編集部の「いい1日」リポート

編集部の「いい1日」リポート VOL.029

更新日:2018/02/02

この連載では、編集部員が見つけた「いい1日」のヒントをご紹介していきます。特集のためのリサーチから、個人的な趣味の散歩、その他もろもろ、よりみちで出会ったことや感じたことをつづります。アート好きな編集部員スドウは、地元の千葉市美術館へ行ってきました。

まるでギリシャ神殿のような、迫力ある外観の千葉市美術館。実は千葉市中央区役所との複合施設で、上階が千葉市美術館となっています

今の季節にピッタリの
美術館お出かけのススメ

こんにちは。美術館・展覧会鑑賞が趣味のスドウです。

大雪が降ったりと、今年は厳しい寒さが続いていますね。そんなときこそ、ぬくぬく暖かい美術館お出かけはいかがでしょうか。

美術館お出かけの参考にしてもらいたいのが、オズマガジンで毎月連載している、最新映画や新刊本、美術展情報などを紹介している「カルチャーページ」。美術展コーナーでは、美術ライターさんが厳選した展覧会を毎月3つ紹介しています。

つい私は都内の大型展覧会に目が行きがちなのですが、美術ライターさんは少し遠い美術館やツウな展覧会もしっかりチェックしているので、毎回「こんな展覧会があったのか~」とワクワクしながらおすすめを教えてもらっています。

今回私が行ってきたのも、そんな展覧会のひとつ。現代美術家・小沢剛さんの個展「小沢剛 不完全―パラレルな美術史」。場所は千葉市美術館です。

オズマガジンでは、東京都内の展覧会を中心に紹介していますが、この展覧会は「千葉で少し遠いけど紹介したい!」とライターさんがイチオシしていた展覧会です。

小沢剛さんは、会田誠さんなどと肩を並べる有名美術家。そんな美術家の個展が開催されるなんて、千葉県在住の私としては行かないわけにはいきません。

金・土は20時までやっているところも、休日スロースターターとしては高ポイントです。

大小さまざまな石膏像を使ったインスタレーション≪不完全≫。なかには東京藝術大学に所蔵されている石膏像も

ムズカシイからおもしろい
想像力をかき立てる作品

「ご近所」という甘えからつい家でのんびりし過ぎ、千葉駅に到着したのは18時すぎ。モノレールが空を走る駅周辺の近未来感にワクワクしながら美術館に向かいます。

途中チーバくんグッズが揃う「チーバくん物産館」によりみちしながら15分ほどで到着。

会場に入り迎えてくれたのは、今回のメイン作品である≪不完全≫。美術室でおなじみの「石膏像」を使ったインスタレーションです。

展示室をめいっぱい使った大胆な作品に、心の中で静かに興奮。

石膏像は、日本ではいまだに美術の授業で重要な位置を占めていて、東京藝大の中でも「聖域」とされているそうですが、欧米では既に廃れた存在なのだそう。

こういった美術にまつわる「ねじれ」や「矛盾」、「滑稽さ」こそが、今回の展覧会のキーポイント。

ちょっぴり解釈の難しい作品ですが、そのぶんさまざまな考えや疑問が浮かんできます。

どうして日本では石膏像を使った教育が続いていて、欧米では廃れてしまったのだろう?

日本で美術を学ぶ人は、石膏像ばかりデッサンをしていて飽きないのかな・・・。

石膏像ばかり描いていたら、石膏像的な美しさが日本の芸術家たちの「美の基準」となってしまうのでは?

