高知県・中芸地区 ゆずと歴史が香る静かな里山へ(後編)

高知県東部にある中芸地域。この地域にはかつて、山奥で伐採した木材を海に運ぶための森林鉄道が走っていました。
そして時代が流れ、その道にはゆず畑が広がり、秋には村を黄色く染め、ご存じの通り高知県を代表する産業となりました。
その歴史のストーリーがこのたび日本遺産に認定。さあ、往時の歴史を遡る旅へ出発です。

更新日:2017/10/17

森林鉄道からゆずロードへ、歴史を巡る旅へ

魚梁瀬森林鉄道遺構の立岡二号桟道。ここを木材を積んだ森林鉄道が走っていた

「10月から11月にぜひ村に来てください。収穫時の村は一面ゆずの黄色に染まって、村中がゆずの香りに包まれるんです」
今回この旅のきっかけになったのが、北川村をはじめ、奈半利町、田野町、安田町、馬路村の中芸地域5つの町村の日本遺産認定。それはこの地域の主要産業が、林業からゆず栽培へと移り変わるストーリーが評価されてのことだった。馬路村を起点として、海に木材を運び出すための森林鉄道が開通したのが1911年。高知県に旅客鉄道が開通するより早いというところに、この地にとっての林業の重要性がうかがわれる。1963年に森林鉄道が廃止されるまで、それはこの地の人々の日常だったのだ。

「日本遺産認定はもちろんチャンスではありますが、いいきっかけにしたいんです。これを短期的にとらえてPRをするのか、それともその先を見据えた伝え方ができるのか。まだまだ始まったばかりですが、中芸地域のいいところをもっと全国の皆さんに知ってもらいたいし、実際足を運んでもらいたいんです」

モネの庭の山頂から北川村、田野町を望む。中央に左右に架かった橋が森林鉄道遺構の立岡二号桟道
ゆずの収穫は10月にいよいよ本格化する。10/29(日)には北川村でゆずまつり、11/4(土)には馬路村でゆずはじまる祭が開催される。この日をめざして旅の予定を立ててみては

人がなにかに出会うには、きっかけが必要だ。10月下旬、ゆずは成熟し、村を黄色く染め始める。まずはそれを目的にこの村を訪れてみてほしい。そのゆず畑には日本の近代化のストーリーが潜んでいて、それは日本が守るべき遺産と認めた価値のあるもの。ここには十分訪れる価値があると思う。そしてその村には、幕末にこの村から日本を思った中岡慎太郎のように、静かな行動力を持った若者の魂が受け継がれている。それが村役場の吉田さんと村を巡ってみて感じたことだった。

中芸地域を楽しむためのTOPICS

◆安田町(やすだちょう)
山道を走り時代を遡る
森林鉄道の面影を残す町

森林鉄道の遺構が多く残り、馬路村に向かう安田川沿いの道を上っていくと、時代を遡っているような感覚になる。その山道を走り、安田川の橋を渡った対岸に大心劇場という古い映画館がある。今回は時間の関係で映画は観られなかったが、ここで映画を観たらどんな気分だろうか。町に下りてきたら安田まちなみ交流館・和で幕末に活躍したこの町の志士の展示などをチェック。人気スポット、輝るぽーと安田もお見逃しなく。

土佐鶴

良質な酒どころとして知られる高知県を代表する酒蔵、土佐鶴酒造。伝統を守りながら毎年新商品を開発する姿勢は老舗の枠にとらわれない革新的なもの。新商品の早摘み小夏と柚子は土佐市の小夏と馬路村のゆずを使い、アルコール度数も8%。発売以来女性に大人気だそう。

森林鉄道遺構

森林鉄道が廃止になり、軌道撤去が進んだ後も、この中芸地域にはその面影を残す橋梁やトンネルなどの遺構が多く残されている。なかでも安田町には多くのノスタルジックスポットが点在。カメラ片手に、日本の原風景を見つける旅が楽しめる。

