高知県・中芸地区 ゆずと歴史が香る静かな里山へ(前編)

高知県東部にある中芸地域。この地域にはかつて、山奥で伐採した木材を海に運ぶための森林鉄道が走っていました。
そして時代が流れ、その道にはゆず畑が広がり、秋には村を黄色く染め、ご存じの通り高知県を代表する産業となりました。
その歴史のストーリーがこのたび日本遺産に認定。さあ、往時の歴史を遡る旅へ出発です。

更新日:2017/10/17

森林鉄道からゆずロードへ、歴史を巡る旅へ

北川村役場の吉田さん。民間企業から行政の仕事に飛び込み、北川の魅力を発信する。「鉄道遺構を使ってもっと皆さんに楽しんでもらえるコンテンツを作りたい」と奔走中

「古くは中岡慎太郎がゆず栽培を推奨し、森林鉄道が廃線になったときは、当時の行政主導でその鉄道跡の道路沿いにゆずを植えました。結果的にそのときどきの判断が今の北川村を象徴するゆず畑の景色を作っています」
そう語るのは、北川村役場の職員であり、今回の日本遺産認定のPRも担当する吉田さん。彼が連れて行ってくれたのは、村の中心から山道を登ること10分の場所にある、山頂のゆず畑だった。

そこは日本で初めてゆず玉をフランスに出荷したゆず畑。柑橘の海外出荷は規制が厳しい。土壌の状態や数々の検査項目をクリアした農園でないと輸出はできず、今まではほとんど出荷されることがなかった。しかしこの農園のオーナーである田所さんが育てるゆずは、ヨーロッパのシェフたちに大人気に。今では田所さん自身が海外に出向き、説明をしながらその味を広めている。

細い山道を登っていくと看板にはEU向ゆず畑の文字。山頂の広大なゆず畑には穏やかな風が吹き抜けていた
輸出用ゆずの日本の第一人者の田所さん。穏やかな語り口が印象的

「ゆずというのは収穫したら絞り、果汁にしてしまうのが通常です。でも輸出するゆずは穫れたままのものを出荷しますから、虫に食われたり傷が付いたものは当然出荷できません。本来きれいなゆずを作ろうと思ったら農薬をたくさん使えばいい。でもそれも違うし、そもそも出荷の規制にかかってしまう。だからていねいに作るしかないんです。ゆずを育てるのは一年中ずっと大変ですが、質のいいものを作りたい。それだけです」

山を下りながら吉田さんはこう語ってくれました。
「北川のゆずは特にフランスで評価が高く、北川村産だけが欲しいと注文が増えているんです。それは村民にとっても大きな誇り。そのゆずの味を日本の皆さんにも広く知ってほしいんです」
北川村を巡っていると、ここは本当にゆずの村だということがわかる。村で人気のラーメン屋の卓上には自家製の柚子胡椒が置かれていた。良心市(無人の販売所)では、柚酢と呼ばれるゆず果汁が売られていて、北川村ゆず王国の販売機はゆずジュース1択。食卓にはゆず醤油が常備され、家庭の味なんだとか。

北川村ゆず王国の販売機
北川村ゆず王国の販売機。吉田さん曰く「ウェルカムドリンク」だそう

中芸地域を楽しむためのTOPICS

◆奈半利町(なはりちょう)
歴史を感じる古い町並みと
港町の風情が郷愁を誘う

古い町を抜けると、小さな港に出た。その港の向こうに見えるのは雄大で美しい太平洋。ここは古くは森林鉄道に乗って届けられた木材が海へと出て行った港町。森林鉄道の終着点の材木置き場のすぐ近くにある鉄道遺構、法恩寺跨線橋はぜひ歩いておきたい。港町の名残で、この町にスナックをはじめとする飲食店が多いのも特徴。港のすぐ目の前のスナックマドンナという店の看板が映画のセットのようだったのが印象的だった。

ホテルなはり

中芸地域の旅の拠点。レストランの自慢はまぐろ料理。柚子マグロ丼セット18 8 0円は、ごはんの上にマグロの炙りと生のマグロをのせ、その上にゆず絞りの大根おろしがたっぷり。名物の柚子ラーメン770円は、柚子胡椒との意外な相性が抜群。食事だけでも立ち寄れる気軽さが嬉しい。

古い町並み

町を歩いていると、昔の日本にタイムスリップしたような気分になる奈半利の町。複雑な迷路のような路地を入って、地図に頼らない散歩がオススメだ。石積みの石塀の重厚さ、赤煉瓦の蔵、台風や雨の多いこの地域ならではの伝統的な建築様式である水切り瓦の白壁。ノスタルジックな散歩をぜひ。

◆田野町(たのちょう)
四国一面積が小さくて、
町歩きが楽しい町

道の駅 田野駅屋で女子的に見逃せないのが、土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線20駅のキャラクターのピンバッジ。アンパンマンの作者、やなせたかしさんがデザインしている。郷土料理の田舎寿司もぜひトライを。そこから歩いて岡御殿へ。ここは高知全域で開催している大政奉還150周年を記念したイベント、志国高知 幕末維新博の地域会場。土佐藩主が東部巡視の際に本陣とした建物で、林業で財を成した岡家が建築した。

道の駅 田野駅屋

高知県で素通り厳禁なのが道の駅。ごめん・なはり線の田野駅に隣接した道の駅 田野駅屋は、地元の人と観光客でいつも大にぎわいだ。直行したいのがオカンアート(地元の方の手作り商品)の棚。このかわいいバッグは80歳のおばあちゃんが編んだそう。なんとハイセンス!

濱川商店

国の有形登録文化財の蔵は、古い町並みが残るこの町でもひときわ趣深い。日本屈指の雨量を誇る馬路村の魚梁瀬地区を上流とする奈半利川の超軟水を使った日本酒「美丈夫」は、まろやかな舌触り。皮ごと絞ったゆずの果汁を加えた「美丈夫ゆず」と、それに炭酸を加えた「美丈夫ゆずしゅわっ」も人気。

日本遺産に認定。森林鉄道遺構はガイドさんと巡ろう

このたび認定された日本遺産ストーリーの大事な要素である魚梁瀬森林鉄道遺構は、安田川、奈半利川沿いに今も多く残っている。しかしその遺構を見ることはできても、そこにあった物語まで知ることはなかなか難しいのが現実。そこでオススメしたいのがガイドさんとの遺構巡り。「とにかくこんな山奥まで興味を持って来てくれた方につまらない思いをさせたくない」とは馬路村公認むらの案内人クラブ会長の清岡博之さん。清岡さんの遺構の説明を聞いていると、本当に向こうから森林鉄道の汽笛の音が聞こえてきそうな臨場感! ぜひ予約して、一緒に巡ってみては。

「むらの案内人」ツアーのご案内
受付/「まかいちょって家」(9:00~17:00)TEL.0887-44-2333(3日前までに要予約)
料金/4000円(3時間以内・ガイド1人)、6000円(5時間以内・ガイド1人)
※団体ツアーは別料金になります

PHOTO/TAKASHI NISHIZAWA WRITING/MAKOTO FURUKAWA(OZmagazine)

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※記事は2017年10月17日(火)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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