それってもしかして、芸術家の自由な発想や感性が奪われてしまうかも・・・。

なんて、今まで想像もしてみなかった考えが頭の中をぐるぐる巡ります。


思わず人を考え込ませる力を持った作品に先制パンチを受けつつ、展示室を進んでいきます。

(上)≪金沢七不思議≫内のねぶた作品 (下)西洋の油絵がまだ珍しかった時代に登場した、油絵の見世物小屋を再現した作品。美術館の中にさらに小さな美術館が登場する楽しい展示構成

美術館の中に見世物小屋!?
巡って楽しい展覧会

次の展示は、なんと見世物小屋。展示の入口にはのぼりが立ち、「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」と、見世物小屋へ誘う口上が掲げられています。

展示室内には、金沢に関する七不思議をテーマにした作品が。金沢の伝説「芋ほり籐五郎」をモチーフにした巨大ねぶただったり、醤油で描かれた(!)幽霊画や等身大の天狗像が現れたりと、荒唐無稽な世界観に思わずニヤリとしてしまいます。

さらに進んでいくと、またしても館内に小屋が登場。

こちらは江戸時代に実在した、当時珍しかった西洋の油絵を展示する見世物小屋「油絵茶屋」を再現。浮世絵ではなく、リアルな油絵で描かれたお侍さんや歌舞伎役者が新鮮です。

どうして見世物小屋の展示が多いのかというと、見世物小屋は当時最先端のエンターテインメントを紹介する場であって、ある意味博物館や美術館、展覧会のはしりと考えられるから。今回の個展のテーマである「美術史」にピッタリのしかけなんですね。

≪醤油画資料館≫の展示の様子。世界の名画を醤油で模写した作品が並びます。この濃淡の表現に驚きです!

あの有名芸術家も挑戦した(?)
美しい醤油画に感動

美術館の中にさらに別の施設があるようなこの見世物小屋のしかけ。ワクワクしながら向かった隣の小屋のタイトルは、≪醤油画資料館≫。

なんと日本では古来から醤油を使って絵を描く「醤油画」があったそうで、ここはその貴重な資料を紹介する館とのことでした。

・・・・・・もちろんそんな歴史、ありません!

これは小沢さんが取り組んでいる「醤油画」をユーモアたっぷりに紹介する作品。

昭和の雰囲気漂う資料館の入口が妙にリアルだったり、醤油画がいかに素晴らしいものかを紹介する大真面目な挨拶文が貼られていたり、その徹底された世界観が笑いを誘います。

中には、和歌が添えられた中世の醤油画から浮世絵、現代アートまで、さまざまな醤油画を展示。

作品からは醤油の甘くしょっぱい香りがほのかに漂い、これらが本当に醤油で描かれていることを証明しています。

そして厳重なガラスケースには、リキテンスタインや巨匠ミレーによる(?)醤油画作品もずらり。

大真面目に、そして堂々と展示されている作品を見ているうちに、「あれ、醤油画って私が知らないだけで本当にあるんじゃ・・・?」と錯覚してきてしまいます。

これぞまさに展覧会タイトルである「パラレルな美術史」。

もしもこんなアートが生まれていたら、日本の美術の流れも変わっていたかもしれません。

これらの思わずクスッと笑ってしまう楽しい作品のほかにも、日本の戦争画をテーマにした作品もあり、小沢剛さんというアーティストのさまざまな面に触れることができる展覧会でした。

今回の展示は、示唆に富んだ表現や、あえてすべてを解説していない作品もあり、少し「難しい」と感じる部分もありました。

現代にはゲームアプリや動画など、わかりやすく楽しめるコンテンツがたくさんあふれていて、それらに慣れてしまった私たちにとって、明確な解説やハッキリした答えがないものはとても不便に感じてしまいます。

ですが、それを「よくわからない」で終わりにするのではなく、「これはなんだろう?」「作者はどういう考えだったのだろう?」と想像することが、アート鑑賞をとても楽しく、豊かなものにするのではないでしょうか。

アートは頭と心の栄養であり、体操でもある。

最近自分自身が脳の錆つきを感じているからこそ、自戒を込めて、「わからないこと」も楽しんでいきたいと思いました。

今日もお付き合いいただきありがとうございます。

次回は編集部員クマダがいい1日をお届けします。
それでは皆さん、いい1日を。

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※記事は2018年2月2日(金)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります