仇討ち計画の水面下では、それぞれのドラマが

更新日:2018/02/08

日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。第31回 恋する歌舞伎は、「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」の七段目「祇園一力茶屋の場」に注目します! 

恋する歌舞伎:第31回「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」の七段目「祇園一力茶屋の場」

【1】京の祇園で遊蕩三昧。それは世の目をあざむくカモフラージュだった

最近、京都祇園の一力茶屋に大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)という侍が入り浸っている。彼は主人の仇を討つという噂がありながら、連日酒を呑み、遊興に耽っている。今日も泥酔した様子で仲居たちと遊んでいる。しかしこの放蕩ぶりは、もはや由良之助が仇討ちをする気がないと世間に思わせるため。実は水面下で仇討ち計画は進んでいるのだった。

そこへ由良之助と同じ塩冶家の、足軽・寺岡平右衛門(てらおかへいえもん)が仇討ちの一味に加えて欲しいとやってくる。ところが、由良之助は寝たふりをして相手にしない。さらには斧九太夫(おのくだゆう)というスパイもやってくる。この男は元々由良之助と同じ主人に仕えていたものの、いまでは敵方に寝返っているのだ。九太夫はなんとか仇討の計画の証拠をつかもうと、こっそり縁の下に潜んでいた。

【2】秘密の手紙が読まれてしまう! 咄嗟にとった行動とは・・・

1人になった由良之助は、先ほど息子・力弥(りきや)が運んできた大事な手紙を周囲に気を配り慎重に読み始める。ところが、2階で酔い醒ましをしていた遊女・お軽に手紙を見られてしまう! さらに床下には九太夫がおり、縁の下に垂れてくる手紙を盗み読んでいる・・・。

しばらくしてお軽のかんざしが落ちたことで、2人に手紙を読まれていることに気付いた由良之助。そのまま平静を保ちながらお軽に近づき、突然「君を身請けしたい」というではないか。しかも3日一緒にいたあとは自由にして良いというありえない好条件。酷なことではあるが、秘密を知ってしまったお軽を請けだした後、殺そうとしているのだ。そうとは知らず、廓を出ることができれば故郷に残してきた夫に会えると、ただただ喜ぶお軽であった。

【3】身請け話の裏を悟った兄。妹であろうと容赦はしない

由良之助が去ったあと、お軽は平右衛門にばったり会う。実は2人は兄妹で、妹がこの茶屋で働いていると聞いていた平右衛門は、一目会いたいとお軽を探していたのだ。久々の再会を喜ぶお軽は兄に、父は元気か、母は元気か、そして夫・勘平の様子を尋ねる。父も勘平も、お軽が廓に売られてから不幸な死を遂げているが、平右衛門は必死に取り繕う。そうして互いのことを話すうち、お軽が由良之助に請け出されることを聞く。

お軽の夫の勘平も塩冶家に仕えていた武士だったが、由良之助はそのことを知らない。なぜ素性も知らないお軽のことを突然請け出すというのか・・・。疑問に思った平右衛門。そして由良之助は仇討ちの計画を知ってしまったお軽の口封じをしようとしていると悟るのだ。なんとしても仇討ちの徒党に加わりたい平右衛門は、自分の手でお軽に手を下せば由良之助に認めてもらえると考え、刀を振り上げる!

【4】夫がいないのなら生きている意味がない。健気に命を差し出すが・・・

なぜ自分を殺そうとするのか、自分は勘平に会いたいのだと訴えるお軽に平右衛門は、父は殺され、会いたがっている夫の勘平も訳あって自害したと明かす。それを聞いたお軽は驚きと悲しみに打ちひしがれ、夫がいないのならたとえ自由の身になろうとも意味がない。私の死体が役に立つのであればと、兄のために命を差し出す。

そこへ陰で様子を聞いていた由良之助が現れ、2人を止める。そして平右衛門が仇討ちに加わることを許し、志半ばでこの世を去った勘平の代わりに手柄を立てさせるため、お軽の手を添えて、悪人・九太夫の潜む縁の下に刀を突き刺す! これまでの姿とは一転、由良之助は仇討ちの本心を明かし、平右衛門に九太夫の始末を命じるのだった。

「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」の七段目「祇園一力茶屋の場」とは

寛延元年(1748)8月・大阪竹本座で人形浄瑠璃初演。二世竹田出雲、三好松洛、並木川柳による合作。同年12月大阪嵐座で歌舞伎初演。元禄14年、江戸城で浅野内匠頭が吉良上野介に刃傷におよび、内匠頭は即日切腹。翌15年12月、大石内蔵助率いる赤穂浪士が、主君の無念を晴らすべく吉良邸に討ち入った事件を下敷きに作られた。

七段目にあたる「祇園一力茶屋の場」の一力茶屋は、京都祇園甲部にあるお茶屋「一力亭」のこと。由良之助(史実での内蔵助)の色街で遊ぶ色気の中に、忠義を貫く本性をのぞかせる演技が見どころ。

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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※記事は2018年2月8日(木)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります