恋する歌舞伎

更新日:2017/05/22

天真爛漫か、奔放な小悪魔か。己を過信した女に待ち受ける悪夢

恋する歌舞伎:第22回「名月八幡祭(めいげつはちまんまつり)」

日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。第22回 恋する歌舞伎は、「名月八幡祭(めいげつはちまんまつり)」に注目します! 

【1】ダメ男に貢いでその日暮らし。今が楽しければいいじゃない!?

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美代吉(みよきち)は売れっ子の芸者だが、博打好きの船頭・三次(さんじ)を情夫にしている。ヒモ同然の三次は今日も金の無心に来るが、美代吉は大事なお祭りが控えており、その支度金にも困っているので金を渡すことができないと断る。それに対し三次は「最近、縮屋の新助といい仲になっているからだろ」と言いがかりをつけるので、新助と会っているのはお金を借りるためで相手にするはずもないと説明する。縮屋新助とは、純朴で仕事に真面目な商人だが、田舎から出てきた地味な男のこと。しかし新助は美代吉に惚れており、金まで貸している。

このころ新助は、仕事を終え国元へ帰るため得意先に挨拶に来ていた。そこへ通りかかったのは、美代吉の乗った猪牙舟(ちょきぶね)。その行き先が三次の所だと聞いて内心嫉妬をするが、美代吉の後ろ姿をうっとりとした目で見送るのだった。

【2】その場の感情ですがった女、間に受けて人生を棒に振るう男

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それから数日後、美代吉は祭のために誂えた衣裳の代金が払えずに困っていた。そこへ新助が訪ねてくるので、酒を勧めながら愛想よく接待し、新助を舞い上がらせる。2人で盃を交わしているところへ三次がまたもや金を欲するので、やけになった美代吉は「困っている状況を知っていながら金の無心に来るなんて薄情者だ」と、新助のいる前で三次に愛想尽かしをする。

怒った三次が家を飛び出していったので、美代吉は「今日百両を用意できなければ、衣裳を返さねばいけない、そんな恥をかく位なら死にたい」と猫なで声で新助に訴え、「いっそ新助さんの故郷で暮らしたい」とまでいう。真に受けた新助は「金が用意できれば美代吉さんの顔も立ち、三次とも別れられるんですね」と念を押し、さらにこの家で一緒に暮らしたいという。一瞬戸惑うものの、まさかこの男に金が用意できる訳が無いだろうと楽観視し、美代吉は大歓迎の素振りを見せる。それを聞いて喜んだ新助は大急ぎで金の工面に出かけて行く。

【3】思いがけず手に入ったお金。それで全ては解決、することはなく・・・

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とそこへ、美代吉のパトロンの旗本・藤岡から百両の金が届く。日頃から三次との関係やその生活を心配していた藤岡は、しばらくは美代吉の元へ遊びに行けないからと手切れのつもりで金を渡したのだった。タイミング良く金が湧いて出てきた、と喜ぶ美代吉。

そこへ、さっきは良くも恥をかかせてくれたなと、刀を持った三次がやってくるが、美代吉はただむしゃくしゃして当たっただけだと、すぐ仲直りをし酒を酌み交わす。そこへ新助が、息を切らして百両を持ってやってくるが、別れたはずの2人が仲良く飲んでいる風景に呆然とする。美代吉は金のことはかたもついたので、新助には先方には訳を言って金を返すようにと諭す。しかし新助はもう後戻りすることはできない。なぜなら美代吉と一緒になるという約束を頼りに、親戚中に話をつけ、田舎の家や田畑を全て売り払って、やっとの思いで金を工面したからだ。「もうなにもかも終わりだ」と嘆き、美代吉の家を後にする新助なのだった。

【4】裏切られた男の復讐劇。賑やかな祭の日、血潮が広がる

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今日は賑やかな深川八幡の大祭の日。事件のことはすっかり忘れ、酔いも回って浮かれた様子の美代吉。そこで新助を見つけたので、なにごともなかったかのように挨拶をするが、新助の手には刃物が光っている。新助は美代吉に裏切られ、狂乱状態に陥り、「美代吉はどこにいるか」「あの女は鬼だ」などうわごとを言いながら、さまよっていたのだった。新助は永代橋が落ちるという騒ぎの渦中、因縁の小判を投げつけ、雨降る暗闇でかつて愛した女を刺し殺す。何もかもを失った新助は、不気味な笑い声を残して町の者たちに担ぎ上げられていく。そこに残っているのは不気味な静寂と、美しい満月だけだった。

「名月八幡祭(めいげつはちまんまつり)」とは

池田大伍作。大正7年8月歌舞伎座初演。河竹黙阿弥作「八幡祭小望月賑(はちまんまつりよみやのにぎわい)」を書き直した作品。お家騒動や因果話をカットし、純朴な青年と奔放な芸者の人間性に焦点を当て更に夏の江戸の風俗を織り込んだ新作歌舞伎。フランスの長編小説「マノン・レスコー」に登場する奔放な美少女・マノンが美代吉のモデルになっているという。

(監修・文/関亜弓 イラスト/カマタミワ)

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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※記事は2017年5月22日(月)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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