◆北川村(きたがわむら)
一面にゆず畑が広がる、
幕末の英雄が生まれた山村

モネの庭の睡蓮は午後になると閉じていってしまうので、午前中に訪れて。睡蓮の季節は秋までだが、晩秋や冬も、季節ごとの楽しみ方ができる。モネの庭と中岡慎太郎館という目的地を巡った後は、県外からも人が訪れる人気店、いごっそラーメン店長へ。それから見逃せないのが、あちこちにある良心市(野菜や果物の無人販売所)。ここでゆずの果汁を買うのが正解。ゆず王国の加工場併設の直売店に立ち寄るのも忘れずに。

モネの庭 マルモッタン

印象派の巨匠であるモネが描いた睡蓮の庭の世界が、そのままと言っていいほど忠実に再現された庭。モネを多数所蔵するフランスのモネ財団が世界で唯一公認しており「モネがジヴェルニーに造り出した庭の精神を見事に表現している」とまで言わしめた。花が咲くのは午前中。時間には注意して。

中岡慎太郎館

坂本龍馬と並び明治維新に貢献した土佐藩の維新の志士で、陸援隊隊長。幼い頃から剛胆な性格と健脚で知られる。明治維新が達成される過程において、坂本龍馬よりも彼の存在が大きかったという説もあるほど。北川村でゆずを育てることを指導し、生家のまわりには大きな実生のゆずの木が。

◆馬路村(うまじむら)
森林鉄道の起点も今は昔
山間のグッドデザインの村

「最終的には馬路の良質な木で家を造ってほしい。その木に触れるきっかけになれたら」馬路村で生まれ育ったエコアスの上治さんはそう話してくれた。広報なのかと思いきや、山に入って木を伐採したり工場の作業にも入るそう。「山を知らない人間が木の製品を売っても説得力がないでしょう?」そう言って笑顔を見せる。馬路は木材で栄えた村。山へのリスペクトを随所で感じられる気持ちのいい場所だった。

田舎寿司

中芸地域の郷土食といえば田舎寿司。通常の寿司でいう酢飯の酢が柚酢(ゆのす)というゆず果汁で作られている。ネタにのるのは野菜が中心。ミョウガ、こんにゃく、タケノコ、一つひとつ違う味付けに箸が止まらなくなる。写真は馬路温泉のレストランでいただいたもの。名産の鮎が絶品だ。

made in 馬路

人口約900人の山間の集落からグッドデザインが生まれている。馬路村農協が製造販売するゆず製品は、統一感があるデザインが印象的。エコアスのmonaccaという木のバッグは知名度も全国的。デザイン性の高さは伊勢丹で販売されることからもうかがえる。

日本遺産に認定。森林鉄道遺構はガイドさんと巡ろう

このたび認定された日本遺産ストーリーの大事な要素である魚梁瀬森林鉄道遺構は、安田川、奈半利川沿いに今も多く残っている。しかしその遺構を見ることはできても、そこにあった物語まで知ることはなかなか難しいのが現実。そこでオススメしたいのがガイドさんとの遺構巡り。「とにかくこんな山奥まで興味を持って来てくれた方につまらない思いをさせたくない」とは馬路村公認むらの案内人クラブ会長の清岡博之さん。清岡さんの遺構の説明を聞いていると、本当に向こうから森林鉄道の汽笛の音が聞こえてきそうな臨場感! ぜひ予約して、一緒に巡ってみては。

「むらの案内人」ツアーのご案内
受付/「まかいちょって家」(9:00~17:00)TEL.0887-44-2333(3日前までに要予約)
料金/4000円(3時間以内・ガイド1人)、6000円(5時間以内・ガイド1人)
※団体ツアーは別料金になります

PHOTO/TAKASHI NISHIZAWA WRITING/MAKOTO FURUKAWA(OZmagazine)

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※記事は2017年10月17日(火)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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