F太郎通信2017
F太郎通信2017

OZmagazine編集長の「F太郎通信2017」13通目

更新日:2017/11/26

オズマガジン編集長古川が、日々の中で感じたことを、読者のみなさんに手紙を書くようにつづったエッセイのようなものです。

今年も残りわずかですね。今回は京都より

 こんばんは。オズマガジン編集長の古川です。2週間ぶりです。お元気ですか?

 いま僕は京都にいて、清潔で快適なホテルの部屋でこの手紙のような文章を書いています。真夜中の2時で、あたりはすっかり寝静まっています。この、あたりが寝静まっている時間に文章を書くのは、僕の好きなことのひとつです。それが今日みたいに旅先であればなおさらです。

 先日オズマガジン編集部で呼んでいただいたトークイベントがあって、副編集長のイノウエとデスクのタキセが読者のみなさんの前で話すのを後ろで聞くという機会がありました。そこで2人の話を聞きながら感じたことがあります。それは「あぁ、僕たちは同じ気持ちで本を作っているなあ」ということでした。2人が話すこと、2人が大切にしていると語ることは、すべて僕も大切にしていることでした。そして2人が話さなかったけど彼らの言葉の中に含まれているものも(聞こえないし目にも見えないけど)、きっとほとんど変わらないだろうなぁということも。

 東京の編集部から遠くはなれて、仲間たちから遠くはなれた場所で、京都の真夜中に僕はそんなふうなことを考えています。

 言うまでもなく、それは本当に幸せなことだと思います。

 本作りにかぎらず、ものづくりにおいて、そこにはっきりした正解が存在することはほとんどありません。そこには、それぞれの考えや思いがただただ静かに存在しています。僕らはその考えや思いを、まずは作る人(編集部)同志で共有し、その指針に共感していただいた人(読者のみなさん)に、お金を払って本を買っていただくことができてはじめて、こうして本作りを続けていくことができます。それは「信頼関係」という言葉で言い換えることができるかもしれません。ここで言う信頼は、情報がこれだけ無料の時代に、僕たちの本を買って、使っていただけているということだと思います。

 ただ、くり返しますが、そこには正解も正義もありません。そこにあるのは正しさではなく、ただの信頼です。そしてその信頼だけを頼りに、拠り所にして、僕たちは本を作っています。言うまでもなく、それは目には見えません。

 正解も正義もないということは、そしてそれが目に見えないということは、ある意味では、お金を稼ぐためにその信頼関係をそっと裏切ってバレないようにものづくりをしても、それは誰にも咎められないということです。

 そのなかで自分たちの流儀を守り、それを旗印として風雨に耐えながら守り続けることは、並大抵なことではありません。なぜなら僕たちは読者のみなさんに本を買っていただいたお金が評価に直結しているからです。そして言うまでもなく、お金は目に見えます。

 「あの本はいい本だったけど、休刊しちゃったね」という本は、世の中に数えきれないくらいあります。流儀だけでやっていけるのはきっとほんのひとにぎりで、僕たちはその自分たちがやりたいことと、自分たちが求められるものの中でバランスをとりながら、ものづくりをしていかなくてはなりません。
 
 数字というのは、誰にでも可視可できるとても便利なものです。その誰にでも通じる言語で何かを論じることは、ある意味では人を「仕事している気」にさせます。売上が何パーセント伸びた。利益が昨年対比で何パーセントだった。何倍の目標を掲げる。それをグラフにして資料にすれば仕事をしているようにも見えてくるのも事実です。でもそれは、ただの結果論にすぎません。大切なのはその間にあるコミュニケーションにおいていかにウソをなくしていくか(まったくウソのないものができないのだとしたら、それを本当にできる限り少なくする努力をできるか)ということです。誰かを利用してウソをついて利益を得ても、短期的にはそれでやっていけるかもしれませんが、それが長く続くことはないということを僕たちはもう経験的に知っています。

 売上が何パーセントか伸びたのは、そのモノに内包されたなにかが多くの人の役に立ったということです。そのなにかを言語化し、強みにして自分のものにすることで、僕たちはモノに磨きをかけていかなくてはなりません。そして昨年対比で下がった利益の下がり幅のなかに、自分たちができなかったことを分析し、次に繋げられるなにかを見つけ出すことをしていかなくてはいけません。それらを探していくのが、ビジネスの本質です。数字だけを見て喜んだり悲しんだりすることは、誰にだって簡単にできることなのです。わかりやすい数字だけを見て、それだけを基準に評価し続けていくことは、結局自分たちの活動を痩せさせていくだけになってしまいます。

 話を元に戻すと、僕がそのトークイベントを聞きながら感じたのは、僕たちは同じ旗を見上げ、同じ流儀や思いを共有できているということでした。言うまでもないことですがオズマガジンは小さなメディアで、小さな組織で作っています。それでも人が複数人集まって同じものを作るときに、呼吸を揃えることは案外難しいものです。その呼吸が揃っていると感じられるということは、リーダーとしてなんと頼もしい気持ちでしょうか。

 そして読者の方にお金を出して買っていただく以上は、その思いを同じくし、呼吸を揃えるということは、もう責任とも言えるでしょう。そういう意味合いにおいてオズマガジンは商品としてのスタートラインには立てていると、あらためて感じられることができたトークイベントでした。

 僕たちはその掲げた旗を全員で大切に守りながら、その価値観を広く届けることで、その思いに共感してくれる人を増やし、その結果として、その対価として、はじめてその分のお金をいただくことができる。その順番さえ間違わなければ、僕たちはまだまだオズマガジンを正直に作っていくことができる。そう自信を持って感じることができました。それは本当に安心できる気持ちでした。

 難しいことをつらつらと書いてしまいましたが、真夜中のひとり言と思ってご容赦ください。作り手が自分たちの商品以外の場所で、自分たちの商品を語ることが、果たして良いことなのかというのは議論が分かれるところだと思います。ただ、この「よりみちじかん」というウェブサイトは、オズマガジンを作る編集部の仲間が全員実名で記事を書いている場所ですので、僕もこの本の編集長として正直な気持ちを書くことが正しいことだと信じて、毎回書きたいことを書かせていただいています。

 今週も長い文章にお付き合いいただき、ありがとうございます。夜が深まってきました。そろそろ眠ろうと思います。あなたがもうぐっすりと眠っているといいなと思います。

 ではまた。2週間後に。いい1日をお過ごしください。

OZmagazine WEB よりみちじかん

雑誌OZmagazineは、日々の小さなよりみち推奨中。今日を少し楽しくする、よりみちのきっかけを配信していきます。

OZmagazine WEB よりみちじかんTOP

※記事は2017年11月26日(日)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります