、どちらが素晴らしいとか言うつもりはありません。手紙は今ではもう「便利」なものではなくて「豊か」なものになった。ただそれだけ。そのどちらもバランスよく毎日の中で持っていたいと、そう思うのです。

 繰り返しになりますが、オズマガジンも、このサイト「よりみちじかん」も、読んでくれるみなさんの毎日に「よりみち」の時間のきっかけになるようなものやことを共有できたらと思っています。そしてオズを使ってあなたがよりみちをした日、あなたが眠るときに「今日はいい1日だったなあ」と思ってもらえたら。そのために僕らはオズを作っています。

 よりみちは「便利さ」と「豊かさ」の分類に分けたら、「豊かさ」の要素が多いと思います。もちろんオズマガジンを、効率よく町を歩くために「便利」に使っていただくことも僕らは大歓迎です。それを二元論で語るのはやめましょう。それはあくまで結果的なものです。
 とにかく「効率」のことは他の誰かに任せて、僕らはこれからも楽しい「よりみち」を探してきます。そして「よりみち」っていいなって思ってもらえるような、示唆のあるモノ作りができたらと思います。たとえばこの文章もそうです。心のよりみち。

 手紙の話から少し逸れてしまいましたね。すみません。

 もしよかったら、あなたも大切な人に手書きの手紙を書いてみてはいかがでしょうか? そこには忘れていたなにかが潜んでいるはずです。書くことはなんでもいいのです。花がきれいだった、旅先の景色をあなたと見たかった、今日は悲しいことがあった。なんでもいいのです。あなたが誰かを思うことが、誰かにとってはきっと嬉しいことになるはずです。

 よりみちしながら、ゆっくり生きましょう。

 ではまた2週間後に。いい1日を。

雑誌OZmagazineは、日々の小さなよりみち推奨中。今日を少し楽しくする、よりみちのきっかけを配信していきます。

  • LINEで送る
※記事は2017年7月9日(日)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

TOP