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農家さん直伝! 野菜の本当においしい食べ方~秋田・じゅんさい~【連載エッセイ】

更新日:2022/07/20

その野菜の本当においしい食べ方を、人気フードライターの白央篤司さんが、農家さんのキッチンを訪ねて教えてもらう連載エッセイ。今回の主役は、つるりとのど越しのよい、じゅんさい。夏にうれしい涼味ですが、じつはご家庭でも気軽に楽しむ方法があるようです。代表的な産地、秋田県の三種町を訪れて、現地でおなじみの食べ方を教わってきましたよ。

ぷるんと涼やか夏の味!
じゅんさい沼からお届け

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じゅんさいは沼や池に育つ水草の一種で、茎から出た新芽を食べる。丸い部分はつぼみ

じゅんさいが育つ沼の水面(みなも)には、その葉が隙間なく広がっていた。形はハスのそれに似て、幼な子の握りこぶしほどの大きさ。淡い若緑から濃いものまで色が様々で、天然のモザイクが美しく、しばし言葉を失った。

ずっと来たかったんだ、ここに。

秋田県山本郡三種町(みたねちょう)は秋田駅から車で北へざっと1時間ほど、じゅんさいの代表的な産地である。

手を伸ばして、ひとつじゅんさいの葉を触ってみた。茎に触れた瞬間ぬるんとして、思いのほかしっかりした弾力を感じる。ゼリー状の部分がぽってりと厚く、水の衣をまとっているようだった。
「地元ではその部分、ノリとかヌルって呼びます。じゅんさいは早いと4月終わり頃から採れ出して、最盛期は6月ぐらい。ここらでは初夏を感じさせるものですね」と近藤大樹(こんどうひろき)さん、じゅんさい栽培を手掛ける安藤食品の名物社員である。ご当地の食べ方を早速教えてもらった。

「生のじゅんさいは一度ゆがくんです。そのままでいけないこともないけど、ゆでたほうが食感もよくなる」。そのほうが衛生的でもあるんだろう。沸騰直前ぐらいのお湯にゆっくり10秒ぐらいくぐらせ、冷水にとる。水気を切ってワサビ醤油でどうぞ、と出してくれた。

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上左/ゆがいたばかりのじゅんさいのワサビ醤油かけ 上右/じゅんさいのっけ稲庭うどん 下/じゅんさい入りだまこ鍋

ああ、涼が体に入ってくる。唇からスルリと口に入ってくるジェット感がじゅんさいの醍醐味だ。夏の食事のスターターに最高だと思うけれど、ここまでぽってりと″水のジェル″が豊かなじゅんさいも中々お目にかかれない。産地でいただけばこそだ。同じく秋田名物である稲庭うどんの冷やしにたっぷりのせたものも、食感が楽しくて実にいい・・・。そうめんや冷奴、冷やし茶漬けの具にもいいとのこと。

「そろそろ鍋にしましょうか。じゅんさいは熱い汁に入れてもおいしいんですよ!」と、近藤さんがだまこ鍋の支度を始め出した。だまことは、粒が残るぐらいにごはんをついて丸めたもののこと。鶏だしに醤油、酒のおつゆでゴボウのささがき、マイタケ、鶏肉などと一緒に煮ていく。いわゆるきりたんぽ鍋と同じ味わいで、半つぶしのごはんの加工が違うわけである。
「暑い時期でもね、だまこ鍋やるときはやるんです、このあたりは」と教えてくれながら、仕上げにじゅんさいをたっぷりと入れていく。

じゅんさいのぷるんとした部分、煮ても溶けないものだなあ。なめらかで弾むような食感の温かいものが体に入っていく、これは面白い体験だった。口当たりがよくて、夏の汁の実に使われるというのも納得。味噌汁や吸い物に入れる人は多いと聞く。ちなみに、選別所で働く地元のみなさんに聞いたら、そのままワサビ醤油が一番人気であった。シンプルは常に強い。

帰り際、「熱々ごはんにのっけてうずらの卵を落とし、ポン酢で食べるのもおいしい」とも教えてもらった。試してみたらこれが不思議なおいしさ。卵かけごはんがさらにツルッとして、スルスル口に入ってくる感じ。ポン酢の酸味が食欲を刺激して、夏にぴったりの一膳になった。いいもの、教えてもらったな。

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【取材風景より】じゅんさいは一度ゆがくと食感がよくなる。沸騰直前のお湯に入れて10数秒、引きあげたら氷水へ。水を切ってから料理に使う

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【取材風景より】三種町でじゅんさいの加工、販売を手がける安藤食品のじゅんさい沼。5月から8月にかけてが収穫期で、6月に最盛期を迎えるじゅんさい。近年は気候変動の影響で沼の水温が上がり、収穫できる時期が次第に短くなっているという

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【取材風景より】上/「摘み子さん」と呼ばれる摘み手が小舟に乗り、水中で育つじゅんさいの若芽をひとつひとつ手作業で摘み取っていく。その作業は朝8時からお昼休憩を挟んで16時くらいまで続く。摘み子さんの高齢化や、新しいなり手が少ないことは、深刻な問題になっているそうだ 下左/水面に咲く、赤紫色の可憐なじゅんさいの花 下右/水中で細長く丸まっているのが、じゅんさいの若芽

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【取材風景より】収穫したじゅんさいは、これまたひとつひとつ手作業でカットされ、選別される。ゼリー質の多い極小の若芽は贈答品をはじめとする特選品・上級品として、ある程度の大きさに育った若芽は鍋など手頃に楽しむ料理用として。さらに、生で売るものと水煮にして保存がきくようにしたものを、それぞれパックや瓶詰にしていく

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【取材風景より】「NO JUNSAI, NO LIFE.」という力強いメッセージ付きのじゅんさいTシャツがよく似合う近藤大樹さんは、安藤食品の名物社員。「じゅんさい次郎」を名乗り、SNSでその魅力を精力的に発信中だ。写真が趣味という近藤さんが撮影した、じゅんさいの意外な食べ方や三種町の四季折々の風景をぜひInstagramからご覧ください!

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安藤食品

日本一のじゅんさい生産量を誇る秋田三種町で、昭和45(1970)年に創業。夏はじゅんさい、冬はきりたんぽを主に販売する。生じゅんさいや水煮じゅんさい、じゅんさいと比内地鶏スープやだまこもちがセットになった生じゅんさい鍋セットなどは、ウェブサイトから注文できる

文・白央篤司

はくおうあつし フードライター。「暮らしと食」、郷土料理をテーマに執筆。『オレンジページ』、CREA WEB、朝日新聞ウィズニュースなどで連載中。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)、『自炊力』(光文社新書)など

PHOTO/YOSHITATSU EBISAWA
※メトロミニッツ2022年8月号「行ってきました、農家さんの台所。」に加筆して転載

※記事は2022年7月20日(水)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります