編集部の「いい1日」リポート VOL.012

編集部の「いい1日」リポート

この連載では、編集部員が見つけた「いい1日」のヒントをご紹介していきます。特集のためのリサーチから、個人的な趣味のさんぽ、その他もろもろ、よりみちで出会ったことや感じたことをつづります。今回はフクヘンのイノウエが、神保町の写真展に伺いました。

更新日:2017/09/08

静謐な夜景写真に心打たれて

編集部の「いい1日」リポート
神保町テラススクエアのエントランスロビーが会場。地下鉄各線神保町駅より徒歩2分、東京メトロ東西線竹橋駅より徒歩5分の立地です。

今日は、9月5日からスタートしたフォトグラファー清永洋さんの写真展に行ってきました。会場は、神保町駅からすぐの、テラススクエアという複合ビルのエントランスロビー。天井が高く開放感のある空間です。

清永さんはオズマガジンの表紙の撮影をはじめ(現在発売中の「アートな町へ」特集など)、さまざまなメディアで活躍中の写真家。美しく整えられた構図と、光の流れをつかまえるような写真が、個人的にも大好きな方です。

今回の写真展のタイトルは「Plenum」。“物質が充満した空間、外側より高圧、充実”という意味だそう。被写体となったのは、夜の皇居外苑と、そこにひっそりと佇む黒松です。それは、ひと目で心を奪うものでした。スポットライトを浴びたかのような黒松が、紫紺の空を背景に立つ姿は、神々しさすら感じるほど。わずか9点の展示ながら、その存在感に圧倒されました。

みなさんは、夜の皇居を訪れたことがあるでしょうか。日中は観光客も多いですが、夜も更け21時を過ぎると、周辺を走るランナーもまばらになり静寂が訪れます。僕は何度も夜の皇居を通っていますが、写真に収められたそこは、僕の見たことのない世界でした。異世界に迷い込んだよう、と言ってもいいと思います。

見えない空気を写し取る、写真家の目

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スポットライトを浴びたかのようなに黒松は、非現実的な印象も。ストロボなどの特別な光源は用いずに撮影している。空の色にもぜひ注目を

清永さんはこう言います。

「例えば神社などの人の信仰が集まってきたような場所には、特別な気配があるように感じています。目には見えないのですが、写真にはそれが写ってくれるような気がして、ライフワークとしてこのシリーズを撮りためていました。その中で出会ったのが、皇居です。ここにもやはりなにか独特の空気が流れているように思います。特に、夜になるとその気配が濃くなるような気がして、21時過ぎから日付が変わるくらいまで、3年ほどかけて撮影してきました」

日頃、多くのフォトグラファーと接する中で、ハッとさせられるのはそれぞれに独自の視点を持っているということです。この写真展も然り、彼らの目を通して生まれた写真に写っているのは、明らかに自分の中にはなかった世界。そのたびに、プロフェッショナルのすごさを実感すると同時に、隣にいる人が自分と同じものを見ているとは限らないと教えられるような気がします。

つまり、自分の見ているものが、唯一絶対の本当ではないということ。世界の見え方というのはそんなに単純じゃない。極端に言えば、僕には赤く見えているものが、全員にとって赤いかどうかは、実際のところわからないのです。

そういう視点の相違が可視化されるから、写真はおもしろいなぁと思いますし、写真展という体験は心を揺さぶられるのだと思うのです。

9/15(金)19時~、無料トークイベントが開催されます

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トークイベントでは、作品の背景にあるエピソードなどが聞けるそう。また、こだわりの額装などにもぜひ注目してみて

僕がこの作品の中で好きだったのは、藍色の空でした。いえ、藍色とだけでは表現できない豊かな濃紺のグラデーションが広がっています。それは、長時間露光という技術によって焼き付けられた、肉眼では認識できない世界かもしれませんが、だからこそ清永さんのおっしゃる、「目には見えない気配」が漂っているように感じられました。

次に僕が夜の皇居を通るとき、その空はどんな色に見えるでしょうか。黒松にスポットライトは当たっているでしょうか。それとも、やっぱり僕には今まで通りの平凡な夜景として見過ごされるのでしょうか。そんな想像を巡らせることのできる作品であり、タイトルが意味するところの濃密さも感じ取れたような気がします。

こちらの展示は、11月30日まで(土・日・祝日はお休みなのでご注意ください)。複合ビルのエントランスですので、人の出入りが多く、ギャラリーのような緊張感もなく気軽に楽しめます。同じフロアにコンビニなどもあるため、特に浮くということもありません。無料ですので、ぜひこの貴重な展示を楽しんでください。

また、9月15日の19時からは、清永さんと、この展示に携わっている森岡書店の森岡督行さん、編集者の加藤孝司さんによるトークイベントが行われます。こちらも無料かつ予約不要なのでぜひ。

さて、オズマガジン7月号の「本の町さんぽ」特集でもご紹介した通り、神保町と言えば本の町であり、喫茶店やカレーも有名。展示を見た後、僕は未来食堂さんで食事をし、そのあと喫茶店にでもと思いましたがケータイの充電をしたかったのでタリーズでコーヒーを飲みながら、この原稿を書き始めたのでした。

という感じで、ぜひ神保町さんぽと合わせて楽しんでみてください。それではどうぞ、いい1日を。

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※記事は2017年9月8日(金)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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